２１話 戦士ガーロン（断罪）
今回は断罪回となります。
苦手な方はご注意ください。
「なんだテメェ等！」
――起きていたか。
ガーロンの手には、しっかりと大剣が握られている。
危険察知の魔導具を身に着けていた事で、一早く異常に気付けたんだろう。
俺は無言のまま、２本のダガ―をクロスして構えた。
「答えろ！ 双剣使い！」
返答することなく、ゆっくりと近付いていく。
「答えろって言ってんだろうがぁああああ！」
――《暴覇回転斬》かっ！？
ガーロンが繰り出したのは、風の刃を纏う大剣スキル。
回転して一撃を加え、大上段から二撃目を振り下ろす大技だ。
しかし、
――《カウンター》
回転の初撃に合わせ、左手のダガ―でカウンターを放った。
するとガーロンの持つ大剣は、中ほどから呆気なく折れ飛ぶ。
俺が反射軌道を逸らさなかったら、腕ごと斬り飛ばされていただろうな。
「なっ！？ くっ！」
ガーロンは驚きに目を見開きながらも、
「《速撃連斬》」
折れた剣で高速の２連撃を撃ってきた。
俺は一気に距離を詰めて、
「《カウンター！》」
渾身の力を込めてダガ―を振るった。
ガーロンの持つ大剣が、今度は根元からバキリと折れる。
カランカランと音を立て、その剣身は床へと落ちた。
「な、な、何なんだよテメェはよぉおおおおおおおおおお！」
吼えながら繰り出してきたのは、何の小細工もしていない大振りの拳だった。
「はぁっ！」
俺は身体を捻り、高速の上段蹴りで応戦。
――《カウンター！》
グシャリッ。
「う、がぁああああああ」
ガーロンの指の骨が折れたようだ。
「誰かっ！？ 誰かいないのかっ！？ おいっ！？ どいつもこいつも何やってんだぁあああああああああああ！」
絶叫しながら部屋の隅へと逃げていく。
その姿には、明らかな焦りが見える。
「どこに行くつもりだよガーロン？ まさか俺から逃げられるとでも思ってんのか？」
ガーロンは壁を背にしてこちらを凝視している。
俺はダガ―を中段に構えて、
「はぁああああああああ！」
ダンッ！
床を全力で踏み切り、ガーロンの右目に向かって刺突を放つ。
ギィン。
「ひぃいいいい」
切っ先が接触する寸前で、強制的に停止させられた。
カウンタースキルの制約が発動したからだ。
「あ、あ、あぁ」
「どうだ？ 死の恐怖を感じたか？」
俺は覆面の下でほくそ笑む。
ガーロンは壁に背を預けたまま、力が抜けたようにズルズルと腰を落とした。
「だ、だ、誰かいないのかよぉおおおおおおお！」
「叫んだって誰も来ねーよ。俺の《消音》の効力は、お前もよく知ってるだろ」
俺は覆面を外して素顔を晒す。
「ライル！？」
「ああそうだ。お前が良く知ってるライル・グローツだ」
「違うっ！ あいつは死んだっ！ 生きてるわけがねぇっ！」
「集団暴走の口封じで殺したからか？」
「そ、そうだ！ 間違いなく殺した！ 最下層に死体が転がってるはずだ！」
横目でクリフさんを見ると、コクリと頷き返された。
ガーロンの自白で、真実の証明が成されたからだ。
「お前がライルのわけがねぇんだっ！」
「詰めが甘かったな。俺はしぶといんだよ」
あの時、俺の息の根を止めなかったのは何故か？
それは魔術師のダンログが嗜虐思考だったからだろう。
だから俺を殺さずに、生きたまま死地へと蹴り落とした。
「ガーロン。次は、お前が玩具になる番だ」
「ひぃいあああ」
心地良い悲鳴だ。
心が躍る。
俺がガーロンの喉元にダガ―を突き付けている間に、クリフさんが猿ぐつわを噛ませてロープで縛り上げていく。
脅しのダガ―に殺傷能力はない。
なぜなら俺は、ガーロンに対して殺意を抱いているからだ。
カウンタースキルの制約で、ガーロンに触れる事すら一切出来ない。
更に言うなら、邸には結界が張られているからクリフさんも魔法が使えない。
つまり、こいつが強引に部屋の外に出て助けを求めれば、俺達は退くしかないわけだが。
それをわざわざ教えてやる義理は無い。
「さてと……」
俺は「対魔法用の結界発生装置」とやらの探索を始めた。
「邸の見取り図で、ある程度の目星は付けていたが――」
探索開始から２部屋目となった執務室。
その執務室から通じていた隠し部屋に、目的の結界発生装置はあった。
一抱え程の大きさで、奇妙な形をしている魔導具だ。
「《盗賊の指先》」
魔力反響を利用して、結界発生装置に使用されている魔紋パターンを調べる。
そうして得た魔紋パターンを、俺は念紙スクロールへと転写していった。
魔紋は人それぞれで、個人識別にも使われている情報だ。
結界発生装置に登録された魔紋を持つ人間だけが、結界内で魔法スキルを使う事が許される。
「お待たせしました」
クリフさんに念紙スクロールを手渡した。
「うん。これならいけるよ。ありがとう」
クリフさん程の人になると、自己の魔紋を一時的に偽証する事が可能だ。
そうすれば、魔紋未登録者でも結界内で魔法スキルが使える。
ただし、結界発生装置に使用されている魔紋パターンをあらかじめ知っておく必要がある為、俺のような盗賊スキル持ちの人間との連携が必須となるが。
「行こうかライル君」
「はい」
クリフさんが帰還魔法を使い、俺達はアーガス村近くの小屋へと空間転移した。
△
クリフさんはガーロンの手足を柱に括り付ける。
「死なない程度に、好きなだけどうぞ」
俺の言葉に頷くと、クリフさんはガーロンの猿ぐつわを外した。
「じゃあ、やろうか」
クリフさんはナイフを振り上げ、
ザクリ。
ガーロンの太腿に突き刺した。
「ぎゃぁあああああああああああああああああああああ」
「もう１回」
ザクリ。
「あああああああああああああああああああああ――ッ！！」
「もう１回」
ザクリ。
何度も何度もザクリザクリザクリザクリと刺していく。
刺さる度に血が飛び散っていった。
「そろそろじゃないですか？」
「そうだね」
クリフさんは回復魔法を使って、グッタリとしているガーロンの傷を治した。
そしてまた何度も何度も、幾度となくナイフが振り下ろされていく。
「俺が悪かった。謝るから助けてくれ！ なあ、助けてくれよライル！ たすけ、ぎゃぁあああああああああああああああああああああ」
延々と繰り返される心地よい悲鳴を聞きながら、俺の心は満たされていった。
