43話 スキルブレイク
「何だ? ほとんど死んじまってるじゃねぇか」
「この程度の試練も耐えられないとは……嘆かわしいねぇ」
光の中から現れたのは、ガーロンとダンログだった。
しかし異形化した者達とは違い、肉体的な変化は見られない。
「ライル」
ガーロンは下卑た笑みで俺の名を呼ぶと、散乱する死体から1本の角をバキリと折り取る。
それを無造作に手で弄び、
「死ねっ!」
――速いっ!?
半歩左に避けると、顔の右側を角が通過していく。
轟音が唸り、衝突すると同時に建物を崩壊させた。
「こりゃスゲーな。力が漲ってくるぜ」
「くくくっ。素晴らしいねぇ」
明らかに人の膂力を超えている。
「彼等は神気を纏っているみたいだね。神の端くれになったって事かな」
「そうですか」
ゆっくりと息を吐き出して、俺は気を引き締める。
「ライル。お前は俺が殺す。絶対にだ!」
「拷問の借りを返させてもらうよ」
ガーロンは俺をギラリと睨み付け、ダンログは舐めるような視線を向けてきた。
「やれるもんならやってみろ」
静かに答え、ダガ―を構えて対峙した。
「ゴミが! 斬り刻んでやるよ!」
「だったらさっさと掛かってこい。いつまでも雑魚が吠えるな」
「何だとっ!」
「煩いんだよお前は。静かにしろって昔から何度も言ってるだろ。学習しない馬鹿はこれだから困る。はぁ……俺達の屋敷にいた時は、あんなに大人しく玩具になってたのになぁ」
ヤレヤレと言った体で挑発してやると、ガーロンの腕がプルプルと震え始めた。
「ふざけやがって!」
怒りに任せて俺へと迫る。
スピードは速いが猪突猛進だ。
小細工をするでも無く、真っすぐに突っ込んで来る。
「死ねやぁあああああああああ!」
ガーロンの筋肉が膨れ上がった。
何の変哲もない大上段からの一撃だ。
俺は上段に構えたダガ―で迎撃態勢をとるが、
「《スキルブレイク!》」
刃が交錯する直前でダンログが叫んだ。
――変だ。
些細な違和感があった。それは冒険者として闘い続けてきた勘だったが、
俺はカウンターを使うのを咄嗟に止めて、ダガ―上を滑らせるようにガーロンの大剣を受け流していく。
「くそっ!」
ガーロンは悔しそうに吐き捨てた。
直後、ガーロンの大剣は勢い余って地面に衝突する。
その衝撃は地割れを生んで、異形の死体を次々に呑み込んでいった。
――なんて威力だ。
俺は警戒しながら後ろに跳んで、2人から大きく距離をとる。
「チィッ。カウンター使ってりゃ潰してやったのによ」
ガーロンの顔が憎悪に歪む。
「小賢しいゴミが!」
「落ち着きなよガーロン。焦る必要はないさ。獲物はもっといたぶってから仕留めるべきだろう?」
ダンログが舌なめずりをすると、ガーロンは大剣を肩に担ぎ上げる。
「咄嗟の判断は見事だったねぇ。カウンターを使っていれば、お前の命の灯は消えていたところだ」
「俺に魔法でも掛けたのか?」
「ご名答。お前は、しばらくスキルを使えないよ」
俺は《鷹眼》スキルを使って動体視力を高めていた。
あの時、その効果がキャンセルされたから身体に違和感を感じたんだ。
「くくっ」
ダンログは喜色満面でこちらを見る。
「スキルブレイクの魔法さ」
「聞いた事がない魔法だ。それはダンログ君の家に伝わるオリジナルかい?」
アルトス侯爵家には、クリフさんでも知らない秘伝の魔法がある。
「違うよクリフ・ローレン。我がアルトス侯爵家に伝わる魔法ではない。これは私が先程創成したばかりの魔法なのだよ」
「創成した? スキル神イーグリーフでもない君が?」
「まあね。さしずめ『新しきスキル神ダンログ・アルトス』といったところかな」
俺達にとって厄介な敵になったというわけか。
警戒する俺達を見て、ダンログは嗜虐的に笑う。
「先程はガーロンの攻撃を上手くかわせたようだけど、それもいつまでもつかな?」
「丸一日くらいはもつだろうな」
俺は余裕の表情で答える。
「けっ。ゴミが余裕ぶってんじゃねぇよ。お前はカウンターを使えねぇんだぞ?」
「ライル。確かにお前のカウンターは驚異的だよ。だがそのカウンターは封じさせてもらった。つまり、どうなるか分かるよねぇ?」
「へっへ。逃がさねぇぜ。ぶっ殺してやる!」
もう勝ったつもりでいるようだ。
「お前とクリフ・ローレンと娘。神となった私達を相手に、たった3人でよもや勝てるとは思わないだろう? くくっ。時間を掛けていたぶってあげようじゃ――」
俺は素早くナイフを取り出して投擲した。
ダンログの左腕へと突き刺さる。
「残念。痛みなんて感じないねぇ」
「こんなシケた攻撃が俺達に効くとでも思ってんのか?」
――カウンター以外の攻撃が通ったのは久しぶりだ。
「アンチスキル効果か。良い魔法スキルだな。大事にしろよ」
俺の言葉にダンログが怪訝な顔を見せる。
「一つ言っておくが、お前等の相手なんて俺一人でも楽勝だからな?」
「てめぇ……」
「いいからさっさと掛かってこい」
「口の減らねぇ奴だなぁああああああ!」
「《火炎魔竜》」
ガーロンと共に炎の魔竜が突進してくるが、動きは非常に読み易い。
俺は右に左にと身体を捻り、攻撃を紙一重で避けていく。
「逃げてばかりじゃ――」
斬っ!
高速のステップで右に避けると同時に、ガーロンの左腕を斬り飛ばす。
その左腕をダガ―ですくい上げて炎の魔竜にぶつけてやると、炎の魔竜は赤々と燃え上がって消滅した。
「逃げてばかりじゃ何だって?」
俺を見るガーロンの目には、僅かだが畏怖の念があった。
「お前等、連携すら出来てないな」
俺の動きを読もうともせず、かと言って時間差を使って仕掛けてくるでもない。
力任せの単なるゴリ押しだ。
「本当の戦いを教えてやるよ」
俺は言い放った。




