29話 12体の幻獣
それから僅か数十分後、街の城壁近くに大型のグリフォンが出現した。
鷲の頭に獅子の胴体、翼をもつ幻獣が12体だ。
「只のグリフォンじゃないね。あれは赤目だよ」
「赤目のグリフォンですか? 何でこんな所に?」
人の手で呼び出された幻獣は赤目になると言われている。
生命力を捧げて召喚するらしいが、詳細は分からない。
俺は少し前に「自然のグリフォン」と遭遇したばかりだが、そもそも幻獣自体そんなに頻繁に出会うものじゃないんだが。
「無理矢理召喚したんだろうね」
「12体もですか?」
「かなりの生命力を糧にして呼び出されているはずだよ」
クリフさんは真剣な顔でグリフォン達を見つめている。
「12体もの幻獣を召喚して、ましてやコントロールするなんて……」
クリフさんは考え込んだ後、ハッとして顔を上げた。
「まさか、魔術師の塔の力を使って制御するつもりなのか?」
魔術師の塔には、生命力を魔力に変換する機能が備わっているらしいからな。
このままだと由々しき事態に発展しそうな感じだ。
「多くの生命力を魔力に替えて、幻獣をコントロールするんですよね? じゃあ、もしかしてその生命力の出所って……」
「贄となるのは、アルトスの街の住人全てだろうね」
予想通りの答えに俺は絶句する。
まともな人間がやる事とは思えないが、ダンログのアルトス侯爵家ならやりかねないからだ。
「多くの魔術師達が関わっているのは間違いなさそうだ。指揮しているのはダンログ君かな?」
「そうかもしれませんね。あいつは大量虐殺だろうと躊躇しませんから」
「信じられないような事をなさいますのね。このままだと街の方達の生命力が尽きてしまいますわ」
――そうだ。早く手を打たないと。
俺は拳を握り締めた。
「焦りは禁物だよライル君。明日になれば犠牲になる人達も出て来ると思うけど、数時間程度なら命に別状はない。だから、しっかりと策を練ろう」
「……分かりました」
「あれだけの幻獣を召喚したのであれば、街を全て犠牲にするつもりでいるのでしょう? そこまでして一体何を欲しておりますの?」
するとクリフさんは、言い淀みながら喋り出す。
「結界を消滅させた事が関係しているかもしれない。元々、魔術師の塔については黒い噂が絶えなかったんだ。世を乱す研究をしているとも、人智を超えた研究をしているとも言われていて、それには多くの命が犠牲になるだろうともね。真偽不明の話ではあったんだけど、今回結界が消えると同時に、魔術師達は急に動き出した」
そう。まるで何かを焦っているみたいに。
「今までは、露呈しないように結界でカモフラージュしていたのかもしれませんわね。けれど結界は、わたくしが消滅させてしまいましたから。それで魔術師の皆様が、行動に移してしまったと。……わたくしの責任ですわね」
「違うよティリアちゃん。結界が消えたからこそ、彼らは動かざるを得なかったんだ。それだけ危険な研究をしていたんだよ。結界を消さなかったら、むしろ手遅れになっていたかもしれないと思わないかい?」
ティリアは唇を噛み締める。
「そもそも、あいつ等は何をやっていたんだ?」
俺は呟いた。
魔術師の塔に所属しているのは、国内最高峰の魔術師達だ。
無意味な研究をやっていたとは思えない。
「12体の幻獣であれば、もしや神のゆりかご……ではないかしら?」
「神のゆりかご?」
神のゆりかごって何だ?
「ライル君は聞いた事ないかい? 神界12柱、つまりは神を誕生させるのさ。それも人為的にね」
「そんな事が出来るんですか?」
「普通に考えるなら難しい。理を無視するものであり、世の崩壊を招きかねないものだしね。それにこの研究については、世界中の国々が協定を結んでいる。研究者は全員死罪になってしまう程の重罪だよ」
クリフさんは「しかし」と言って首を振る。
「彼らはなりふり構わず12体の幻獣を呼び出した」
「もしかしたら、危険な研究は思った以上に形になっているのかもしれませんね。成功する目途が立っていなければ、こんな事なんてせずにさっさと逃亡しているでしょうし」
「そうだね。完全に失敗するとは思っていないからこそ、今この時に行動したんだろう」
とにかく放っておけないのは分かった。
「とりあえずグリフォンを全滅させよう。考えるのはそれからだね」
「でしたら、わたくしがやりますわ」
「ティリアは疲れてるだろ。俺がやるから休んどけよ」
そして俺達は動き出した。




