大池タウン3
満足そうにたい焼きをかじりながら思い出したようにケイが言った。
「あのね、ゆうべご飯をいただいている時に、何だか変な感じだったんだ。」
「えっ?何かまずかったか?」
「あ、ごめん、そういうんじゃなくて、初めて来た家なのにものすごく安心できたの。」
「そうなのか。」
「うん。ジェイのお父さんとか、お話ししてる時に僕の父さんとか思い出したし。」
「えっ?」
「どこがどうとか良くわからないんだけど…。」
「顔つきとかか?」
「違うと思う。」
「あんな風に大雑把とか?」
「ううん。父さんはどっちかっていうと、ふにゃふにゃな感じ。」
「何だそれは。それでどこが似てるになるんだ?」
「変だよね。どうしてそう思ったのかな。」
「良くわからんなあ。」
その後、折角なので俺とケイそれぞれの家にお土産を買おうと、もう一度列に並び直した。
「最初から持ち帰りにすれば良かったのかな。」
「いや、焼きたてを食べる誘惑には勝てないだろう。」
「そうだよね。でも、さっきお土産も一緒に買っておけば良かったね。」
「あ…。」
ほかほかのたい焼きが入った紙袋をケイは幸せそうに抱きかかえている。
「今日は楽しかったか?」
「うん。ジェイとクラギーさんのおかげだね。まんぼさんも元気になった気がする。」
「でもまんぼの体験っていうならシティでやった方が良かった気もするがなぁ。」
「どういうこと?」
「所詮タウンはシティを小さくしただけだろ。最初からシティで経験した方が手間が省けるっていうか…。」
「タウンはタウン、シティはシティだと思うよ?」
「俺には何もない街にしか見えないけどな。ここのガラクタを集めてもガラクタができ上がるだけじゃないのか?」
「何でそんなこと言うの!?」
「えっと、それは…。」
「あのね、アイ・システムはとてもたくさんの情報を集めて溜めるんだよね。」
「え?どうしてアイ・システムの話になるんだ?」
「んとね、でもそれを何に使うかは考えないんだって。たぶんその時にはガラクタとかそういう区別はしないんだと思う。」
「…?」
「それって、僕たちが何を質問するかはわからないから。その質問に答えるのに何が必要かはわからないから。だから何を溜めて何を捨てるか、そんなこと決めちゃいけないんだって。」
「…!」
「だからガラクタなんて無いんだと思う。シティのことなら友達のアイ・端末だってみんなが知ってる。でもタウンのことはここに来ないとわからないじゃない。無駄なんてないんだよ。」
確かにケイの言うとおりかもしれない。
「悪かった。俺、気付かずシティに引け目を感じてたのかな…。多分心配になったんだ。こんなちっぽけなタウンでも、まんぼの役にたてるのかなって。」
「すごく助けてもらってるよ。タウンにもジェイたちにも。」
そうか。
ケイが実践していたことだ。
いつでもまんぼを表示して全てを見せて話しかけて。
そして「大切なこと」も伝えた。
まんぼは十分な情報を得て、だからそれに応えた。
急成長の理由はそれが正解である気がした。
「しかし、ケイはいつもそんな難しいこと考えてるのか?」
「まさか。こういうことを言うのは父さんだよ。」
「ふにゃふにゃなのに?」
「うん。ふにゃふにゃだけど。」
話をしながら歩いているうちに家へ到着した。
オヤジが玄関まで出迎えに来ていた。
「お、帰ったな。ケイ、腕輪を貸してみろ。」
「はい。どうするんですか?」
「ちょっと調べてみたんで、通信が回復するか試してみる。」
「え、できるんですか?」
「やってみないと判らんがな。」
「あ…、でもそうしたら、まんぼさんはここでのことを忘れちゃう?」
「大丈夫だと思うぞ。そういうところは辻褄が合うように調整してくれるはずだ。」
「良かった!」
「待ってな。お前たちが昼飯を食べ終わる頃には何とかなるだろう。」
「はい。よろしくお願いします。」