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11話 開眼する力

 奇妙な共同生活が始まってから9日が過ぎた。


 ギィンッ!


 ブラックドラゴンの尾を右手のダガ―で弾き飛ばす。


 ――今のは良い感じに返せたな。


 大分上達しているようだ。

 狙い通りのタイミングでカウンターが発動している。


 受け止めた際の痛みもあるにはあるが、それでも何とか耐えられるレベルにまでダメージは小さくなった。


 一撃で死に掛けた初日に比べると雲泥の差だ。

 瞬時のカウンター発動が身に付いてきたということか。


「俺の反応も、かなり良くなったと思わないか?」

『人間よ』

「なんだブラックドラゴン?」


『飽いてしもうたわ』

「は?」

『貴様は――もう死ねっ!』


 ――なっ!?


 神話の古竜(エンシェントドラゴン)が見せる本気の殺意。

 放つ禍々しさが一気に増大し、周囲の空気が震え始めた。


 暗黒竜として君臨する闇の絶対王者。

 その凶悪な三角の瞳を俺に向け、


 コォッ!


 絶大な力に似つかわしくない静かな放射音。

 それは黒い光を纏う高速の炎だった。

 神にも等しき存在が放つ絶望のブレス。


 走馬灯がゆっくりと流れていく。

 炎を受け止めれば、俺の身体は瞬時に灰と化すだろう。

 抱く想いも悲しみも、全て無に帰して塵となる。


 そんな死の淵で浮かんできたのは――全てを失った日の怒りだった。


 ――まだ死ねないんだよっ!


 絶望に(さいな)まれながらも身体は無意識に動いていた。

 一片の迷いもなく、構えていたダガ―を振り切る。

 ブラックドラゴンの炎が刃に触れるか触れないかの刹那、


 ――《カウンター!》


 ゴッォオオオオオオオオオオッ!!


 膨大な熱量を持つ黒い炎が反射され、ブラックドラゴンを包み込んだ。


『グゥッアアアアアアアアアア』


 絶叫が轟く。

 俺はその様子を黙ったままボンヤリと見つめていた。

 ブラックドラゴンはのたうち回っていたが、炎が消え去ると同時に起き上がる。


『ガハッ。グハッ! ハァッ!』

「トカゲがふざけた事してんじゃねーよっ!」


 我に返って一喝した。

 こいつは俺に協力すると言った。

 だがさっきのは殺すつもりでやったとしか思えない。


『我がトカゲか。面白い事を言う。クックック。ハーハッハッハァ――ッ!』


 突然大声で笑い始める。

 訳が分からず、俺は毒気を抜かれてしまった。


「どうしたんだよ? 気でも触れたのか?」

『クックック。ぬかせ人間が。いや、もう人間とは呼べぬか?』


 シュウシュウと煙を上げながら、ブラックドラゴンはドッカリと寝そべった。


『ふん。さすがに暗黒炎のブレスはこたえたわ』

「俺を殺す気だったのか?」

『貴様が手緩いことばかりやっておるからだ。発破をかけてやったまでよ』


 ――あれは発破なんてレベルじゃないだろ!


 ブラックドラゴンの真意を測りかね、俺は言葉を飲み込んだ。


「下手すると死んでただろうが」

『死に直面してこそ、初めて見えるものもある。そう思わんか?』

「走馬灯は見えた――って、おい、何笑ってるんだよ?」


『暗黒炎をその身に受けて無傷とはな。少なくとも貴様は『神の領域』に足を踏み入れたことになる。我はその瞬間に立ち会えた。これほど面白いこともあるまい』


「神の領域?」

『分からんのであれば、その目で確かめてみるがいい』

「目で確かめてみる?」


 ――ああ、冒険者カードのことか?


 俺は冒険者カードを取り出した。


【ライル・グローツ】

 職業:盗賊(シーフ)

 武器:短剣

 LV:――

 HP:160/200

 MP:96350/99999


 しばらく前にレベルが99、MPが99999になってからは、何も変わっていな――


「ん? 何だこれ?


 レベルは「99」だったのが「――」になっている。

 俺は冒険者カードを裏返してスキルレベルも確認していく。


「こっちもか?」


 カウンターのスキルレベルも「99」だったのが「――」になっている。

 カウンター以外の各種スキルレベルは40台のままのようだ。


『理解できたか?』

「いや。冒険者カードが変な表示になってるみたいだ」


 理解するどころか、むしろ理解不能な状況だ。


「これって一体どうなってるんだ? 分かるか?」


 ブラックドラゴンに見せてみた。


『ふむ。貴様は自身の変化に気付いてはおらんのだな』

「変化?」


 ブラックドラゴンはやれやれといった感じで、ゆっくりと息を吐き出した。

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