22話 新たな拠点
ガーロンを捕獲してから20日が過ぎた。
「ぎゃぁあああああああああああああああああああああ」
今朝もいつも通りの悲鳴が響く。
最近は魔法の実験台として、ガーロンを有効活用する事が増えた。
「《浄化》」
クリフさんの魔法で、小屋の中に散っていた血や汚物が瞬時に消滅する。
「クリフさん。今回はどんな実験だったんですか?」
「《状態回復》という魔法は知っているよね?」
「はい」
精神を安定させたり正常化したりする魔法スキルだ。
高位の神官だったクリフさんが使えば、毒や麻痺までも治せると思う。
「通常は、対象者の精神の安寧を願いながら使用するんだけどね。今回は逆に、精神の崩壊を願いながら使ってみたのさ」
「へぇ。そんな事も出来るんですね」
「うん。その結果、精神を正常にしようとする魔法本来の力と、崩壊させようと願う僕の力が彼の体内で反発し合って、彼は大きな苦痛を受けたんだよ」
あの傲慢で五月蠅いガーロンが黙ってるからな。
かなりの効果があったみたいだ。
「ガーロン。気分はどうだ?」
「……」
グッタリとして反応がない。
「壊れかけてるみたいですよ」
「そうだね」
クリフさんは満面の笑みで頷いた。
「《体力回復》《状態回復》」
白い光が立て続けにガーロンを包み込む。
「ようガーロン。ちゃんと起きてるか?」
「ひぃいいい」
どうやら正常に戻ったようだ。
「お前は殺してやらないし、狂わせてもやらないからな。しっかり覚えておけよ。この苦しみは一生続くぞ」
「勘弁してくれぇ。許してくれよぉ」
「馬鹿言うな。お前みたいなクズを許すわけないだろ」
淡々と答えた。
△
俺達は新たな拠点を作る計画を進めている。
いつまでも小さな小屋に住むわけにはいかないからな。
そんな訳で今日は、クリフさんにガーロンの世話を任せている。
俺は単独行動中で、建築工事の進み具合を確認してきた帰りだ。
すると、
「大金持ってるみたいじゃねぇか兄ちゃん」
5人が俺を取り囲む。
風貌から言って、冒険者ではなく本物の盗賊のようだ。
「ちぃーっとばかし、俺等に恵んでくれねぇか?」
「断っても無理矢理恵んでもらうけどな」
「はははは」
刃物を突き付けながら下卑た笑みを向けてくる。
男達の得物はナイフと曲刀だ。
「死にたくねぇだろ? 黙って金を寄越せよ」
「断る」
『なっ!?』
問答無用で突っぱねた。
建築途中のデカい邸やら俺の年齢やらを見て、良いカモだと思って付けて来たんだろうが。
「たった5人か。今なら見逃してやるけど、どうする?」
「……そうかい。そっちがそういうつもりなら仕方ねぇわな」
リーダー格の男が目配せをする。
「死ねやぁああああああああ」
一斉に斬り掛かってきた。
――遅い。だが練習には丁度いいか。
俺は男達の攻撃を難無くかわしながら、無手でリーダ格の曲刀を受ける。
――《カウンター!》
パンという音と共に、曲刀が瞬時に粉砕された。
「粉々になるのは初めて見る現象だな。無手でカウンターを使ったからか?」
独り言が口から出た。
どうやら、カウンターの威力が曲刀全体へと分散されてしまったようだ。
相手の刃物をダガ―で受けた場合、接触面積は極僅かとなる。
しかし素手で受けた場合は、相手の刃物との接触面積は広くなるからな。
その為、カウンターのダメージが集約されずに曲刀全体に及んでしまったんだろう。
そうやって曲刀が全てのダメージを受け負ったからこそ、男は無傷で済んだとも言えるが。
「俺がダガ―を使ってたら、お前は死んでたぞ。運が良かったな」
男達は動きを止めて、俺を恐怖の目で見つめている。
「まあ俺も無傷とはいかなかったけど」
無手で受けた俺の掌には、薄っすらと刃物による筋が走っていた。
これだけの力の差があっても、ノーダメージとはならない。
まだまだ向上する余地はあるみたいだ。
「とりあえず逃げるなよ。いいな?」
俺の言葉にブンブンと何度も頷いている。
「これで手首を縛れ」
ロープを取り出して渡すと、男達は素直に従う。
そいつらを近くの街まで連行し、憲兵に引き渡してから俺は帰宅した。




