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20話 ディオルム侯爵邸への潜入

 宿屋の一室に帰ってきた。

 ここはシングルベッドが2つ置いてある普通の部屋だ。


「資金はありますから、必要な物があれば言ってください」

「特にないよ」

「そうですか」


 今のクリフさんは、髭を剃って身なりも整えている見目麗しい25歳だ。


「これが邸の見取り図だよ」


 そう言って、ベッドの上に紙の図面を広げた。

 

「ガーロン・ディオルム侯爵子息がいるのは、この部屋みたいだよ」


 指し示されたのは、2階の中央近くの部屋だった。


「邸には対魔法用の結界が張られているから、僕の魔法スキルは使えない」

「分かりました」


「それと深夜の邸内は、使用人の数が最低限に抑えられてるみたいだね」

「警備状況はどうなってますか?」


「昼間は5人程で警備してるけど、夜間はその数が10人程になる。邸の周囲には衛兵達の詰め所があって、常時10人程がいるみたいだ」


「内外全て合わせても最大20人ですか? 大分少ないですね」

「そうだね」


 おそらくガーロンの実力が考慮されているからだと思う。

 あいつ一人で数十人分の働きをするだろうからな。


「街の東西南北にも、それぞれ兵士の詰め所があって、街に何かあれば常時駆け付ける体制になってる。有事の際には臨時の兵士や傭兵まで動くらしいよ。それらも合わせると、最大でざっと3000人だね」


 結構な数がいるのは予想通りだ。


「僕の報告は、こんなところかな」

「ありがとうございます。とにかくバレないように秘密裏に動かないといけませんね」


 期待していた以上に、クリフさんは詳細な情報を集めてくれた。

 それは、神官として大陸各地を巡業していた事が関係していると思う。


 回復魔法を惜し気もなく使って人助けをしていたのがクリフさんだ。

 だからこそ協力してくれる人が、この街にも多数いるんだろう。


「決行するにあたっての問題は、特になさそうですね。当初の予定通りにやりましょう」


 そして俺達は、新月の晩に作戦を遂行する手筈となった。


 △


 月明かりの無い深夜。

 黒服を着込んだ俺達は、邸へと向かって歩いて行く。


 おそらく俺達を認識可能な人間は、この街にはいないだろう。

 俺が使用している《隠密(ハイディング)》と《消音(ミュート)》のスキルレベルが高い事に加え、黒服を着て闇夜に紛れているからだ。


「ここだな」


 力のある侯爵家という事もあり、邸はかなり大きい3階建てだった。

 3m程の塀が敷地をグルリと取り囲み、衛兵が定期的に巡回している。


「あそこから塀を登ります」


 俺は裏手に周ってフック付きロープを取り出す。

 ヒュンヒュンと回して投げて、塀の上部に引っ掛ける。

 ビシッと引っ張り、掛かりに問題がない事を確認した。


 スルスルと登って、塀から頭だけ出して様子を見たが。


「酷いな」


 掴んでいたロープを離し、一旦地面に降りた。


「やる気がないみたいですよ」


 俺は肩をすくめた。

 欠伸はするわヘラヘラ笑う奴もいるわで、まともに仕事をしてる奴なんていなさそうだ。


「兵の質が低いですね。あれなら、正面から堂々と行っても見つからないかもしれません」


 拍子抜けだが納得もした。

 Sランク任務でさえも達成した「栄誉あるパーティーの一員」がガーロンだ。

 帰還したガーロンを誇りに思い、当初は兵の質も士気もさぞ高かった事だろう。


 だがガーロンの様子を数ヶ月も見ていれば、只のクズだと嫌でも気付く。

 あいつが侯爵家を継ぐ限り、この領地に未来がないのは一目瞭然だ。


 それどころか馬鹿な主に仕えてしまえば、巻き添えで将来悲惨な目に遭うかもしれない。

 連座で責任を被せられて、一族郎党皆殺しになる可能性もあるしな。


「ガーロン君は英雄なんだろう? どうしてこんな事になっているんだい?」


「おそらくガーロンの人徳でしょうね。有能な人間ほど率先して辞めていったんじゃないですか?」


 沈む泥船からは、さっさと降りるに限るからな。


「じゃあ行きましょうか」


 俺達は塀を乗り越えて、使用人が使う裏口へと向かった。


「《盗賊の指先スペクトラムアナライザ》」


 指先から扉へと魔力が浸透していく。

 魔力反響による判定結果はSafety(安全)


「罠はありませんね」


 俺は腰に差したダガ―を取り出し、


 キィン!


 鍵穴ごと断ち斬った。

 《消音(ミュート)》のスキル効果で、周囲には聞こえていないはずだ。


「いとも簡単に……凄い切れ味のダガ―だね」

「ブラックドラゴンの牙ですから」


 俺は扉を開けて中へと入った。

 大した問題もなく邸を進み、ガーロンの寝室と思われる部屋の前で立ち止まる。

 そして扉を静かに押し開けた。

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