1話 面会
俺がふと目を覚ますと、そこは絶景が広がっていた。
1面雪景色と見間違うほど真っ白な光景だった。
上も下も右も左も前も後ろも。真っ白だった。しかし異様な光景だった。こんな部屋を現代技術で作ることが出来るのだろうか?例え作れたとしても、こんな真っ白な部屋を作る人がいるだろうか。
俺はここで初めて自分のことに気がついた。俺はいわゆるオタクのような体型で、オタクではないのに、オタクだと決めつけられてた。デブでメガネをかけてる。しかし今はどうだろうか。腹は出てない、むしろ腹筋が綺麗に割れている。そして今までメガネをかけなければ見えなかった景色が、目を触ってみると、メガネの感触もないし、コンタクトをつけてる感じでもない。そして今まで殴ったり蹴られたりして付けられた傷が綺麗さっぱり無くなっているのだ。
俺は今の体を確かめるために体を動かしてみる。走ったり、跳んだりととにかく体を動かす。
分かったことはこの体は今までの体よりも動きやすい。今までデブだったんだからそれが普通だろうが、動きやすさのレベルが異常なのだ。跳んだら1mくらい跳べるし、走ったら多分だけど500mくらいは本気で走っても息が切れることは無かった。
そしていつまでたっても何も起こらないこの空間に俺は困惑していた。そこで俺はとうとう気づいてしまった。この真っ白な空間。死後の世界ではないか。だから体の傷も体付きも変わったのが納得いく。
俺はどこへ行くのだろうか。地獄か天国か。
悪い事をした記憶がないので、天国だと思うが、もしかすると知らないうちに悪いことをしてるかもしれない
「やっとの出番じゃ。お主はなんでこの空間を見て絶景だと思うんじゃよ。普通は初めに死後の世界って考えるじゃろ」
ふと、声がした。きっと、俺が知らず知らずのうちに殺していた人の声だ。
「許してください。許してください。許してください。許してください。許してください。許してください。許してください。許してください。許してください。許してください許してください。許してください。許してください。許してください。許してください。許してください。」
「うおっ!なんじゃ!呪詛のように何を唱えておる。せっかくチャンスをやろうと思っとった魂がこんなんじゃと」
「許してください。許してください。許してください。許してください。えっ?チャンス?」
俺は思わず後ろを振り向いた。そこに居たのは白髪で白髭が長い童話で出てくるようなおじいちゃんだ。
「そうじゃ、お主の生活がみじめでのぉ。思わず涙を流したわい。それでお主にチャンスを与えようと思っての。既に与えてるとも言うんじゃがな。気づいておるだろう。その体じゃ。ここには鏡がないから後で見るといい」
「チャンスとはなんなんですか?それにあなたは誰ですか?死後の世界にいるってことは······死神!」
「あほぉ!あんなのと一緒にするでない!儂は創造神じゃ!」
「創造神!?ってなんだ?」
「なっ!お主創造神も知らんのか!近頃の子は全員知っとると思ってたのに!お主は創造神を知らんのか!」
「は、はい、創造神ってことは何かを創造してるんですか?」
「儂はこの宇宙を創った偉い神様なんじゃ!他の神を儂なんじゃ!」
「えっ!そうなんですか!なんでそんな偉い神様がここにいるんですか?」
「じゃ!か!ら!お主にチャンスを与えると言っておるだろうが!」
「あ、そうでしたね」
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ、お主は儂を殺す気なのか?ふぅ、それでチャンスの内容じゃが、大まかに分けて2つある。この世界で生まれ変わるか、別の世界で生活するかの2択じゃ」
「今の世界以外の世界もあるんですか?」
「それは当然じゃ。その別の世界ってのがこの世界よりも文明が劣っておる。が、それ以外を魔法という技術で補っておる状態だな。魔法というのは火を起こしたり、水を出したりすることじゃ」
これまでの説明で、この歳特有のラノベの世界に憧れるどころか読んだことも無い状態なのを理解した創造神。なので具体的なな説明を添えて説明する。
