30話 雷光の射手
「ライル君。僕に協力してもらえないかい?」
俺が頷くと、クリフさんは杖を左手に出現させた。
そして長い古代語の呪文を唱えて杖を高く掲げる。
「我こそは雷光の射手なり!」
左手に持つ杖が弓へと変化し、右手には光る矢が出現した。
上位の攻撃魔法スキル《雷光の射手》だ。
無詠唱のクリフさんが詠唱して発動させる攻撃魔法スキル。
威力は相当のものが期待出来そうだ。
「ライル君。カウンターで弾き返してくれ」
「それは……いえ、任せてください」
俺はそう告げてから《鷹眼》のスキルを使う。
これで動体視力が爆発的に向上したはずだ。
「いいかい?」
クリフさんは少し離れた場所に行き、光の矢をつがえて弦を引き絞った。
「どうぞ」
「滅せよ!」
俺に向かって光の矢が放たれる。
ヒュッと風が唸り、
「《カウンター!》」
ダガ―で弾き返しつつ、神気を操って反射方向の調整を行う。
光の矢は凄まじい速さで、ターゲットであるグリフォン達の方へと向かっていく。
そして幻獣の身体をアッサリと貫き、しばらく後に雷鳴が轟いた。
「次、お願いします」
「滅せよ!」
俺はクリフさんが射る光の矢を弾き返して、次々仕留めていく。
倒れた幻獣が10体で残りが2体となった頃、ようやく俺達の存在に気付いたようだ。
「ライル君!」
「大丈夫です!」
生き残った2体が翼をはためかせ、一斉に竜巻を放ってきた。
2本の竜巻は絡み合いながら、うねるようにこちらへと迫って来る。
「赤目の竜巻はデカいんだな」
普通のグリフォンとは力が違うようだ。
だが、いかんせん遅い。
俺は竜巻の外周部に刺突の連撃を幾度も放ち、同時にカウンターも発動させていく。
すると竜巻は不自然な軌道で反転し、そのままグリフォン達へと返っていく。
断末魔と共に、その身体はズタズタに切り刻まれていった。
これで戦闘は終わりだろう。
「後は、この状況を見た魔術師達がどう動いてくるかですね」
「くっ!」
「大丈夫ですかクリフさん!?」
咄嗟に駆け寄って肩を支えた。
かなりの疲労があるようだ。
「ありがとうライル君。でも、これで一先ずは安心だね」
「ですね」
俺達は頷き合った。
「これからどうしますか?」
「少し休もうか。もうクタクタだよ」
クリフさんだけではなく、よく見るとティリアの疲労の色も濃い。
「今後、魔術師達が取れる手段はそんなに多くないと思うよ。あれだけの幻獣を呼び出して使役するには、かなりの下準備が必要だったはずだからね」
おそらくは魔術師達の切り札だったと思われる。
「同じ事をまたやろうとするなら、数十年単位の下準備が必要になるんじゃないかな」
「そんなに時間が掛かるんですか?」
「そうだよ。だからこそ魔術師達は、今頃呆然としているんじゃないかな」
それなら、今後しばらくは動きがないのかもしれない。
「じゃあ明日か明後日あたり、アルトスの街に潜入してみますか?」
「そうしようか。でもこの辺りに僕達がいるのは相手にもバレただろうから、差し当たって他の場所に移ろう」
俺は盗賊スキルをフル活用して、パーティーの安全確保に努める。
そしてこの丘から500m程離れた小さな林へと待機場所を移した。
「ですがわたくし、幻獣とはもっと恐ろしい存在だと思っておりましたわ」
「『恐ろしい』という認識で間違ってないよティリアちゃん。特に赤目の幻獣なんて、歴戦の猛者だって手に負えないレベルだからね」
「そうでしょうか? そのように困難な敵には見えませんでしたわ」
俺達が比較的簡単に倒してしまった事で、ティリアは勘違いをしているようだ。
このまま間違った認識でいるのは危険過ぎる。
「ライル君。ティリアちゃんに冒険者カードを見せてやってくれないかい?」
「はい」
俺は冒険者カードをティリアに見せた。
「えっ? この表示は一体なんですの?」
おかしな表示が並んでいるから、理解不能だろうな。
「ブラックドラゴンの洞窟で鍛えていたらそうなった。人の上限を超えてるらしいんだけどさ」
レベルは99を超えて「――」となっており、MPは99999となっている。
「だから俺達が簡単に倒したからって、弱い敵だったってわけじゃない。それだけは忘れないでくれ」
「分かりましたわ」
そして俺達は疲れを癒す為、眠りにつくことにした。




