出会いと2
翌朝目が覚めるといつもと同じく目の前にまんぼさんが現れた。
表示された時計は6時12分。
うん、普段どおり。
天気も良い。
僕は充電器の上に置いているブレスレットを腕に付けて身支度を整える。
朝食までの時間はいつも朝の情報番組を眺めている。
今日も大きなニュースは無いみたいだ。
レポーターのお姉さんが人気のパン屋さんの新メニューを紹介している。
時計が7時10分を過ぎたのでテレビを消して食堂へ向かう。
朝食は7時半までに食堂に着けばよい。
食堂は眺めの良い最上階にあるので、階段を上って行く。
良い腹ごなしだけど、先ほど見たパンが美味しそうだったのでいつもよりお腹がすいた感じ。
今朝のメニューはキャベツとコンビーフ入りのホットサンドだった。
頭の中がパンでいっぱいになってたので嬉しい。
それからコーンスープ。
デザートはフルーツ入りヨーグルト。
飲み物は牛乳を選んだ。
「ケイは背丈がちょっと控え目だけど、多分成長する時期が遅いタイプだから気にする必要はないよ。高校へ入る頃にはぐんぐん背が伸びるはずだからね。」
とか言う一方で、
「大昔から背を伸ばすには牛乳が一番という言い伝えがあってね。」
などと言う父さんの言葉に惑わされたわけじゃないけれど、パン食のときは牛乳を飲むことが多い。
食後は運動部の練習に行く人、一旦部屋に帰る人、食堂でそのまま友達とおしゃべりして待つ人など、朝のホームルームが始まる8時20分まで皆それぞれに過ごしている。
僕は天気が悪い時は食堂に居るけれど普段は屋上に出ることが多い。
カボチャやそろそろ終わりかけのミニトマトなどが植えられた学級菜園があり、ベンチも置かれているので食堂からお茶などを持ってきて飲むこともできる。
今日は空気が澄んでるので筑波山だけでなく、もっと遠くの山々も良く見える。
都心をはじめとして他のシティも小さく見えている。
でもこの季節は冷えるので屋上に出てきた人は数えるほどだった。
クラス担任が来て出欠確認と連絡事項が終わると午前の授業が始まる。
今日の午前中は実習が無いのでずっと教室。
最初に正面の大型モニターを使って今日の授業が行われ、それから卓上の端末に課題が出題される。
理解できない事があると、端末上でもう一度授業を聞き直したり、クラス担任に説明してもらったり。
最後に今日の振り返りがあって休み時間になる。
お昼にはまた食堂へ。
昼食のメニューは煮魚と白御飯だった。
それから青菜の胡麻和えとトン汁。
トン汁は好きなのでおかわりしちゃった。
午後は化学の実習。
今日はスクーリングの人も一緒に授業を受けるので、2枠連続に時間割が変更になっている。
僕のグループにも一人参加した。
いつも一緒になる「おっくん」だ。
漢字は奥っていう字を使うオク君。
ご先祖様の苗字を使っているんだって。
実験装置をセットして反応を待っている間はちょっとヒマなので小さな声で雑談。
「ねえ、ケイくんは「深淵」みてる?」
「うん。海底人はちょっと気味が悪いけど、魚がたくさん出てて楽しい。」
「やっぱりね。それで、明後日の回は見逃さない方がいいよ。」
「ひょっとしてマンボウ?」
「あたり!あのドラマは比較的原作本に忠実だから多分出ると思う。」
「本のほうは「交差する深淵」だっけ。おっくんは読んでるんだ。」
おっくんはSF好きだ。
「ケイくんは本の方は読まないの?」
「気になるんだけどね、多分読み始めると我慢できないで最後まで行っちゃうと思うんだ。」
「それは間違いないね。」
「だからドラマ版が終わってから読もうと思ってる。」
「うん。それも良いんじゃない。」
「教えてくれてありがとう。」
実習も楽しかったんだけれど、あっという間に終わってしまった。
授業のあとは部活動。
やはりアイ・ホストへの接続が話題の中心だった。
部長がものすごく本気でちょっと怖い。
僕も、まんぼさん(のふりをしたアイコさん)も知らん顔してたけど少し後ろめたい。
夕食はポークソテーの温野菜添えがメイン。
御飯かパンを選べたけれど今朝の続きでパンの気分だったのでロールパンをふたつ。
デザートは部屋で食べるようにミカンをもらってきた。
部屋に戻るとテレビはバラエティー番組の時間でクイズをやってた。
よく見る歌手や俳優さんが回答者席に並んでいる。
僕はミカンをむきながらアイコさんに聞いてみた。
「アイコさん今日一日どうだった?」
「いずれも情報としては知っていることでした。しかし実際にその場にいると圧倒されるような情報量に驚きました。」
「そうなんだ。僕は普段どおりのつもりだったけれど初めてだとそう感じるんだ。明日からはもう少し慣れると良いね。」
「これだけの情報を整理して送って来るアイ・端末にも驚いています。」
「へえ。同じアイ同士でもそう思うんだね。」
「それぞれに役割が異なりますから。」
「ジェイと話している時とは違った?」
「ジエイとはいつも同じ部屋の中でしたし、話す時間も長くて数十分程度でした。」
「そっか。まんぼさんは元気にしている?」
「ケイの事について私に色々とアドバイスをくれます。」
「まんぼさんにありがとうって言っておいてね。」
「承知しました。」
クイズ番組も終わり、本当は大浴場の方が好きなんだけれど今日は部屋のシャワーで済ませた。
宿題と少しだけ今日の復習をしてからベッドに入る。
「おやすみなさい。まんぼさん、アイコさん。」
「おやすみなさい。ケイ。」
それからも普段と変わらない日が続いた。
アイコさんはずいぶん慣れてきたと言っていた。