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第四十八話 奇襲

 ヴェスタールの軍勢は、既に連合軍を目視できるところまで近づいていた。


 ただ、その連合軍を見てアランは妙だと思う。何故ならドラゴラスと戦った後の割には、兵たちがそれほど傷ついているようには見えなかったからだ。

 本来なら既に奴らは満身創痍のはずなのに、これでは計算が外れた結果となる。


 ――まあ、それでも、負ける気はしないのだが。


 ドラゴラスと戦った後だ。奴らが疲れていることには違いはない。

 兵の数も向こうは三万に満たないのに対し、こちらは五万。

 加えて竜騎士の数も上回っている上に、アランとヘックスとクロースはそれぞれ竜騎士の中でトップスリー入る実力を有している。つまり、同じ竜騎士でも格が違うのだ。


 さらにはペガサス四姉妹以外のペガサスナイトたちを好きにしていいと宣言したせいか、兵士たちの士気は際限なく上がっている。

 しかもペガサス四姉妹に劣らぬほどの美少女までいると教えてやったら、士気はかつてないほど上がった。


 ――まあ、そいつらはまずこの俺が味見してやるのだがな。


 アランは口の端を吊り上げる。

 竜から下を見れば、兵たちがアランの下知を今か今かという目で見つめている。

 その目は早くペガサスナイトを犯させろと言っていた。

 ペガサスナイトはこの国に住む全ての男たちにとっての憧れの的。

 五万の兵が、たった四十騎のペガサスナイトに群がる様を想像して、アランは嗜虐的な笑みを浮かべた。


 ――これから行われるのは単なる蹂躙だ。そして、それを行うのはこの俺――アラン・ヴェスタールである。


 アランの身にとてつもない全能感が駆け巡る。

 アランはこの場で大笑いしたいのを我慢して、毅然とした態度を取り続けた。

 ――さて、では蹂躙してやろうか。

 そう思い、アランは竜の上で剣を抜刀する。

 そして、その剣を連合軍の方に向けて振り下ろそうとした――その瞬間だった。


 ――ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!


 突如、アランの愛騎の竜が奇声を上げて仰け反った。


「な……一体、何事だ!?」


 慌てて鞍にしがみ付くアラン。

 しかし、目に飛び込んできた男の姿を見て、彼は信じられない思いになった。


「き、貴様!? ど、どうしてここにっ!?」


 ここは空中だ!

 それなのに、どうして竜騎士でもない奴がここにいる!?


「奇襲、成功だな」


 奴は笑っていた。単身、空中で翻りながら。

 そこにいたのはネル・アルフォンスだった。



 **************************************



「奇襲、成功だな」


 俺は空中で翻りながらそう言った。

 そして、アランの竜を踏み台にして飛ぶと、もう一騎の竜の翼を剣で斬りつけ、同じ要領で最後の一騎の竜の翼も剣で斬りつける。

 それで三騎の竜は、奇声を発しながら落下していく。


 ――よし。上手くいった。


 フレインに対し、ヴェスタールと戦う覚悟を促した俺だったが、実際のところは一人でこの戦いを終わらせるつもりでいた。

 あくまでフレインには王としての覚悟してもらっただけにすぎない。


 ――最小限の被害で戦いを終わらせるには、ただ単にこの方が都合が良いからな。


 だから俺は、単身でヴェスタールの兵たちに紛れ込んだ。

 ハイランドの兵士たちは皆、ほとんど同じような鎧を着ているので、紛れ込むのはそれほど難しくなかった。軍団の後ろの方からこっそり近づいて、何食わぬ顔で紛れ込んだのだ。俺ならばそれくらいのこと造作もない。

 あとは機を見てアランに攻撃を仕掛けるだけだった。

 思い切りジャンプし、風魔法で体を押し上げ、アランのいる上空まで飛んだというわけだ。


 結果は上々。翼を傷めつけられた三騎の竜は地面へと落下していく。

 俺は風魔法で軌道を修正すると、アランの竜を追った。

 アランの竜は軍勢から離れたところに落下すると、主人であるアランを気にせず地面でのた打ち回る。

 そのせいでアランはたまらず放り投げられた。


「ぐぁ……!!」


 地面に落ちたアランは、短い呻き声を上げる。

 俺は着地すると、そちらに向かって歩いていく。


「いいザマだな」


 そう言うと、アランはハッとしたように顔を上げる。

 俺と奴の目が交錯した。


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