「ほえぇ。そんな世界があるんだぁ。てことは逆に文明が地球よりも文明が進んだ世界もあるの?じゃなくて、あるんですか?」
「今更敬語なんて要らんよ。そうじゃな。少し見てみるか?ほれ」
そう言って創造神は丸い球体の物を生み出し、それがビジョンのように世界の光景を映し出す。
その世界は空飛ぶ車や、自分の能力を数値的に表したボード。建物が地上から離れて浮いている。何より目立ったのが、人間の体だ。頭から動物の耳が生えていたり、背中から羽が生えてたり、まるで人間が動物と融合したような容姿だ。
「これがお主の世界から数千年先の世界じゃ。これは人間の遺伝子と動物の遺伝子をいい具合に混ぜて、できた産物じゃ。この世界の人口の4分の3がこんな姿じゃ。そしてこの世界がお主に与えた選択肢の世界じゃ」
そう言って見せた世界はさっきの世界と比べて、酷い世界だった。建物は1階建てしかなく、全てが木で作られた物ばかり、コンクリートどころか石やレンガですら使ってない。映されてる街の中で真ん中にある1番大きな建物ですら1階建てで、ただただ面積をとってる大きさだった。しかし、その家に住んでる人達は火種すらないのに、火を薪に燃え移らせたり、水を何も無い虚空から生み出したり、奇妙な術を使っている。
「これが魔法なのか」
「ああ、そうじゃ。手っ取り早く話をすると、お主にはこの世界の文明レベルを上げてもらいたい。この世界は誕生してから地球と同じ年月が経っておるが、魔法という異能の力を授けたせいで、その力の研究ばかりにかまけてその他のことを全くしようとせんのじゃ。しかし、幸いにもこのことを危機と捉えた貴族がおっての。その者に召喚の秘術を授けた。お主がこの世界に行くことを決めれば、この世界でお主は生活することになる」
普段ならこんな非日常なことを言われても頭が考えることを放棄するはずだったが、神様のチャンスのおかげで、こんなこと言われてもしっかりと頭が回っている。
「······ていうことは、俺はこの世界で俺の助けを求めてる貴族の元へ向かって、その貴族の手伝いをすればいいのですよね?」
「お、おお、そういうことじゃ
······思ったより魂が体に適合するのが早かったの。、コホン。その通りじゃ。だが、お主がそのまま向かったところで知識もそれを実践する力もない状態じゃ意味が無い。だから儂からそれを実践するチート能力を、魔法のような異能を与える。勿論、お主には地球で生まれ変わるということも出来る。どちらを選んでも、儂からは何も言わん。お主がこの世界に行きたくなければ、別の者を選ぶだけじゃ。気楽に考えるが良い。時間だけはたっぷりあるからの」
そう言って創造神は姿を消した。
「俺に助けを求めてる。かぁ。そんなこと言われたこと無かったなぁ」
やり方は違うが、俺が昔憧れたヒーローと同じだ。そんなこと言われたら助けたくなる。が、さっき見た光景だと、農業もろくにできないのか、しょっちゅう野盗などが、うろついていた。そんな危険な世界には極力行きたくはない。
でも、できるなら行ってやりたい。だが、周りから役立たずと言われた俺でいいんだろうか?俺よりてきにんな奴がいるんじゃないのか?そう思ってしまう。
すると、さっき消えたはずの創造神様が現れた。
「お主の考えてる事は心を読まなくても分かるのぉ。お主のように人を助けたいのは儂も一緒じゃ。じゃが、儂には神という仕事がある。儂じゃなく、おぬしに変わりに行って助けてやって欲しいのじゃ。お主が過ごしやすいように出来る限りの配慮はするつもりじゃ、お主がそう易々と殺されないように今より丈夫な体にすることだってしてやれる。お主は自分の気持ちに正直になればよい。お主はこれまでの虐げられた生活の中で、自分ではなく他人の方が優れていると考えてしまっておる。そんなことは気にする必要は無い。お主より優れているのがおるなら、ここにはお主ではなくそ奴を呼んでおる」
創造神様の言葉を聞いて何かが吹っ切れた。
