31話 街からの逃亡者達
深夜。
街の結界は消えたままだ。
魔法スキルが制限無しに使えるのであれば、潜入するのも難しくないだろう。
そう結論付けて、俺達は予定通りにアルトスの街に向かう事にしたんだが。
門へと近付いている時に、街から去って行く怪しい人影を見掛けた。
黒いローブを着ている5人の集団だ。
「クリフさん。どう思いますか?」
「魔術師の一団だろうね。逃げようとしてるみたいだし、まずは動きを止めようか」
そう言って集団の方へと手を伸ばす。
「《眠りの雲》」
フワフワとした雲が集団へと向かって進んでいく。
異常に気付いた1人以外は、雲に包まれてバタリバタリと倒れていった。
「逃がさないよ。《氷柱》」
クリフさんは氷の柱を何本も降らせて足止めしていくが、対する魔術師も強力な炎の魔法で氷柱を溶かしつつ、逃走経路の確保に動く。
どうやら、あの魔術師はかなりの力を持っているようだ。
「俺も手伝います」
覆面を被り、魔術師に向かって走った。
まだ200m以上離れているが、魔術師は俺の存在に気付く。
そして戸惑いを見せつつも、こちらを見据えて何かを唱え始める。
「《火錬砲》」
魔法を放ってきた。
手のひらから放たれた10本の炎は、複雑怪奇な動きをしながら何度も弧を描いて加速する。
それぞれがランダムに動いて、俺へと向かい来る放射の炎だ。
初見であれば対応困難だろうが、生憎と俺は炎の軌道を知っていた。
――正面突破だ。
10本の炎がどれだけ複雑に動こうと、注意を払うのは最後の瞬間だけでいい。
最終的には全ての炎が絡み合って集結し、俺へと襲い掛かるはずだからだ。
そして予想通りに集結し始めた炎に対して、俺はダガ―をクロスして頭から突っ込む。
「《カウンター!》」
クロスしたダガ―を斬り広げながら、絶妙のタイミングでカウンターを発動させた。
「なっ!?」
迫る炎は翻り、炎熱の勢いを大きく増して跳ね返る。
「ぎゃぁああああああ」
業火の炎が魔術師を呑み込んだ。
このまま放っておいたら死んでしまうだろう。
「はぁあああああああ!」
斬っ!
俺は地面に突き立った氷の柱を中ほどから斜めに斬る。
「おらぁああああ!」
――《カウンター!》
滑り落ちてきた氷に回し蹴りでカウンターを叩き込み、魔術師へと向かって蹴り飛ばした。
寸分違わず魔術師の真横に落ちると、魔術師は氷に抱き着いた。
シュウシュウと氷が蒸発し、それに伴って炎も消えていく。
「クリフさん! ヒールを!」
「《回復》」
間髪入れずに、白い光が魔術師を包む。
その光景を見届けながら、俺はアイテムボックスから《魔力封じの腕輪》を取り出して魔術師の左腕へと取り付けた。
これで、こちらの安全は確保されたと言って差し支えないだろう。
駆け寄ってきた二人を見ながら、俺は胸を撫でおろした。
「わたくし、何も出来ませんでしたわ」
「安心しろティリア。何か出来る方がおかしい」
あの状況で動ける13歳なんていない。
「珍しい魔法だったね」
「《火錬砲》の事ですか?」
「うん。あんな魔法を見たのは初めてだよ」
「あれはアルトス侯爵家に伝わる秘伝の魔法スキルですからね。知ってる人間は少ないと思います」
「よく魔法の軌道を見切れたね。カウンターを合わせるタイミングが難しかっただろうに」
「俺は何度か《火錬砲》をこの目で見てますから。タイミングをとるのは容易かったです」
「何度か見てる?」
「見てますよ。こいつとはパーティー組んでましたから」
俺は魔術師の黒いフードを乱暴に取り払う。
思っていた通り、長い黒髪で痩せぎすの魔術師ダンログだった。
「久しぶりだなダンログ」
俺は覆面を脱いで素顔を晒す。
「ライルっ!?」
「ああ。ライル・グローツだ。お前に報いを受けさせに来た」
「何故生きているっ!?」
「ガーロンと同じ事を言うんだな。死んでないから生きているに決まってるだろ」
ダンログは俺の顔をじっくりと見ていたが、唐突に笑い始めた。
「くっくっく。悪運の強い男だねぇ」
「何故笑う? お前は囚われの身になったんだぞ?」
まさか状況が理解できないのか?
「私が囚われの身だと? 馬鹿を言うな。囚われているのは私ではない。君達なのだよ。ククッ」
ギィン!
「ひぃあっ!?」
素早く斬り付けると、ダンログの眼前でダガ―が止まる。
「笑うな。耳障りなんだよ」
脅しが効いたようで、ダンログは口を閉ざした。




