学園祭1
「ジェイ。来週の週末は学園祭なんだけど、遊びに来ない?」
今年も凶悪な台風が何個か通り過ぎ、そろそろ雨季も終わるという頃、ケイからこんなメッセージが来た。
そういえば俺にもそんな連絡が回ってきていた。
転入したてのうえに通信制ということもあり、良ければ参加しないか、といった感じだった。
なので、すっかり頭から抜け落ちていた。
でも、ケイから誘われたのなら話は違う。
俺はもちろん行くと返信をした。
学校にはスクーリングで何度か来ている。
小学校、中学校、高校と、体育館や寮などが一緒になった複合施設で独特の雰囲気がある。
とはいえ外観だけならばシティでもとりたてて珍しい建物とは言えない。
そんな校舎も今日は学園祭独特のポスター類や看板が目を引く。
このあたりは古典マンガで見るような時代から変わらないみたいだ。
というか、殊更に意識している風もある。
そんな普段とは違う装いの学内に入ると早速クラギーさんがパンフレットをダウンロードした。
その情報を聞きながら面白そうな出し物をチェックしつつ、ケイのクラスの教室に向かう。
そこは聞いていたとおり、伝統的ど定番の「喫茶店」だった。
店内に入るとケイが「ウエイトレス」姿でお出迎え…。
もしそうだった場合の心づもりができていないことに気付き入口前で躊躇。
だけど「お客様、ご利用でしたら直ぐにご案内できますよ。」と案内係の子にニコニコと笑顔で席まで連行されてしまった。
そもそもここが目的で来たのだし、特に断る理由もないのでそのまま席に着く。
あらためて室内を見渡すとケイはカウンター風に作られた向こう側でコーヒーを淹れていた。
案外サマになっている。
俺はホットコーヒーを注文。
少ししてコーヒーを運んできたのはケイだった。
カップは2人分。
「ジェイが来たから少し早いけど交代してもらっちゃった。」
「邪魔しちゃったか?悪かったな。」
「大丈夫。お客さんの入り具合も落ち着いているし。」
甘さを感じさせる香りに誘われて口をつけてみる。
「こっちに来て母さんのコーヒー美味いなって思ってたけど、ケイのも負けてないな。」
「ありがとう。でも母さんにはかなわないよ。」
「そんなことないぞ。今度からケイが帰ってきたときは淹れてもらいたいほどだ。」
「本当に?じゃあ、頑張るよっ。」
ケイの淹れてくれたコーヒーはお世辞抜きに美味しかった。
「ところでホントに交代しちゃって良かったのか?これだけ上手な人がそう沢山いるとは思えないんだが。」
「大丈夫だよ。どうせ中学生が淹れるコーヒーだし、豆もそれなりに良い物を使っているからね。」
「そういうものかなぁ。」
「それより、飲み終わったら一緒に見て回ろ。どこか行きたいところはあった?」
「ああ、いくつかあったけど、まずはケイの部活に行ってみたいな。」
「情科研だね。わかった。僕も案内したかったんだ。顔も出しておきたいしね。」
ケイはクラスの当番は既に終わっていて、このあとはフリーになっているそうだ。
部活の方も展示だけなので特に居なければいけない時間帯とかは無いらしい。
俺たちはコーヒーを飲みながら、ケイが聞いてきたお勧めの出し物や、俺が気になった展示など見て回る計画を相談した。
まだお昼前。時間はたっぷりある。