大池タウン2
「ジェイが良ければタウンを案内してくれない?」
次の日の朝食後にケイが言い出した。
「別に構わないが。」
「ここにいても僕にできることはなさそうだし。」
俺の親は二人ともシステム屋で開発用端末とのにらめっこ?が仕事だ。
今日は休日のはずだが仕事が押している時の常で食後は自室に引っ込んでしまった。
「ちゃんとケイの面倒を見てやれよ」と俺に丸投げだ。
皆して俺を便利に使いすぎてはいないか?
とはいえ、ケイのアイ・端末をもっと観察してみたいので外出は好都合かもしれない。
それに昨夜からのモヤモヤした気持ちを追い払うのにも良さそうだ。
俺たちは簡単に身支度を整え外に出た。
「大池タウンは名前のとおり水源の池を囲むようにあるんだ。」
「へえ、でも池は見えないんだね。」
「俺の家はシティ寄りの外周近くにあるからな。」
「だから昨日はタウンに着いたと思ったらもう家だったんだね。」
「ああ、外に出るのは楽だけど街中へは少し歩くことになる。」
「さて、どこへ行く?」
「おすすめはある?」
「公園、工場、商店街、小さいけれどゲームセンターもあるぜ。」
「ゲームセンターにも心ひかれるけれど、まずは商店街かな。好きなんだ。近いの?」
「俺の家は外れだと言ったろ。」
「そうだっけね。」
「それとあまり期待はするなよ。」
大池タウンは池の周囲が公園になっていて、そこに接して住宅地がある。
住宅地には商店街や公共施設などが配置されている。
そうしてそれらの周囲を倉庫や工場などが囲んでいる。
俺の住む家は通常の住宅街からは外れているので倉庫群のほうが近い。
仕事用に中継器を設置しているので少しでもシティと近いところにしたそうだ。
実際はどの位置でも大差あるとは思えないから気分的なものだろう。
そういった説明をしながら街中に向かう。
今日もケイはアイ・端末のホロを表示したままだ。
興味深そうにあちこちを見ている。
「昨日リセットしちゃったから、まんぼさんに色んな体験をさせてあげたいんだ。」
「それでずっとホロを表示したままにしてるんだな。」
「これはいつもなんだけどね。」
「へぇ、珍しいな。シティでは流行ってるのか?」
「ううん。僕ぐらいかな。シティでも珍しいって言われる。友達は慣れてるけどね。」
「自覚はあるんだな。」
「それにしても教科書とかテレビでは見るけれど、本当に建物が1軒ずつ分かれてるんだね。」
「シティは集合住宅ばかりだよな。だけどタウンでも学校や寮なんかはシティと同じだぞ。」
「ジェイは寮に入ってるの?」
「いや、俺は自宅で通信制だ。」
「タウンでは多いんだってね。どうしてかな。」
「シティと違って家で仕事をする親が多いからかな。俺の場合はそれに加えて学校も少し遠いんだ。」
「あ、あの木がたくさん生えてるところが公園?」
「そうだ。その向こうに池がある。」
「池、見てみたい。商店街の次に行こうよ。」
「わかった。商店街はもう少し行った先だ。」
「やっぱり商店街は楽しいねぇ。」
「シティに比べれば大したことないだろう。」
「そんなことないよ。」
「さっきから食べ物屋ばかり見てないか?」
「だって美味しそうなミカンだよー。リンゴもつやつやしてる。」
「ケイは食い意地魔人か?」
「ジェイは美味しそうだと思わないの?」
「何か買って食べるか?」
「う~んと、お昼をおいしく食べられなくなるから我慢っ。」
「子供かっ。」
とりあえず見ただけも満足はできたらしい。
次に俺たちは池を見に公園へやってきた。
「大きいー。」
「そうか?」
「シティの池ってジェイのうちの庭ぐらいの大きさしかないもん。」
「そんなに小さいのか。」
「うん。建物ばかりだからね。ここからだと木で家も見えないし、タウンの外に来てるみたいだね。」
そんな時だった。
「ジエイ、たい焼き屋さんが来てます。」
「わ、クラギーさん久しぶり。ジェイはたい焼きが好きなの?」
「クラギーさん、それは「伝説のたい焼き屋さん」か?」
「そうです。」
「伝説!?」
「聞かせてやろう。各地のタウンを渡り歩く幻の「たい焼き屋さん」だ。」
「タウンを?シティには来ないの?」
「そう。そして長くても一週間と留まることはない。次にいつ来るのかも誰も知らない。」
「うんうん。」
「もちろん味は絶品。」
「食べるっ!」
「ケイ、美味しいお昼ごはんを食べるのに間食は禁物ですよ。」
実は話をしながら多少期待はしていたのだが、想像以上に絶妙なタイミングだ。
「えー、何言ってるのまんぼさん。これは食べなくっちゃ~。ジェイも食べるよね。ねっ。」
「1匹買って半分ずつ食べるってのはどうだ?まんぼ。朝から歩き通しでさすがに小腹も減ってきた。」
交渉事を試してみる。
「了解しました。」
譲歩してくれるんだ。
「わぁ、ありがとう、まんぼさん。ジェイもありがとう。」
相変わらず成長の早さは謎だが、このアイ・端末「まんぼ」の行動が少し予想できるようになってきた。
行列に並んで手に入れた「たい焼き」を早速ふたつに分けると、あんこの良い香りが湯気とともに漂った。
「ケイは頭と尻尾とどっちが食べたい?」
「あんこたっぷりの頭!」
「ふっ、うちのたい焼きは尻尾の先まであんこが詰まってるぜ。」
「じゃ、カリカリの付いたしっぽ。」