確かに神様なら俺よりも優れた人を見つけるのなんてすぐだろう。それなのに俺を呼んでくれたのは、俺じゃないと出来ないからなのだ。そう考えると、やりたくなってきた。いや、初めからやりたかったが俺のこれまでの生活の末身についた思考が俺の考えを邪魔していただけなんだ。
「創造神様、俺がやります!その仕事」
「そうか、そうか。やってくれるか。なら、お主の要望を聞こうか。出来る限りの配慮はするつもりじゃが、できないこともあるからのぉ」
「そんなことまでしてくれるのか。······なら、まずは知識が欲しい。道具や建物を作るために必要な知識。それと身を守る力、そして自分も作業に参加できるような力、図面を考えられる知力、後は魔法を使ってみたい」
「うむむ、どれもこれも確かに必要じゃが、これがお主の魂に入り切るかのぉ。1つにまとめれば入るかのぉ。······うーむ、これならば、お主の魂の容量なら入るだろうが、強力すぎるのぉ。
お主は儂が与えた力を乱用しないと誓えるか?」
「はい!勿論です。私はその力を自分ためじゃなくてその世界の文明の発展だけに使います!」
「い、いや、道徳的にダメなことしなければ、自分のために使っていいんじゃが。お主の心も嘘をついてないな。分かった。ならお主には儂の異能『創造』を与えよう。ただし劣化はしている。
お主に与える創造は物だろうがスキルや魔法を創造できるが生物を創造することは出来ない。
それとお主の魔力を『創造ポイント』に変換してそのポイントでスキルや物を創ってくれ。
じゃが物を変化させることも出来る。
こうしなければお主の魂に入り切らないのもあるが、お主の念の為ということも考慮してある」
「あ、ありがとうございます!そんな強い力を与えてくれて。絶対に創造神様の願いを叶えてみせます!この命に替えても」
「重い!重すぎるのじゃ!そんなに重く考えんでくれ。······こ奴はやりにくいのぉ。調子が狂うわい
コホン。この世界には『ステータス』と呼ばれる物がある表示されるのは
体力 自分の命を数値で表したもの。0になると死ぬ
魔力 魔法を使う時に使うものを数値で表したもの0になると気絶する
レベル 自分の努力の証。上がると体力、魔力が上がる
スキル 儂が与えた『創造』もスキルに入る。これが異能と呼ばれる物じゃ。魔法もこの部類に入る。使えば使うほどレベルが上がる。
後は名前や性別、歳といった個人情報じゃな『ステータス』と唱えると出てくる。これは周りにも見えるから気をつけるのじゃぞ」
「分かりました。それで初めのスキルは『創造』だけなんですか?」
「そんなことは無い。初めは戦う力として『剣術』魔法は『火魔法』そして『腕力上昇』を与える。それ以外には『創造』で創るのじゃ。『創造』にもレベルがある。初めはレベル1で魔力10で『創造ポイント』1じゃ。レベルが2になると魔力5で『創造ポイント』1になる。『創造』の使い方は················ということじゃ」
「ありがとうございます!それで俺の初めの魔力はどれくらいあるんですか?」
「うむ、お主は神の使徒としてこれから暮らしてもらう。お主の力は一応は強くなくてはいけない。だから魔力、体力共にレベル1で1000じゃ。じゃから1日で『創造ポイント』は100しか作れないということじゃ。お主はその体で、中学生。すなわち14歳として過ごしてもらう。理由は出来る限りお主の時間を増やして、過ごすためじゃ。時間は70年くらいはある。気長にやるといい。
儂からの説明はこれで終わりじゃ。何か質問はないか?」
「もう、創造神様と話すことは出来ないのですか?」
「うーむ、儂も暇ではないからのぉ。神殿を創って貰えれば儂から神託という形で話すことは出来るが、お主の答えを聞くことは出来んのぉ。すまぬのぉ。これが限界じゃ」
「いえ!それで十分です!」
「そう言ってくれると助かるのぉ。それじゃ、お主を世界に送ろう。そんな気張ることは無い。ゆっくりとやってくれればいい」
「ありがとうございます!絶対に頑張ります!」
そう言って神々しい光が男を包んだ。そして光が消えた頃、その場には誰一人としていなかった。男が絶景と言った真っ白な空間が拡がっていただけだった