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42話 新たなる神の誕生

 ティリアは街の様子をじっと見つめている。


「精霊達が騒がしくなってきましたわ」


 何かが起こりそうな雰囲気が俺にも伝わってくる。

 妙な事態にならない事を祈ろう。


 国王アンドルムは俺達の10m程先にいる。

 付き従うのは5人の近衛と1人の精霊魔術師だ。


「陛下。そろそろかと思われます」

「ふん。待ちくたびれたぞ」


 国王が立ち上がり何かの指示を出すと、伝令が兵達の間を駆け巡っていく。

 しばらくすると聖騎士シュナイザー、戦士ガーロン、魔術師ダンログの3人も国王の傍らに現れた。


「シュナイザー。終わったら覚悟しとけ」


 近寄って睨み付けると、シュナイザーは鼻で笑った。


「は? 雑用が何言ってやがる。まぐれで勝ったくらいで良い気になるなよ」


 そう言って剣を突き付けてきた。

 俺はダガ―を引き抜いて、


「はぁっ!」


 裂帛の気合と共に、シュナイザーへと斬り付けた。

 甲高い音が鳴り響き、見えない壁に斬撃が阻まれる。


「うあっ!?」

「死なずに済んで良かったな」


 静かに告げると、シュナイザーは目を逸らす。

 俺がカウンター使いじゃなかったら、首が飛んでいたところだ。


『うああっ!』


 唐突に大地が揺れ、各所から悲鳴が上がった。

 ドクンドクンと、地の底から脈動が伝わってくるようだ。


「気を付けろっ!」


 誰かが叫ぶと、地面が熱を帯びていった。

 瓦礫の山が赤く染まり、ドロドロになって溶けていく。

 そして、


『おおっ!』


 神々しさを纏った小さな光球が、地下よりゆっくりと現れた。


「なんという!」

「素晴らしい!」

「これが新たなる神となるのか!」


 興奮のるつぼだった。

 周囲一帯から歓声が沸き起こる。


「おめでとうございます」

「これより陛下は、新たなる歴史を紡がれるのですな」


 気を良くしたであろう国王は、近衛達に笑みを向ける。


「今宵は美味い酒が飲めそうだ」


 悠々と右手を上げると、祝砲が撃ち鳴らされた。


「国王陛下万歳!」

「アンドルム・イーダス陛下万歳!」


 割れんばかりの歓声が続いていたが、国王は右手を真横に振って歓声を止める。

 光球が国王の方へ近寄って来たからだろう。


『私の宿り木となる者は何処にいる?』


 空間を震わせる声で、誰にともなく問い掛けた。


「余が其の方の宿り木となるアンドルム――」

「《聖王烈斬(ホーリースラッシュ)》」


 斬ッ!


 言い終わる前に国王の首が飛んだ。


「神の宿り木となるのは、このシュナイザー・タハムだ!」


 一瞬で静寂に包まれた。

 目の前の凶行に、誰もが言葉を発する事が出来ずにいる。


「ご、ご乱心めされたかシュナイザー殿!?」


 一人がシュナイザーに詰め寄ろうとすると、それを別の兵士が遮った。


「反逆者めが!」

「シュナイザーを斬れ!」


 一斉に剣が抜き放たれ、切っ先がシュナイザーへと向けられる。

 その顔は皆一様に動揺しており、どこか信じられないと言った表情だ。


「へへっ。やったじゃねぇかシュナイザー」

「見事だねぇ」


 いや、ガーロンとダンログの二人だけは、微塵も動揺していない。

 まるでこうなる事が分かっていたかのような口振りだ。


『いいだろうシュナイザー・タハム。お前を神の宿り木として承認する』


 眩く明滅すると、光球は瞬時に膨張してシュナイザーを飲み込んだ。


「ああ陛下。何という御姿に……」


 斬り飛ばされた頭を抱えた近衛と、その他何人かがガックリと膝を着いている。

 今まで国王に尽くしてきた人間なのかもしれない。


『望む者には神柱の種を授けよう。我こそはと思う者は前へ出よ』


 兵士や騎士達が大きくどよめいた。

 神柱の種を得れば神になれるという話に対して、半信半疑でいた者が多かったからだろう。


 しかしそれは「真実である」と証明されたようなものだ。

 既に「国王の死など、もうどうでもいい」といった雰囲気になっている。


「あの」


 一人の兵士が、おずおずと進み出る。


「私も貴方様の臣下になれるのですか?」

『私は拒まぬ』


 その言葉を合図に大歓声が起こった。

 光へと向かって我先に殺到する。


「私は神柱の種を望みます!」

「俺も!」

「俺もです!」


『よかろう。これより私の臣下となって尽くすがよい』


 すると光の中からおぞましい数の触手が出現した。

 触手は兵士や騎士を次々に絡めとり、光の中へと呑み込んでいく。


「う、うわぁああ!」

「ひぃいいい!」


 やがて光は更に大きく膨張し、その中に様々なシルエットを浮かび上がらせる。


「何だあれは?」


 空に浮かんだ光の中から何かが次々に放出されていく。

 それに伴ってドチャリ、グチャリという落下音が続いていった。


「まさかっ!」


 俺は息を呑んだ。

 光の中から放出されているのは、異形の屍達だったからだ。

 見るに堪えない姿となり、折り重なって地を埋めていく。


 角が生えて腐っている死体もあれば、頭部が異常に膨れ上がって白骨化したものもある。


「っ!?」


 ティリアは声も無く顔を背けた。


「……惨いな」

「人が、不相応に神の力を追い求めてはいけないんだよ」


 俺は目の前の状況に戦慄を覚えつつ、人間の成れの果てを見つめていた。

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