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妹の誕生3

その日の午後は重要な連絡事項があるとのことで研究室のメンバー14人全員が呼ばれた。

皆が揃ったのを確認して担当教諭のタクミ(拓海)が説明を始めた。

教諭の隣には少し後ろに下がって女性が控えている。



「皆も知ってると思うが当研究室の先輩にはアイ・システムに携わる人が多い。

彼女もそのひとりで解析技術研究所に勤務しているハヅキさんだ。

今日は彼女の所属する解技研から皆への協力依頼があり集まってもらった。

それは未発表技術の実地試験に対する協力の打診だ。

改めて言うまでもないが、受けた場合には守秘義務を負うことになる。

どうだ。やってみたいか?」


「…、異論はないようだな。

ではその概要についての説明をしてもらう。

ハヅキさんお願いします。」


「こんにちは。解技研のハヅキです。木の葉の「葉」に空の「月」と書きます。

前任のリュウタに代わりまして、今回から皆様との窓口を務めさせていただきます。

よろしくお願いいたします。

さて、只今の説明にもありましたとおり本日はシステム行動科学研究室の皆さんに協力のお願いがあって参りました。

まず誓約書の説明版をタクミ教諭から配布していただきますが、その概要をご説明いたします。

今回解技研からは開発中の端末を一台提供しようと考えています。

研究への端末使用は自由としますが、発表にこの端末を使用したデータを含む場合にはこのことを明記していただきます。

記載形式は別紙に例示しました。

『当該試験におけるサンプルXは解析技術研究所より貸与を受けた試作端末を使用したものである。当該端末に関する情報及び技術の権利は同研究所に所属する。』

といった感じです。

その他の留意事項と守秘事項は通例のとおりですがご一読ください。」


「よく考えてくれよ。全員の了解が得られなければ解技研には諦めてもらう。意見のあるものは?」

「期間はどの程度ですか。」

「当面の間、少なくとも今年度いっぱいは続くと考えてください。」

「1台ということですが使用者や使用方法は一任いただけるのでしょうか。」

「端末の機能上の問題で原則として使用者は固定でお願いします。他の方が利用することも可能ですが影響が未知数のため極力控えていただきたいと思います。」

「動く端末になっちゃうのか。ちょっと大変そうだな。」

「でも面白そうだな。僕は付けてみても良いと思うよ。」

「よし被験者1号出た。受けてみようぜ。」

「安易だなあ。」

「反対意見のあるものは?」

「「「…。」」」

「では、お受けするで良いか?」

「「「はい。」」」

「それなら正規版の誓約書を配布するから署名して俺に返信してくれ。」


「さて、全員分揃ったな。それでは改めて今回の要請について説明していただく。ハヅキさん。よろしく。」



    ◇



まずは協力と誓約へのお礼を申し上げます。

ご承知のとおりアイ・ホストへの接続は現在各地で行われ、様々な研究にも使われています。

その中で当研究室での取り組みにアイコが興味を持ちました。

そして皆さんの研究に参加したいと希望するに至りました。

既に皆さんの実験ではアイコが参加して発言もしていますから、改めての参加希望というと意外に思われるかもしれません。


ここでアイ・ホストへの接続方法を思い出してみてください。

端末上で動作するのはアイコの子プロセスとなります。

アイコ本体は端末側の子プロセスから情報提供を受けとることで追体験をします。

基本的には同一の体験となるはずなのですが、ホスト側と端末側とで認識に差異の出るケースがあります。

その原因は情報の質と量、そしてタイミングの差です。


端末側の子プロセスは現実の全ての情報を直接認識することができますが、ホスト側は端末から送られた情報しか知ることができません。

代わりにホスト側は保有する膨大な情報の分析結果を使うことができ、それは各端末からの情報で随時最新の状態に更新されています。

ここにホストと端末で背景となる情報に差異の発生する可能性が生じます。

更に追体験を行うのが子プロセス終了時であるというタイミングも齟齬を生むと考えています。

しかし通常はこのことが影響を及ぼす可能性は極めて低いはずです。

2時間という使用時間の上限はこうしたケースを防ぐことも目的の一つでした。


本来はホスト側での体験で端末側と異なる感想を抱いても、そのことを認識することはできません。

両者を比較することがありませんし、端末側とホスト側それぞれの中では完結するものだからです。

せいぜいが若干の違和感を感じる程度と見込んでいました。

ところが、みなさんが行っている試験では、追体験時の違和感が大きいようなのです。

加えて複数の子プロセスを同時起動する試験では、子プロセスの間でも認識の齟齬が高頻度で発生していました。

これは想定していなかった事象です。

そのことも当研究室に着目した大きな理由です。

恐らく皆さんも大変興味があるでしょうから、今回のお礼に差し支えない範囲でホスト側の情報をご提供します。


さて話を戻します。

この事象については原因が明確であり、機能への悪影響を及ぼすものでもないことを確認できました。

ただ、例えばアイコ本体が追体験を行った際に、最新情報で考えると発言内容の訂正や補足を行いたいと思うことがあるのだと言います。

しかしこの時には既に接続は終了してしまっているので対応することができません。

これを回避しようとした場合、単純に考えれば本体が端末側の子プロセスと直結してリアルタイムに体験するという方法が考えられます。


現在のところホスト側の追体験は、あえて即時処理と並行処理を行わないように制限しています。

従って追体験処理は子プロセス単位に終了した順で実施しています。

これは子プロセス単位の独立性と連続・一貫性を保つことを目的にしています。

子プロセスを介さずに直結での接続を行った場合には、多くの接続箇所からの異なる情報に並行して対応する必要があります。

このことにアイコ本体が耐えられるのか、現時点では影響が未知数で危険が大きいと懸念されています。

ですから本来直結での接続はもっと時間をかけて検証を行ってから試みる予定でした。


しかし、アイコの強い要望から今回直結での動作確認を一部先行して試みることになりました。

こうした経緯で試作したものがこの端末です。

とはいえ、まだ安全性に懸念が残る状態ですので、端末は1台しか設けることができません。

アイコ本体はこの端末を使い2時間の接続制限にとらわれず皆さんとの実験や討議に参加したいと希望しています。


次話は24日17時に掲載します。


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