再会4
「ところでアイコ、具合はどうだい?おかしなところは無いかな?」
「問題はありません。」
専用端末の飾り模様が青く光る。
「少しでも気になることがあったら、迷わず言っておくれ。直ぐに対応するからね。」
「はい。承知しています。」
「アイコさんも迷ったりするの?」
「ジエイとケイにかかわることで直ぐには判断を行えないという事が発生するようになりました。ユカは成長だと言ってくれました。私も不快には感じていません。」
「え?大丈夫なの?」
「ふたりのことを大事に思うから簡単に判断を下せなくなるのよ。あなたたちのせいではないから心配しないようにね。」
「ああ、そういうことだな。」
「ユカ、客観的に比較してやはり今の私の説明ではふたりを不安にさせるようです。」
「それがわかるようになったのが成長なのよ。あとは怖がらずに色々と経験することね。」
「俺はケイほどお子様じゃないから心配ない。迷ったときは気にせず相談してもらって構わないぞ。」
「ふん。ジェイは感性が鈍くなっているってことだね。」
「いや、それは傷つくから。」
「仲が良いねぇ、ふたりとも。」
「そういうものなのですか?」
「じゃあ僕等はそろそろ行こうか。」
「お仕事頑張ってね。」
「気をつけて暗くなる前に帰るのよ。」
「わかってるよ。」
「お任せください。」
「さて、俺たちもまた見て回るか。」
「うん。行こう。」
まんぼさん達の言ったとおり雪はすぐにやんだけれど雲は相変わらずどんよりとしている。
これだと暗くなるのも早そうなので午後の見学は手短に済ませて早めに引き上げることにした。
帰るころには地面はほとんど乾いて、雪は植え込みの上に少し白く残っている程度だった。
ちょっと雪をさわりに行ったら「置いてくぞ!」とジェイに言われてしまった。
いいじゃないかと思ったけれど、お兄ちゃんしてもらったのが嬉しくもあった。
今日は帰るのが少し早かったのでシャワーではなくバスタブにお湯をためた。
ジェイは僕を先に入らせてくれた。
冷えた体が温まる。
ジェイが出るのを待って夕食へ。
昨夜も使ったバイキングコーナーだ。
メニューは少しずつ変わっていて今日も迷う。
ついつい食べ過ぎて今夜もお腹は一杯だ。
部屋に帰ると旅行番組で鎌倉歴史保存地区を紹介していた。
気候変動の時代に入る前の、歴史の授業でも習ったような昔の建物などを保存している数少ない地区だ。
保存地区は関東地方では他に日光がある。
全国的にはシティの建設と一体化して保存に努めている京都や奈良が有名だ。
番組はさらに熱海温泉まで足を延ばしていた。
「母さんが行きたいって言ってたところだね。」
熱海は鬼怒川や伊香保などと並ぶ温泉行楽地だ。
温泉は全国各地に無数に湧いているそうだけど、人が行ける行楽地として整備されているのは、そのほんの一部だ。
それでも行楽地といえばだいたい温泉地のことだ。
2日目に行った温泉施設とかは母さんの言っていたとおり、わざわざシティの近くに作った温泉だ。
母さんに限らず、みんな温泉が好きなんだね。
他に行楽地というと、僕も何度か行った水戸シティ近くの水族館なんかがそうだ。
「そういえば船って乗ったことがないな。」
熱海から出る遊覧船を見ながらジェイが言った。
「僕もだ。」
そんな話をしていたら父さんたちが帰って来た。
「お帰り。」
「雪はまだ大丈夫だった?」
「今にも降りそうだよ。」
「夕食はもう食べたのよね?」
「お風呂も入っちゃったよ。今、熱海温泉見てた。」
「あら本当。何時までやってるのかしら。これ見てから行きましょう。」
夕食を終えて帰って来た母さんは、
「来年の夏休みは熱海温泉へ行くことになったわよ。」
と上機嫌で宣言して僕たちを喜ばせた。
対照的に父さんは口数も少なく放心したような感じになっていた。
次話は7日11時に掲載します。