表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

43/49

43話 スキルブレイク

「何だ? ほとんど死んじまってるじゃねぇか」

「この程度の試練も耐えられないとは……嘆かわしいねぇ」


 光の中から現れたのは、ガーロンとダンログだった。

 しかし異形化した者達とは違い、肉体的な変化は見られない。


「ライル」


 ガーロンは下卑た笑みで俺の名を呼ぶと、散乱する死体から1本の角をバキリと折り取る。

 それを無造作に手で弄び、


「死ねっ!」


 ――速いっ!?


 半歩左に避けると、顔の右側を角が通過していく。

 轟音が唸り、衝突すると同時に建物を崩壊させた。


「こりゃスゲーな。力が漲ってくるぜ」

「くくくっ。素晴らしいねぇ」


 明らかに人の膂力(りょりょく)を超えている。


「彼等は神気を纏っているみたいだね。神の端くれになったって事かな」

「そうですか」


 ゆっくりと息を吐き出して、俺は気を引き締める。


「ライル。お前は俺が殺す。絶対にだ!」

「拷問の借りを返させてもらうよ」


 ガーロンは俺をギラリと睨み付け、ダンログは舐めるような視線を向けてきた。


「やれるもんならやってみろ」


 静かに答え、ダガ―を構えて対峙した。


「ゴミが! 斬り刻んでやるよ!」

「だったらさっさと掛かってこい。いつまでも雑魚が吠えるな」


「何だとっ!」

「煩いんだよお前は。静かにしろって昔から何度も言ってるだろ。学習しない馬鹿はこれだから困る。はぁ……俺達の屋敷にいた時は、あんなに大人しく玩具(オモチャ)になってたのになぁ」


 ヤレヤレと言った体で挑発してやると、ガーロンの腕がプルプルと震え始めた。


「ふざけやがって!」


 怒りに任せて俺へと迫る。

 スピードは速いが猪突猛進だ。

 小細工をするでも無く、真っすぐに突っ込んで来る。


「死ねやぁあああああああああ!」


 ガーロンの筋肉が膨れ上がった。

 何の変哲もない大上段からの一撃だ。

 俺は上段に構えたダガ―で迎撃態勢をとるが、


「《スキルブレイク!》」


 刃が交錯する直前でダンログが叫んだ。


 ――変だ。


 些細な違和感があった。それは冒険者として闘い続けてきた勘だったが、

 俺はカウンターを使うのを咄嗟に止めて、ダガ―上を滑らせるようにガーロンの大剣を受け流していく。


「くそっ!」


 ガーロンは悔しそうに吐き捨てた。

 直後、ガーロンの大剣は勢い余って地面に衝突する。

 その衝撃は地割れを生んで、異形の死体を次々に呑み込んでいった。


 ――なんて威力だ。


 俺は警戒しながら後ろに跳んで、2人から大きく距離をとる。


「チィッ。カウンター使ってりゃ潰してやったのによ」


 ガーロンの顔が憎悪に歪む。


「小賢しいゴミが!」

「落ち着きなよガーロン。焦る必要はないさ。獲物はもっといたぶってから仕留めるべきだろう?」


 ダンログが舌なめずりをすると、ガーロンは大剣を肩に担ぎ上げる。


「咄嗟の判断は見事だったねぇ。カウンターを使っていれば、お前の命の灯は消えていたところだ」

「俺に魔法でも掛けたのか?」

「ご名答。お前は、しばらくスキルを使えないよ」


 俺は《鷹眼(ホークアイ)》スキルを使って動体視力を高めていた。

 あの時、その効果がキャンセルされたから身体に違和感を感じたんだ。


「くくっ」


 ダンログは喜色満面でこちらを見る。


「スキルブレイクの魔法さ」

「聞いた事がない魔法だ。それはダンログ君の家に伝わるオリジナルかい?」


 アルトス侯爵家には、クリフさんでも知らない秘伝の魔法がある。


「違うよクリフ・ローレン。我がアルトス侯爵家に伝わる魔法ではない。これは私が先程創成したばかりの魔法なのだよ」


「創成した? スキル神イーグリーフでもない君が?」

「まあね。さしずめ『新しきスキル神ダンログ・アルトス』といったところかな」


 俺達にとって厄介な敵になったというわけか。

 警戒する俺達を見て、ダンログは嗜虐的に笑う。


「先程はガーロンの攻撃を上手くかわせたようだけど、それもいつまでもつかな?」

「丸一日くらいはもつだろうな」


 俺は余裕の表情で答える。


「けっ。ゴミが余裕ぶってんじゃねぇよ。お前はカウンターを使えねぇんだぞ?」


「ライル。確かにお前のカウンターは驚異的だよ。だがそのカウンターは封じさせてもらった。つまり、どうなるか分かるよねぇ?」

「へっへ。逃がさねぇぜ。ぶっ殺してやる!」


 もう勝ったつもりでいるようだ。


「お前とクリフ・ローレンと娘。神となった私達を相手に、たった3人でよもや勝てるとは思わないだろう? くくっ。時間を掛けていたぶってあげようじゃ――」


 俺は素早くナイフを取り出して投擲した。

 ダンログの左腕へと突き刺さる。


「残念。痛みなんて感じないねぇ」

「こんなシケた攻撃が俺達に効くとでも思ってんのか?」


 ――カウンター以外の攻撃が通ったのは久しぶりだ。


「アンチスキル効果か。良い魔法スキルだな。大事にしろよ」


 俺の言葉にダンログが怪訝な顔を見せる。


「一つ言っておくが、お前等の相手なんて俺一人でも楽勝だからな?」

「てめぇ……」

「いいからさっさと掛かってこい」


「口の減らねぇ奴だなぁああああああ!」

「《火炎魔竜》」


 ガーロンと共に炎の魔竜が突進してくるが、動きは非常に読み易い。

 俺は右に左にと身体を捻り、攻撃を紙一重で避けていく。


「逃げてばかりじゃ――」


 斬っ!


 高速のステップで右に避けると同時に、ガーロンの左腕を斬り飛ばす。

 その左腕をダガ―ですくい上げて炎の魔竜にぶつけてやると、炎の魔竜は赤々と燃え上がって消滅した。


「逃げてばかりじゃ何だって?」


 俺を見るガーロンの目には、僅かだが畏怖の念があった。


「お前等、連携すら出来てないな」


 俺の動きを読もうともせず、かと言って時間差を使って仕掛けてくるでもない。

 力任せの単なるゴリ押しだ。


「本当の戦いを教えてやるよ」


 俺は言い放った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