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第四十話 信頼と策略

 あの後、アランは肩を怒らせたまま真っ先に会議室を出て行った。

 それから間もなく、俺とフレインも部屋を出た。

 しかし、部屋を出るなりにフレインが俺に頭を下げてくる。


「勝手なことをして申し訳ありませんでした」

「は?」


 俺は呆けた声で聞き返すしかない。

 何故なら、勝手なことをしたのはどちらかと言ったら俺の方だったからだ。

 それなのに謝られてしまった。

 フレインは恐る恐る顔を上げると、


「……あの、あらためて協力していただけますでしょうか?」

「あ、ああ。元よりそのつもりだが……」

「勝手にエスタール家だけで戦うと約束しまい、申し訳ありません。ネル様のご負担も増えるのに、相談もせずに……」


 ああ、なるほど。彼女はそんな風に考えていたのか。


「本当に律儀だな、あんた。エスタール家だけで戦うことになったのは、俺がアランを煽ったせいだって責めてもいいんだぜ?」

「いえ、元々は我がエスタール家の領地で無理矢理に籠城させられそうになっていたのです。あなたはそれを止めてくれたのでしょう?」

「……俺は俺の感情のまま動いただけだ。そんなに高尚なことは考えていない」

「そんなはずはありません。それに実際、私は助けられました」


 俺は苦笑するしかなかった。


「ま、どう考えてもあんたの自由だけどな」

「はい。ですから、ありがとうございました」


 深々とお辞儀してくるフレインに、俺は頬を掻くしかない。こんな風に俺を困らせてきたのは、彼女が初めてだった。


「しかし実際、大変だぞ。エスタール家だけでドラゴラスと戦うのは」

「……はい」

「さっきも言った通り、俺が協力すれば、エスタール家だけでもドラゴラスを倒すことは出来る。ただし、その場合はエスタール家の兵力にそれなりの被害が出ることは覚悟しておいてくれ」

「……覚悟の上です」


 彼女からしてみれば兵の命も尊いのだろう、その顔は苦渋に満ちていた。しかしその上で、ドラゴラスと戦うと言えるところは、まさしく彼女が王の器であることを示している。……皮肉なことにな。

 せめて一騎でも竜騎士がいれば話は違うのだが、エスタール家には竜騎士がいない。

 エスタール家が抱えるペガサスナイトも強力ではあるのだが、空中から竜の吐く炎があるのとないのとでは戦略に大きな差が出てくる。もちろん戦力もかなり違う。


「せめて我がエスタールに竜騎士がいれば……」


 フレインも同じ思いを抱いていたのだろう、彼女は呟いた。

 ――その瞬間、横合いから声が掛かる。


「ならば我々にも協力させてもらえないだろうか?」


 そちらを振り向くと、そこにはレビエス、ギール、ドルトスの三公爵が揃っていた。

 俺は訝しげな視線を向ける。


「……どういうつもりだ?」


 そう訊くと、ドルトス公爵が真っ向から見据えてくる。


「我々にも国を想う気持ちはある」

「恥ずかしいことに、さっきまではそれを忘れていたがな」


 ギール公爵も続けてそう言った。

 この人たち……。

 最後にレビエス公爵がフレインに向かって語り出す。


「フレイン殿、あなたの国を想う気持ちに強く心を揺さぶられた。久々に損得なしに、この国のために働きたくなった。若い頃はそのような熱い気持ちを私も抱いていたはずなのだが……いつの間にか忘れていたらしい。それをあなたが思い出させてくれたのだ」

「レビエス公爵……」


 フレインが驚いたようにレビエス公爵を見つめ返していた。

 ……どうやら彼女自身は気付いていないようだな。自らの王としての資質が花開きつつあることに。


 ――そして、もしかしたら彼女こそが次期ハイランド王である可能性に。


 ドルトス公爵とギール公爵も続けて言ってくる。


「さっきは済まなかったな、フレイン殿。保身のことしか考えていなかった自分が恥ずかしいわ」

「……わしもじゃ」

「皆様……」


 ……すごいな、フレインは。こうも人を惹きつける……。


「だが、我がギール家は先日の戦いで竜騎士を失ってしもうた。申し訳ないが、少しばかり力不足かも知れん」

「その代り、ギール軍の兵力はヴェスタールを抜かせばまだ一番だろうて」

「その分、我がレビエスとドルトス公爵が抱える竜騎士を一騎ずつ、存分に働かせるまでのこと」


 三人の公爵はそのように言って盛り上がっていた。

 ……無理矢理戦わされるのではなく、自ら参戦を申し出たため、それぞれ士気も高い。

 ――これならドラゴラスとの戦いはかなり楽なものになるかもしれない。

 そのように考えていると、三公爵の目がこちらに向く。


「で、若いの。先程あれだけ大口を叩いたからには、ドラゴラスに対する戦略の一つくらいはあるのじゃろうな?」

「そうじゃ。生意気にもいきがりおって」

「エスタール家だけでも勝たせてみせるという大言壮語、まさかウソではあるまい?」


 ……くっ、こいつら。さっきは失神寸前だった癖に、ここぞとばかりに詰め寄ってきやがって……。

 彼らの目は、未来の女王に付く悪い虫を見るかのような目だった。

 ……さっきはアランに逆らえなくて見捨てようとしたくせに……。


「策はある。あんたたちの竜騎士が協力してくれるなら討伐はむしろ簡単だ」

「ほう? 我々は前回、四騎の竜騎士を用いて攻撃を仕掛けたが敗北した。それが今回は二騎しかいない。それでも簡単と言うのか?」


 レビエス公爵が訝しげな視線を向けてくるが、俺は笑って頷く。


「ああ、簡単だね。何故なら今回は俺がいる」


 まさに大言壮語。三人の公爵は揃って呆気に取られた顔をする。

 だが、俺は所詮、余所者だ。少しでも躊躇いを見せれば、その瞬間、信用などされなくなるだろう。

 今はフレインが全面的に信頼してくれているからこそ三人の公爵は耳を傾けているが、曖昧なことを言えば信頼など一気に失う。

 だから俺は敢えて自信満々に答えた。


 ――それに、別に嘘を言っているわけではない。単なる事実だ。


 俺は説明を始める。


「あんたらの竜騎士が上空から竜に炎を吐かせてドラゴラスの注意を引いてくれ。その間に俺がドラゴラスを魔法でひっくり返す。その後はひっくり返ったドラゴラスの腹を、竜騎士とペガサス騎士が上空から一斉に攻撃するだけだ。それでドラゴラスは倒せる。魔竜は腹が弱点なんだ。な? 簡単だろ?」


 俺が何の気負いもなくそのように言うと、やはり三人の公爵は揃って呆けた顔をしていた。

 それはまるで「たった一人の魔法で、山の如き巨体のドラゴラスをひっくり返すことなど有り得ない」とでも言いたげな顔だ。

 しかし、ここで「ああ、なるほど! その手があったかぁ!」などと言おうものなら逆に頭を疑う。そんな奴が五大公爵を名乗っているはずがない。

 だから後で実際に見せてあげよう。


 ――ドラゴラスをひっくり返す、最強の土魔法を、な。





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