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第六十六話 とある町での出来事

「盗賊?」


 魔術都市カダールに行くために北東の方角に向かって進み出した俺が、最初に訪れた町の酒場で、昼飯のチーズチキングリルをエール酒で流し込んでいた時である――


 急に町長が目の前にやって来て、このように説明された。

 ――この町は今、盗賊の脅威に晒されている、と。

 そして、町長は続けてこう言った。


「見たところ、あなた様は凄腕の剣士様とお見受けしました。どうか、盗賊から街を救ってはいただけないでしょうか?」

「断る」


 にべもなく断ると、顔を上げた町長は呆気に取られた顔をした。

 素知らぬ顔で飯を食い続けていると、町長は居た堪れない様子でそこに居続ける。

 俺はあからさまな舌打ちをし、


「邪魔だ。飯がまずくなる」

「し、しかし、我々は困っておりまして……。この町はどこの国にも属しておらず、完全な独立した町でして、援軍も期待できません。雇っていた傭兵も逃げ出してしまい……」

「どうせ金をケチって大した傭兵を雇っていなかったんだろ?」


 町長はぎくりと体をこわばらせる。


「さっきざっと見た限りだが、町の規模にしてはずいぶん見回りの兵が少なかったぜ。それにあんた、ずいぶんと身なりがいいよな。もしかして、税金をちょろまかしていたりするのかな」

「そ、そのようなことは……」


 まさに図星を突かれたように慌て出す町長。ビンゴだな。


「大体、『依頼』じゃなく『お願い』の態で切り出してきたことも気に入らないね。自分は金を渋るくせに、見知らぬ他人には命を懸けさせようってか? ふざけるなよ」

「い、いえ、その、けしてそんなつもりでは……。報酬については、後ほど窺わせていただこうかと……」

「最初に情に訴えておけば何とかなるとでも思ったか? あわよくばタダ働きさせられればよし。そうでなくとも金は渋れるからな」

「い、いや……」

「オヤジ! エール酒もう一杯」

「あ、ああ」


 酒場の店主は話の成り行きに狼狽えながらも、律儀にエール酒の準備を始める。

 俺は手元にあった残りのエール酒を飲み干すと、


「飯がまずくなると言ったろ。さっさと消えろ」

「し、しかし今、この町の者たちが困っているのは事実なのです! あなたも剣士の端くれならば、少しくらいは耳を傾けるべきではいのかな!?」


 俺は町長をギロリと睨み付ける。凄まじい殺気と共に。


「……何様なんだ、あんた」

「ひ、ひいっ……!?」

「人を危険に晒すのに、よくそんな言い方が出来るな。分かった。ならこうしよう。あんたの命を差し出せ。そうすればこの町は助けてやる」

「そ、そんな殺生な!?」

「どうした? あんたの命一つでこの町の困っている者たちは全員救われるんだぜ」

「そ、それは……。そ、そもそも、あなた一人だけで盗賊を全て倒せる保障などどこにもないではないか!?」

「ほおお。ということは、盗賊を倒せる保障もない男を、お前は無情にも戦わせようと言うわけだ?」

「あ! い、いや、それは……!」

「狡い男だ。自分は情に訴えておきながら、その実、相手が死のうがどうしようがどうでもいいわけだ。しかも、責任を相手に押し付け、報酬は出し渋る。こんな時にな。それで相手が動くと本当に思っているのか」

「ほ、報酬は出すと言っている!」

「へえ。なら、あんたの財産を全て差し出せ」

「へ……?」

「先に払うのが不安なら、別に後払いでもいいぜ。ただし、証文はしっかり書いてもらうし、もし約束を破ったら、その時はお前の命も財産も全てもらうことになるがな」

「そんな……」

「そんな? そんな、何だっていうんだ? 俺は別にそこまで難しいことは言っていないぜ。あんたがこれまで散々この町の者たちから吸い上げてきたものを、この町を守るために使えと、ただそう言っているだけだぞ。あんたはそのくらいして当然だし、それくらいしない奴に俺が動く理由などないね」


 俺がそう言うと、反論できずに口籠る町長。

 やがて、彼はやけくそ気味に、


「は、話にならないとはこのことですな! 失礼させていただく!」


 そのように叫んで酒場から出て行った。

 ――町の人々よりも、自分の財産を取ったか。

 それなりの覚悟を見せれば、少しはまけてやるつもりだったのだが。

 そのタイミングで、気まずそうに店主がエール酒のおかわりを持ってくる。


「へ、へい。エール酒お待ち」

「あんたも大変だな。あんな奴が町長でさ」

「……はぁ、まあな」


 どうやら店主も思うところがあったらしい。

 しかし彼は頭をぼりぼり掻きながらこう言った。


「だが、この町がピンチなのは事実なんだよな。困ったぜ、ほんと……」


 店主のその様子に、それまで黙って事の経緯を見守っていたエフィ、アイスマリー、ルナの三人が、揃って何か言いたそうな目を向けてくる。

 おそらくそれぞれ言いたいことは違うのだろうが、今はただエール酒で喉を鳴らす俺だった。


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