大池タウン4
昼食が終わったころ、おじさんがブレスレットを持ってきてくれた。
「待たせたな。通信回復したぞ。」
「ありがとう。おじさん。まんぼさん具合はどう?」
「はい。通信状態が悪くなってからリセットまでのことは思い出せませんが、それ以外の異常はないと思われます。」
「じゃあジェイたちのことも覚えてる?」
「はい。「伝説のたい焼き屋さん」も覚えてますよ。」
「そっか。良かった。」
「それからメッセージが多数来ています。確認してください。」
「おう。凄い量の着信があったぞ。大人気だな。」
「うわ。こんなに一度にメッセージもらうの僕初めてだよ。」
父さんと母さんからは仕事でどうしても迎えに行けないからと、シティ行き乗り合いシャトルのチケット情報が送られて来た。
念のため医療センターで検査を受けてから、今日は自宅に泊まるようにとのことで、学校と寮にも連絡済み。
僕が検査を終えて家に着くころまでには帰りたいと書いてあった。
クラス担任からのメッセージも同じような内容だ。
それから草原実習については、予定していた課題ができなかった代わりに感想文を提出するようにとのことだった。
ヴィークルはシティの職員が回収してくれるそうだ。
今日は寮に帰らないことになるので、心配をかけないようクラスのみんなにも事情を伝えたとのこと。
そんなわけでクラスの友達からのメッセージがたくさん。
「ちゃんと返事するんだぞ。」
「うん。わかってるよ。でも返信苦手だなぁ。」
「メッセージ交換ぐらいするだろう?」
「僕、直接会って話しする方が好きだから。」
シャトルを待つ間も乗ってからも、僕は慣れない返信を書くのに忙しかった。
「また遊びに来いな。」
「美味しいもの用意して待ってるわね。」
「はい。どうもお世話になりました。」
「楽しかったな。」
「うん。何だかとても長い時間だった気がする。」
「「草原実習」が充実していたってことだろう?」
「これでも「実習」になったのかな。考えてたのとは随分違ったけど。」
「無駄な事なんてないんだろ?」
「うん。そうだね。」
「じゃあ、元気でな。」
「うん。またね。」
「ジエイさん、みなさん、さようなら。」
「兄弟なのに似てないっていつも言われるんだがなあ。」
「確証はなかったみたいだけどね。聞いてて冷や汗ものだったよ。」
俺はクラギーさん経由で音声情報などをオヤジのアイ・端末に送ることを許可していた。
もしこの手続きが不要なら盗聴なんかされ放題だ。
「俺も兄貴から聞いてたお前らの命名秘話を言い当てられたときは驚いたがな。」
「なんだって?」
「ま、多分気付かれなかったんじゃないか?お前らもジエイは兄貴に似てるが子供の頃の顔だし、ケイは義姉さん似だからな。」
「中身は逆じゃあないか?」
「ああ。俺もそう思った。ケイには悪いがな。」
父さん達もシティで同じように、俺や通信が回復した後のケイのアイ・端末から情報を取得していたはずだ。
ただし当然本人の許可は受けていない。
むしろアイ・ホスト公認でやってるのだろうから、かえってタチが悪い。
「ケイの安全を守るためさ。」
とか言いそうだが、危険にさらした張本人の弁だから説得力ゼロだ。
「父さんは俺たちのこといつまで隠しておくつもりなんだろうな。」
「おや?戻りたいと思ったか?」
「これまでは思わなかったな。オヤジたちには良くしてもらってるし、タウンも性に合ってる。」
「ほお?」
「でもああいう弟との暮らしも楽しそうだなって。」
「そうか。その気になったらいつでも言ってくれて構わないぞ。」
「それにしても今回のことにどんな意味があったんだかな。」
「父さんもアイ・ホストも何を考えているか謎だから。」
「ケイならそれに近づけるんじゃないか?そんな気がしたぞ。」
「俺には小生意気な弟と過ごす時間が持てたってだけで十分だよ。」
「そうか。そうだな。」