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第五十一話 ミスリル

 祝勝パーティが終わった翌日からも、俺たち一行はエスタールの屋敷に逗留を続けた。

 俺たちの目的はミスリルだ。それを手に入れるまではここを動けない。

 しかし、モンスターに荒らされた鉱山の整備や周辺モンスターの駆逐のため、すぐに鉱山業を再開というわけにはいかなかった。

 ただ、鉱山業はハイランドの重要産業のため、急ピッチで準備が進められた結果、ドラゴラス討伐から五日後には鉱山業は再開されることになった。


 ――そう、これでようやく俺とアイスマリーが欲していたミスリルが手に入るのである。


 律儀に自らそのことを伝えに来てくれたフレインが、深々と頭を下げてくる。


「申し訳ありません、ネル様。お約束の件、遅くなってしまって」

「構わないさ。別に急ぐ旅でもないからな」

「旅……そ、そうですよね」


 フレインの表情が一瞬沈み、その後、すぐに取り繕うようにして笑った。無理して笑っているのは見え見えだ。

 ……あの祝勝パーティの夜から、フレインは妙によそよそしかった。

 俺とフレインの間に漂う微妙な空気に、周りの者たちが視線を行ったり来たりさせている。

 その中でいち早く口を開いたのは案の定、ルンとランだった。


「こ、これはただごとではありませんよ!?」

「やはり、二人の間に何かあった様子なのです!」

「でも何となく大人の雰囲気で、ルンたちが入って行く余地はなさそうなのです!」

「……十分干渉してきてるじゃねえか……」


 俺は呆れてツッコむしかないが、ルンとランは構わず騒ぎ続ける。


「取りあえずお兄さん、フレインお姉ちゃんを泣かしたら、ルンたちがお兄さんを泣かせますよ!?」

「そうです! ランたちがお兄さんを泣かせますですよ!?」

「主に夜の部で!」

「そうです! 主に夜の部でお兄さんを泣かせますですよ!?」

「……どうして最も若いお前らが一番下ネタに走るかな? あと、実際やれって言っても顔を真っ赤にして出来ないのがお前らだよね? 出来ないことは言わないでね?」

「そんなことはないのです!」

「そうなのです! そんなことないのです!」

「……パンツ見せろって言っただけで顔を真っ赤にしていたのはどこの誰だっけ?」

「わーっ!? それは言わない約束なのです!」

「そうなのです! 言わない約束なのです!」

「それに何だかんだお兄さんは童貞クサいので、ルンとランが二人かかりで色々と教えてあげる予定なのです!」

「そうなのです! 何だかんだお兄さんは童貞クサいので、ランとルンの二人色に染めていくつもりなのです!!」

「童貞童貞うるさいんだよ、お前ら!!」

「「わーっ!? お兄さんが怒ったのです!!」」


 本気で殺気を出し始めると、ルンとランが大慌てで逃げていく。……まったく、勝手にお前ら色に染められてたまるかってんだよ……。

 ふと視線をやると、エフィとルナの二人が下賤の者を見るような目でこちらを見ていた。


「……パンツ見せろって言ったって」

「……どういうことでしょうか?」


 ……しまった。口が滑ったことに今さら気付いた。

 どのように言い訳しようかと思っていると、二人がとんでもないことを言い出す。


「そんなにパンツが見たいなら、マスターが命令さえすればいつでも見せてあげるよ? わたしは基本、マスターの命令には逆らえないんだから。無理矢理何かされても、人形のわたしなら言われるがままだよ?」

「わ、わたくしだって、お兄様がどうして劣情を我慢できないと仰るのであれば、他の女性に手を出してしまわれるくらいなら、妹のわたくしが頑張って処理を……パ、パンツだって妹のわたくしが……」


 エフィはとにかくとして、妹の発言がとてもアブナイ。

 ……なんで当然のように兄の処理を妹の仕事みたいに言ってるんだよ? むしろそっちの方がヤバいだろうが。どれくらいヤバいかというと、そこそこヤバいことを言っていたエフィの発言が霞むくらいヤバい。


 ――それにしても、いつもなら一緒に騒いでいるはずのアイスマリーが静かだった。


 どうしたのかと思って顔を近付けてみると、彼女は小さな声で鼻歌を鳴らしている。


「ミッスリル、ミッスリル♪」


 ……何この子、可愛すぎ。

 ミスリルが手に入るのが余程嬉しいのか、一人で鼻歌を歌っていた。しかも小さな声で。


「ミッスリル、ミッスリル♪ わーたしの、ミッスリル♪」


 珍しく目に見えて上機嫌なアイスマリーだ。俺は自然とそんな彼女の頭を撫でてしまう。


「良かったな、アイスマリー」

「はいっ♪」


 いつもなら表向きは「子ども扱いしないで下さい」と言ってくるはずなのに、アイスマリーは素直に頷いていた。本当に嬉しいんだな。俺は微笑ましい視線でアイスマリーを見つめるしかない。

 ただ、視線を感じて顔を上げると、フレインがこちらを羨ましそうに見ている。

 ……いや、厳密には俺に頭を撫でられているアイスマリーを見ているのか?

 何だ?

 視線が合うと、フレインが慌てて顔を逸らす。

 ? マジでどうしたんだ?

 俺が首を捻っていると、他の者たちがまた騒ぎ出した。


「これです。まったくお兄様は……」

「はにゃにゃ、まったくマスターは」

「まだ分からないって顔してやがりますですよ、このお兄さんは!?」

「いいからとっととフレインお姉ちゃんの頭も撫でやがれっていうんで……もがっ!?」

「そうです!! ついでにルンたちの頭も撫でやがれっていうんで……もがっ!?」


 何かを言おうとしたルンとランの口を、顔を真っ赤にしたフレインが押さえ付けていた。

 マジで何なのか。

 大人のフレインの髪を撫でるのはさすがに失礼だろうし、一体何を言いたかったんだ?

 取りあえずエフィとルナが呆れた目で見てくるのが激しくうざい。

 仕方ないので俺はアイスマリーに視線を戻した。そこではまだアイスマリーが「ミッスリル♪ ミッスリル♪」と音頭を取っている。癒された。

 とにかく、今はさっさとミスリルを掘りに鉱山に行こうか。

 大事にしたい、この笑顔。


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