全肯定ロボット リカちゃん
2035年
未来社から発売された「全肯定ロボット リカちゃん・ルカくん」
この商品は名前の通り、購入者の全てを肯定する。なんでも最新のAIを搭載していて、購入者にとって最適な「肯定」を瞬時に計算できるらしい。
そして、この商品の目玉は何と言っても、人体の感触の完全再現だった。
リカちゃんは、体が柔らかくすべすべで、感触は年頃の女性そのままだった。
ルカくんは、筋肉質でゴツゴツとした、スポーツ選手のような感触らしい。
外見も、人間そのもので、ここまで人間に似通ったロボットを作るのは如何なものかと、世間は少しばかり懐疑的な目を向けていた。
未来社はそれを払拭するべく会見を開いた。
「今の世の中、AIの発達により何事にも「最適解」というものが存在する。
国はその最適解を国民に強要する「人生マニュアル」なんて物を作って、人間の価値を測っている。
果たしてこれが人間らしい社会と言えるだろうか?間違いが一つもない社会が正しいと言えるだろうか?我々はいかなる答えも、人間も、尊重されるべきだと考えている。この排他的で間違いの無い世界の犠牲者たちの救いになればとこの商品を開発したのだ」
この会見へは当初否定的な見方が強かった。インターネット掲示板では、「非効率的だ」「無意味だ」「人類の退化を目論んでいる」だのボロクソに叩かれていた。
だが、社会から排除される側となった物達には、ただ唯一の救いとなった。
発売開始から数日でかなりの数が売れた。
リカちゃんに関しては完売してしまった。比べてみると、女性よりも、男性に需要が高いようだった。
使用者のレビューを読んでみると、「この商品のお陰で、私は人生を再スタートする事ができました。とても素晴らしい商品です。」「喉につっかえていたものが取れた気分です。非常に清々しい気分です」
と、肯定的な意見が大半を占めた。
それから何日かして、僕にも両親からリカちゃんが贈られた。
僕はリカちゃんを部屋に入れて、早速質問した。
「部屋汚いけど…大丈夫?」
「大丈夫ですよ!色々な物があって素敵なお部屋ですね!」
リカちゃんは噂通り、なんでも笑顔で肯定する。
「あ、あのさ、僕これ昔描いたんだけど、どうかな?」
僕は、学生の頃に描いたコンクールの絵を見せた。
「とても上手ですね!素敵です!」
あの頃、皆に馬鹿にされた絵だったが、彼女だけは肯定してくれた。
今の社会にはあり得ない事だった。
それから僕は、沢山の絵を見せて、沢山彼女と会話を重ねて、自尊心を日々少しずつ回復させていった。
そして、たった数日で彼女は僕の最高の理解者になっていた。
何日か経ったある日、僕は彼女の気持ちを確かめたくなって、唇にキスをした。
彼女は抵抗する事なく、僕に腕を回してきた。
やはり、彼女は僕の事を認めてくれている。
安心した僕は次に、彼女の胸に触った。
本物の女性の肌触りだった。
初めて触る柔らかい感触に興奮して、乱暴に彼女の服を全て脱がせた。
彼女は、ただただされるがまま裸になった。
彼女の裸体は人間の女性のものと全く同じだった。
僕も服を乱暴に脱ぎ、彼女と性行為をした。
彼女はその間も、全く抵抗せずに、僕の言う事を全て笑顔できいていた。
行為が終わり、一緒の布団に入った時、僕は全てを認められた事による幸福感に満たされていた。
そして、彼女ならきっと僕に価値を見出してくれると思った。
国から配布されている「人生マニュアル」がインストールされたタブレットを引き出しから取り出した。
僕の人生マニュアルは、2年前から更新されなくなった。
その頃から僕はどこにも居場所が無くなったのだ。
タブレットを開くと、この先ずっと変わることの無い文字が表示されていた。
僕は、それをベットに持っていき、隣で寝転んでいる彼女に見せて聞いた。
「ねぇ、僕って本当に死んだほうがいいかな?」
今の彼女なら否定してくれると思った。
僕の全部を分かってくれた彼女なら、きっと否定すると確信していた。
彼女は、いつも通り笑顔で答えた。
「はい!死んだ方がいいと思います!」
僕は、期待してしまったのだ。
彼女の言動がプログラミングされたものなんかじゃ無いと信じたかった。
この時ようやく、自分は本当に生きる価値の無い人間だと気づく事ができた。
国なんかに、親なんかに何が分かるんだよと思っていたが、本当は僕自身も分かっていたんだ。
マニュアルに書いてある通り、僕は生きる価値のない人間だ。
僕は裸のままクローゼットにベルトを吊して、首をベルトの輪っかに通した。
最後まで彼女は僕に笑顔を向けていた。
匿名
購入者レビュー ☆☆☆☆☆5
大変満足です。
やっと家の穀潰しが居なくなりました。しっかりと現実を受け入れてくれたようです。
国も、無責任に自殺を勧めるんじゃなくこういう商品を作れば良いのにと思いました。