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新生活1

第二章もよろしくお願いします。

ジェイは難しいことを考えるお年頃です。

丁度良いので、しばらく面倒な解説を任せます。


ケイは自分でも言っていたがメッセージは得意ではないらしい。


「最近寒いね。」

「試験終わった。結果はちょっと自信あるよ。」

「学年で10番以内に入った。すごいでしょ。」

「2年生に進級したよ。クラス替えは無かったんで今までどおり。」


そんなメッセージが時折思い出したように送られて来る。

メッセージのやりとりよりも直接会話をする方が好きだと言っていたから、実はこれでも多い方なのかもしれない。

あの本人を見て知っていると別人が書いたのだろうかと疑いたくなるような何でもない日常の様子を書いてくる。

でも何でもない事でもメッセージをくれるのがケイなのかとも思う。


学年が一つ進み、もうすぐ雨季が始まろうという頃、俺は荷造りに追われていた。

それほど物持ちではないと思っていたのだが、いざ長年住み慣れた家を離れるとなると色々なものが出てくる。

持ってゆくもの、置いてゆくもの、処分するもの、そして迷うもの。

忘れていったなら送ってやるし、必要なら向こうで買い足せば良いと言われてはいるが、なるべく無駄なことはしたくない。

年末の大掃除で毎年時間切れ引き分けにしてきたツケがここで回ってきた。


きっかけは俺がシティの高校への進学を決めたことにある。

いや、そもそもはケイとの再会だ。

あの日から俺はアイ・システムに関心を抱くようになり、アイ・システムの研究が最も進んでいる筑波科学技術大学付属高校への進学を選択したのだ。

今回の選択の陰に、父さんの悪巧みも見え隠れするようで、釈然としない気持ちも残るが。



学校は、自宅からの通学、寮生活、通信制の三つから選べる。

小学生の場合は通学か寮が基本で、通信制は病気での長期入院とか特殊な事情がある場合に限られる。

シティでは寮生活、タウンでは自宅からの通学が多い。

シティは家と親の職場が分かれていることが多いので、子供は帰宅せず寮にいる方が安心できるということだ。

子供が小さい頃は大抵の親が休職したりパートタイム勤務にしたりで子育てを行うが、小学校入学から低学年くらいまでの頃に復職するらしい。

その時期に合わせて子供は寮に入ることになる。

自宅と学校は近いので週末は帰宅して家族で過ごしている。

反対にタウンの場合は自宅を仕事場にする人が多いので親が子供の面倒をみやすく、通学と寮は半々ぐらいだ。

どちらかの親が専業で家事を行う家もシティと比べて多い。


中学校からは通信制も自由に選択できるがシティではほとんど選ばれずに皆が寮に入る。

タウンでは通学と寮の比率は小学校の時と変わらず、その中から1~2割が通信制を選ぶといったところ。

通信制を選んだ場合でも学校には所属して、クラス担任が兼任する担当教師がつく。

化学や物理など実習が必要なものもあるので、定期的にスクーリングの予定が組まれる。


一方で高校からは寮の利用がほとんど無くなる。

親の手がかからなくなるから自宅に戻るわけだ。

そして通信制の比率が高くなる。

高校は大抵が地元の学校に進学する。

小学校から高校までは、地区ごとに一つの校舎に入っていることが多い。



高校から大学の授業は標準的な総合学習が基本となっていて、お試し的にいろいろな専門教育を選択できる。

そうして本人の希望や適性、勉学の理解度など、親や教師、そしてアイ・端末との相談で進路を考えることになる。

進路が決まれば、それに応じた履修スケジュールが組み立てられてゆく。

希望する分野が定まって来るのは大学入学の少し前から大学2年生頃というのが一般的らしい。


高校でも大学でも専門校というのは少ない。

授業内容は専門的な選択教科を含めて共通化されているので、基本的にどの高校でも大学でも専門性の高い学習が可能だからだ。


基礎となる一般的な教科は教材として講義ビデオが使われる。

これは定期的に改訂を加えられながら全ての学校で使用される。

そうして通学であれば各校の教師が教室で、通信制であれば担当教師がリモートで学生の理解度に応じて対応する。


専門的な選択教科には、対面での講義が行われるものもある。

こうした場合でも、希望すればどこの学校に所属していてもリモート中継で受講することができる。

ただ、ビデオか中継かにかかわらず専門的な教科の場合は、専門性が高くなるほど対応できる教師が限られる。

このため選択教科は通学の場合であっても、地区単位とかで数校をまとめたリモート授業となるものが多い。

ところで、少ないとはいえ幾つかの大学やその付属高校を中心に、専門的な教師や教育設備をそろえて特定の分野に強みを持つ学校がある。

それ以外の学校でも、ある分野の権威とか、名物教師とか、そういう教師が在籍している学校もある。

目標を早い時期に定めた場合には、可能であれば希望する分野のそうした学校へ通いたくなることがある。

高校や大学で地元以外の遠隔地の学校を希望し、寮を利用するのはこうした人達だ。

そうでもなければ、ただ受講するだけなら通信制でも十分なのに、わざわざ実家を出るメリットは少ない。


俺の場合は幸運なことにすぐ隣の、それも本当の両親が住む筑波シティに望みどおりの学校があるのだ。

これを利用しない手はない。



通常の進学は、その意思を示し、入寮、通学、通信のいずれかを選択する程度で手続きが完了する。

この場合、自動的に居住地の学校へ所属することになる。

俺のようにそれ以外の学校を希望する場合は親と教師の同意が必要になる。

そのうえで必要な情報が相手校に提供され、受け入れ了承を待つ。

ちなみに手続きにまでこぎつけて拒否された例は聞いたことがないそうだ。

受験戦争なんていうのを歴史の授業で習ったが、これから学ぶというのに入学前の成績で選抜していたというのは理解しがたい。

もっとも、当時はアイ・端末のような客観的に評価する手段も、現在のような教育カリキュラムも無かったのだから仕方ないのかもしれないが。



さて、実家へと戻るのは高校に進学する来年からでも良かった。

だが「どうせなら早目に来てシティに慣れておいたらどうかな?」と父さんからの提案があった。

オヤジもオフクロも構わないと言ってくれたので、とんとん拍子に事が進んでしまった。

慣れるということであれば、シティの中学校への転入と入寮も考えないではなかったが、俺は通信制をそのまま続けることにしていた。

新しい家での暮らしに慣れたかったこともあるし、なんとなく堅苦しいイメージのある寮生活を嫌ったことも否定はしない。


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