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第四十二話 ヴェスタールの企み

【アラン】


 五公会議が終わった後、自室に戻ったアランは荒れていた。


「ええいっ! 忌々しい!! 一体何なのだ、あいつは!!」


 アランが暴れる度に部屋の中の物が壊れていく。


「フレインもだ!! この俺ほどの男がずっと言い寄ってやったというのに、よりによってあんなどこの馬とも知れぬ奴に……!! くそがああああああああああああっ!!」


 アランには分かっていた。フレインがあの男に惚れていることが。

 これまで男性に興味を示さなかった彼女だけに、その想いがどれだけ本気なのかも。

 自分に興味を示さなかった意中の女が、自分が最も憎んでいる相手を選んだ。それはプライドの高いアランにとってとても許せることではなかった。


 ――しかも、その二人のせいで五公会議までもが自分の思惑から大きく外れてしまった。


 アランはかつてないほどの怒りを感じた。それが自業自得だとは一切考えることもなく。

 ――その様子を見ていたのは二人の護衛だ。彼らは先日の酒場の折にアランと共にいた竜騎士の二人である。

 アランが振り下ろした拳が木製の机を粉砕するのを横目に、びくりと体を震わせながら、その内の一人、【右腕のヘックス】が口を開く。


「ア、アラン様、このまま奴らをドラゴラス討伐に向かわせてよろしいのですか?」


 アランは暴れていた手を止めると、ぎろりとヘックスを睨み付ける。

 たじろぐヘックスを尻目に、しかしアランの目は冷静だった。

 アランはニヤリと凄味のある笑みを浮かべ、


「構わんさ」

「し、しかしアラン様……」

「ヘックス。お前、奴らが本当にドラゴラス相手に勝てると思っているのか?」

「そ、それは……」

「前回、三公爵が四騎の竜騎士を使って討伐に失敗した。それが今回は一騎もいない。それで本当に勝てると思うか?」

「た、たしかに……」

「だろう? まず勝てんよ」


 アランは説明を続ける。


「万が一、三公爵がエスタールに協力することがあったとしても、竜騎士は二騎しかいない。しかも兵力も前回より目減りしている。だから、それでも絶対に勝てん」

「な、なるほど……」


 もう一人いた【左腕のクロース】が納得したように頷く。

 それに気分を良くしたアランは饒舌に説明を続ける。


「口惜しいが、あの男……フレインの隣にいた男は確かに強い。だが、たかだか強者一人が加わったところで魔竜ドラゴラスを倒せるわけがなかろう? 我らはそこを狙うのよ」

「ね、狙う、とは?」

「今回の戦い、恐らく魔竜ドラゴラスもただでは済まないというのが俺の見立てだ。我らは、奴らが失敗した後、弱った魔竜ドラゴラスを叩けばよい」


 アランのセリフに【左腕のクロース】が感嘆の声を上げる。


「おおっ、さすがアラン様です!」

「ふっ。よいか? 当初の目論みからは外れたものの、これはこれで悪くない状況なのだ。奴らは討伐に失敗し、我がヴェスタールだけがそれを成功させる。奴らは兵力も発言力も大幅に落とし、ヴェスタールは逆に発言権を増す。これがどういう意味を持っているか分かるか?」


 アランは二人の顔を見渡すと、こう言った。


「来るぞ。我らヴェスタールの時代が。現在の合議制は廃れ、名実ともにハイランドに真の王が誕生するのだ。ヴェスタール王家の誕生だ!!」


 少年のようにきらきらと目を輝かせ夢を語るアランに、同じくヘックスとクロースも目を輝かせていた。

 アランはそんな彼らの肩に手を置くと、


「二人には王室近衛騎士団長の座と、一つに統合されるだろう王家直属の竜騎士団長の座をそれぞれ任せたいと思っている」

「お、王室近衛騎士団長……」

「当家直属の竜騎士団長……」

「二人とも、これからも俺のために尽くしてくれるな?」

「は、ははっ!!」

「我ら二人、どこまでもアラン様に付いていきます!!」


 三人の主従は互いの忠節を確かめ合うかのように頷き合った。

 そして、アランが再びニヤリと笑う。


「くく、せいぜいフレインたちには頑張って魔竜を弱らせてもらうとしよう。その後、魔竜を倒し、フレインをものにしてやる。魔竜討伐に失敗すれば、あの女はもはや俺の言うことに逆らえまい。……なんだ、考えてみればいいことづくめではないか」


 アランはどんどん上機嫌になっていた。

 そんな彼を羨ましそうな目で二人が見ていることにアランが気付く。


「そんな目で見るな。お前たちにも姉のマリアか双子のセットの好きな方をくれてやるから」

「ほ、本当ですか!? で、では私は姉のマリアを……」

「お、俺は双子を、セットで……!」

「ふふっ、お前らも好きだよなぁ」

「ま、まさか、我らにまであのペガサス四姉妹をいただけるとは……。アラン様、本当にどこまでもついて行きます!」

「無論、私もです!」

「そうだ。あのペガサス四姉妹をものにすれば、それこそ我らは家族のようなものではないか。これからも頼むぞ?」

「「ははっ!!」」


 こうして身勝手極まりない約定が取り交わされたことを、当の四姉妹は知る由もない。

 ――果たして彼女たちはいかような運命を辿ることになるのか?

 それについてある程度確信を抱いているのは、この時点ではまだたった一人しかいなかった。




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