40話 アンドルム・イーダスの野望
路地裏から情況を確認した。
「見るも無残だな」
街の中心部。
魔術師の塔が建っていたであろう場所は、見上げる程の瓦礫の山と化していた。
「魔法で吹き飛ばしてみるかい?」
クリフさんが訊いてくる。
「瓦礫を吹き飛ばすにしても、周囲の人間が邪魔ですね」
魔術師の塔の近辺には、少なくとも100人を超える騎士と兵士がいる。
まあ、面構えや歩き方を見る限り、大した実力じゃなさそうだが。
それを裏付けるように、騎士達の纏う鎧には華やかな装飾が施されているしな。
見栄え重視で実用的とは程遠い。
おそらくは身分の高い者達が選ばれて、ここに来ているんだろう。
実戦経験はなさそうだ。
「魔法を使ってしまうと、怪我をさせてしまうかもしれませんわね」
「そこは仕方ないだろ」
仮に重傷を負わせてしまっても、クリフさんの回復魔法がある。
そう考えて、割り切ってやるしかない。
「じゃあ少しずつ兵を無力化させていこうか。侵入方法については、全て終わらせてから考えよう」
俺達は無言で頷き了承する。
「ティリア。俺達の傍から離れ過ぎるなよ」
「分かっておりますわ」
ティリアは祈りを捧げてナイフを構えた。
俺も腰に差した2本のダガ―を引き抜いて臨戦態勢をとる。
「《氷柱》《氷柱》《氷柱》《氷柱》《氷柱》《氷柱》」
魔法スキルの連続発動を合図に、俺達は戦いの舞台へと躍り出た。
クリフさんの止めどない魔法攻撃に、ティリアの俊敏な小剣捌き。
右往左往しながら近寄ってきた敵は、俺がカウンターで全てのしていく。
慌てふためく騎士や兵士を片っ端から打ち倒していった。
俺達を止められる敵は存在しない。
そもそもの話、誰もこちらの姿を認識出来ていなさそうだが。
「魔術師共は何をやっておるか! 《効果解除》を掛けよ!」
隊長らしき男の怒声が響き渡った。
「《効果解除》」
敵の魔術師が魔法スキルを唱えると、ようやくこちらを確認できたようだ。兵達が少しずつ俺達を取り囲んでいく。
「陛下っ!?」
誰かが唐突に叫ぶと周囲が騒がしくなった。
人垣が左右に割れ、一人の男が悠然と歩いて来る。
「ネズミの始末すらまともにやれんとはな。使えん奴等だ」
「陛下! 危のうございます!」
「邪魔をするなっ!」
慌てて進路を塞いだ兵が、男の手で大きく払いのけられた。
そして男はスラリと腰の剣を抜き、俺の方へと向けてくる。
「我が名は知っておろう」
衣装や言動、立ち居振る舞いから一人の男の名が浮かぶ。
アンドルム・イーダス。
この国の国王だ。
「顔を見せよ!」
俺達はフードを被ったままだが、その命令に従うつもりはない。
すると、
「《聖王烈斬》」
後方からの唐突な打ち下ろしだ。
不意打ちのつもりだろうが、俺は既に予想していた。
「《カウンター》」
振り返ってカウンターを瞬時に見舞う。
火花が飛び、そのまま勢いを乗せて一気にダガ―を振り抜いた。
「何だとっ!?」
斬っ!
「あぁあああああああ!」
俺が良く知るその男は、切断された肩から血を流してのたうち回る。
「みっともない奴だな。聖騎士が不意打ちなんてするなよ」
俺はダガ―を振り払い、剣身に付着した血を飛ばした。
「相変わらず見事な剣捌きだねぇライル」
後方からゆっくりと現れたダンログは、恍惚の表情を浮かべていた。
痛みで叫び続けるシュナイザーを見て興奮しているんだろう。
「久しぶりだなダンログ」
既に正体がバレている為、俺は覆面を外して素顔を見せる。
「シュナイザー様! お気を確かに!」
切断された右腕を拾って、回復魔術師がシュナイザーへと駆け寄った。
あの様子なら死にはしないだろう。
「貴様がマルチスキルの男か?」
国王は絶叫するシュナイザーを無視して、俺に疑問を投げ掛ける。
「悪いようにはせぬ。どうだ、余の臣下にならんか?」
「アンタは世界を支配するつもりなんだろ?」
「無論だ。お前は世界の支配者の臣下になれるのだ。魅力ある話であろうよ」
俺は無言のまま、ダガ―を国王の鼻先に突き付ける。
「おや? そんな事をしていいのかいライル?」
ふざけた調子でダンログが横槍を入れてくる。
「主導権はこちらにあるのだがね」
「ダンログ。何か勘違いしてないか? こっちは、お前等全員消してやってもいいんだぞ」
脅しを込めて静かに告げる。
「くくっ。君達は人を殺せない。それは私が一番良く知っているよ」
「本当にそうかな?」
クリフさんは杖をダンログに向ける。
「辺境の街ヴィロッジは知っているかい?」
ダンログは唐突に言った。
「ライル。君の妹が住んでいた街さ。隣家の女は、確かハンナと言ったかな?」
「それがどうした?」
「こちらからの伝令で、街はいつでも壊滅させられる手筈になっているからね。私達の機嫌を損ねない事を推奨するよ」
嗜虐的な顔でニヤリと笑った。




