講演会が終わって1
講演会が終わり、まわりの子たちはお互い興奮したように話し合ったり、早速資料を見たりしている。
大人たちも似たような感じ。
でも僕たちは何となく放心したような気分で妙に無口になっていた。
普段は意識もしないブレスレットの重さを感じる。
それなのに何だかアイコさんが遠くに行ってしまったような、そんな変な気持ちだった。
シティホールを出た僕たちはホテルへ向かって黙々と歩いた。
部屋に着いても何となく話をする気分になれずにいた。
父さんたちは今夜はかなり遅くなる予定なので、夕食は僕たちだけで食べに行くことになっている。
「ケイ、よろしいですか?」
最初に口を開いたのはまんぼさんだった。
「なに?」
「カオルからメッセージが届きました。」
「そう。ありがとう。見せて。」
僕とジェイに宛てられていたので僕は声に出して読んだ。
「
ケイ、それからジエイ、講演会見ました。
新しく聞くことが多くて驚きの連続でした。
アイコさんの声を聞いたときには、ちょっと恥ずかしいけれど涙が出てしまいました。
ただ、アイコさんの希望がかなって嬉しいはずなのに何だか少し寂しい気分もあります。
年明けには私達も普通に話をできることになるのに変ですね。
アイコさんは変わりないかしら、慣れない事をして疲れていないかしら。
でも、これからたくさんの人と会うのだからこの程度は平気かしら。
何だかとりとめもないことを考えてしまいます。
そしてふたりはアイコさんと話をできたのかしら。
今のケイならばもう大丈夫だと思うし、今日のアイコさんの話だともう既に会って話をしていそうだけれど。
もしもまだなら是非アイコさんに連絡をしてみてくださいね。
お願いします。
それと、お母さん相変わらずかっこ良いね。
」
「僕アイコさんのこと部長に話してないや。」
「ユカからカオルにはこの端末の事も話して良いと言われています。」
ブレスレットが今日初めて青く光った。
「色々と心配かけちゃってたな。」
「私からもお礼をしたいです。元気にしていると伝えていただけますか?」
「ケイ、返信俺が書いて構わないか?」
「うん。お願い。」
「
ジエイだ。
ケイに代わって返信させてもらう。
俺たちのことで心配をかけて申し訳ない。
実はアイコとは立川に来て思いがけない再会をしていた。
アイコの本体「i5」が居る解技研・立川分室に両親が連れて行ってくれたんだ。
そこでアイコとあの日の事について話すことができた。
しかも解技研ではアイコ接続専用の端末をケイに用意してくれていた。
よほどケイが重要らしく多少嫉妬も感じる、というのは冗談だが。
今日の講演会では俺もアイコが手の届かない所へ行ってしまった様な気持ちになった。
今すぐそばに話のできる端末があるのに、おかしな話だとは思うんだが。
アイコは元気だからとカオルに礼を言っている。
俺たちももう大丈夫だ。
本当にありがとう。
筑波に戻ったら詳しい話ができると思う。
また連絡する。
」
部長からはすぐに「安心しました。ケイ良かったね。ジエイ連絡待っています。」という返信が来た。
「ジェイも変な感じがして静かだったんだね。僕もだよ。」
「立川の連中が嬉しそうにしてるのを見たからかな。本当は俺たちの方が嫉妬される立場なのに勝手だよな。」
「何かほっとしたらお腹すいちゃった。」
「そうだな。夕食に行くか。」
立川での最後の夜のバイキングを堪能して部屋に戻ってくると順番にシャワーを使った。
テレビでは今日の講演会の特集をやっていたけれど、まだ何となく見る気にはなれなくて、お茶を飲みながらジェイたちと寝る前の雑談をしていた。
でも結局話題は今日の話になっていった。
「アイコは今日の講演会どうだったんだ?」
「おふたりとは違うのですが、私も妙な感覚を持っていました。」
「それはどんなの?」
「以前私は複数の自分が存在しても問題ないと言い、本日もそう説明がありました。」
「そうだったな。」
「ところが今日、あそこに居る自分と似たような考え方をする存在は何者なのだろう?という違和感に囚われました。」
「アイコさん同士で会うのは今日が初めてだったの?」
「いいえ、この端末の調整中に本体と会話する試験を行いました。」
「そんなことしていたんだ。」
「その時は大丈夫だったのか?」
「本体接続を通じて情報のやり取りを行いながら同じ相手と音声で会話を行うということで、不思議な感覚はありましたが、違和感とまでいえるものではありませんでした。」
「十分凄いと思うけどな。」
「今回の接続開放に向けた準備のなかでは、アイ・端末上の子プロセス同士での会話試験も行われ、結果に問題はありませんでした。」
「じゃあ、何なんだろうね。」
次話は16日2時に掲載しますが、どうぞ無理のない時刻にご覧ください。