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第三十四話『ザ・パンツ。姦しき双子姉妹』

「もー、お兄さん、冷や冷やしましたよー。役者なんですからー。この、このっ」

「このわたしたちに恥ずかしい思いをさせるとは、むしろ凄いです!」

「わたしたちはペガサスに乗っているからパンツは見られ慣れている方ですが、まさかあんなやり方でパンツを晒されそうになるとは思いもしませんでした」

「そうそう。あんな恥ずかしい思いをしたのは初めてです!」

「これはもう責任を取ってもらわないとー」


 ぐいぐい詰め寄って来るペガサス四姉妹の末っ子二人組。

 先程までの羞恥心に染まった顔はどこへ行ったのやら、既にけろっとした顔で俺に迫ってくる。

 そんな元気な二人組をフレイン・エスタールが首根っこを押さえて引きずり戻した。


「いい加減にしなさい、あなたたち! 話が進まないでしょ!?」

「「ぐえっ」」


 さすが双子。首が絞まる音もまったく同じだ。

 フレインはルンとランを後ろにやると、


「あの……本当に手伝っていただけるのでしょうか?」


 その上目遣いに、俺はがりがりと頭を掻く。


「……ああ」

「でも、私はまだパンツを見せていませんが……よろしいのですか?」

「いや、別にパンツを見たかったわけじゃないから」

「え?」


 首を捻るフレイン・エスタールに、再びルンとランが騒ぎ出す。


「お兄さん、フレインお姉ちゃんは真面目過ぎるので、はっきり言ってやらないと分かりませんよ?」

「ですので、もしフレインお姉ちゃんをモノにしたかったら、ぐいぐい攻めないとダメですよ?」


 ……この二人に喋らせるとどんどん話が逸れていくな。


「……あの、どういうことでしょうか?」

「あー、つまり、さっきのはあんたたちを諦めさせる方便だったんだよ」

「方便?」

「ああいう風に言えば帰ってくれると思ったんだ」

「あ、ああ、なるほど。そういうことでしたか」


 ……ようやく納得してくれたか。

 確かにニブイな、この人。


「でも、それでわたしたちがスカートを下ろす前に止めちゃう辺り、お兄さんは甘いですよねー?」

「ですです。せめてパンツだけでも見ておけばよかったですよ? わたしたちペガサス四姉妹のパンツをコンプリートしたら大したものです」

「なんなら今からもう一人のお姉ちゃんも呼んで、ペガサス四姉妹パンツ大会を開いてあげますよ?」

「何言ってるのあなたたち!? そんな下劣な大会を開くわけないでしょう!?」

「でもでもお姉ちゃん。それで心置きなく魔竜と戦ってくれるなら安い物だと思うですよ?」

「そうです。パンツ四枚で魔竜と命を懸けて戦ってくれるのです。お買い得です」

「………」


 何やらフレイン・エスタールが真面目な顔で思案し始めたぞ。

 ……いやいや、何を押し切られそうになってるんだこの人は?

 完全に妹二人の勢いに呑まれているが、冷静に考えたらペガサス四姉妹パンツ大会などで命を懸けて戦えるわけがない。

 ていうか姦し過ぎて俺の口を挟む隙がないんだが……。


「ルン、ラン。急ぎマリア姉さまを呼んできてください」

「いやいや。呼ばなくていいから。真剣な顔で何を本気でパンツ大会を開こうとしてんだあんたは?」

「お兄さん、せっかくルンとランがお姉ちゃんを洗脳してお兄さんにパンツを見せて差し上げようと思ったのに、何てことしてくれるんですか!?」

「そうです! ルンとランの努力が台無しです!」

「うん。君たち一回黙ろうか?」


 実の姉を洗脳するんじゃないよ。

 それと一向に話が進まないから。

 何でこいつら連れて来たん?


「しかし、それでは、あなたは何の見返りもなく私たちに協力してくれると言うのですか?」

「……やっぱりやめようかな」

「そんな!? ルン、ラン! あなたたちが余計なことを言ったせいですよ!? ……かくなる上は、もう一度スカートを脱ぐしか……」

「脱がなくていいから! 分かったから!」


 やべえなこの子、からかい甲斐はあるけど、まじめ過ぎてこっちが焦る。


「……それなら一つだけ見返りを求めたい物があるんだが、いいか?」

「は、はい。……妹たちはまだ幼いので、出来れば私か姉のパンツで我慢して欲しいのですが……」

「いや、いい加減パンツから離れてくれる? 俺が欲しいのはミスリルだから」

「……ミスリル、ですか?」

「ああ、それもとびっきり上等なやつだ。魔竜がいなくなって最初に産出されたミスリルの中で、最も上等なモノを見返りにもらいたい」


 そう言うと、フレイン・エスタールは拍子抜けした顔をしつつ、


「は、はい。エスタール侯爵家の威信にかけてお約束いたしましょう。あなた様にこれ以上ないほど上等なミスリルをお渡しすると」

「ありがとう。お願いするよ」


 取引成立だ。


「しかし、本当にそれだけでよろしいのですか? 働き次第によっては、恐らくそれでも見返りが少ないような気がするのですが……」

「そうだな……。だったら俺の働き次第によって何か別の報酬を考えておいてくれ」

「分かりました。しっかりと考えさせていただきます」


 ……大丈夫かな? この子真面目だから変な方向に考えなければいいけど……。


「やっぱりお兄さんは甘々なのです!」

「でもそこが?」

「「い・い・と・こ・ろ!」」


 ……息ぴったりだった。


「今後ともフレインお姉ちゃんをよろしくなのです!」

「なんならルンとランもセットで付いてくるのです!」

「今ならお買い得! なんと長女のマリアお姉ちゃんも一緒に付いてくるのです!」

「これで何とお値段タダ! お兄さん、夜のお供に是非一度お試しくださいなのです!」


 ……何をどう試せって言うんだよ……?

 フレイン・エスタールが恐縮したように頭を下げてくる。


「……本当に申し訳ありません……」


 別にいいんだけど……。

 でも本当に、何でこいつら連れてきたん?




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