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第二十三話『誕生。アイスマリー』

 ゲール大盗賊団を倒し、懐が温かくなった日の翌日。


 俺たちは遂にターザン村に着いた。

 宿で荷物を置いた俺たちは、村の外にある一本の木の下に向かう。

 見えてきたのは、村の一番東にある大岩から北に歩いて五十歩のところにある樹齢千年を超える大樹だった。


 ――この木の下にあの子が眠っている。


 エフィとルナが見つめる中、俺は大樹の根元を掘り起こし始めた。

 ちなみにどうしてこんな遠い場所に埋めたかというと、そこには色々な事情と理由がある。その中で最も大きな理由としては、いざとなると俺がこの子と別れることに抵抗があったせいだ。

 あの時は勇者パーティでの旅の途中で埋めようと思いながらも、中々手離せなくて、ついこんな場所まで持ち続けちゃったんだよな……。

 そんなことを考えていると、ガツッと手元に手ごたえがした。

 そこから丁寧に掘っていく。

 すると、大樹の根元から鉄製の箱が出てきた。


「これだ……」


 俺は万感の想いでその箱を見つめていた。

 あの頃の無念が蘇ってくるが、それももうすぐなくなる。


「へ~、その中にわたしの妹が眠ってるんだ」


 エフィがそのように言った。

 何だかんだ彼女も楽しみになってくれているらしい。


 ――箱を開けると、中から出てきたのは一体のフィギュア。


 もちろん俺が昔に作り、埋めたフィギュアである。

 フィギュアサイズに戻したエフィと比べても小さな子だ。

 背は低く、肌の色はエフィと同じかそれ以上に白い。

 髪の色は薄い緑色で、腰の辺りまである長い髪は、側頭部でぴょこんとツインテールになっている。

 耳も少し尖っているが、彼女はエルフではない。


 ――ドワーフ。


 それが彼女の種族だ。

 その証拠に彼女の額には宝石が埋まっている。

 本物のドワーフは額に宝石がはまっているのだが、それを再現する為に当時雇っていた鍛冶師に無理を言って宝石を譲ってもらったっけ。


 ――無口なツンデレロリドワーフ。


 それが当時の俺がこの子に込めた理想だったはず。

 しかもツインテール。ドワーフなのにツインテール。


 ……よし、それではこの子に命を吹き込むか。


 俺はエフィを作った時と同じように、その場に魔方陣を描き始める。

 儀式は集中して行わなければならないので、その間、誰にも邪魔されないようにルナとエフィの二人に周りを見張ってもらう。

 魔方陣を描き終ると、俺はその中央にドワーフ娘のフィギュアを置いて、魔法の詠唱を始めた。


「創造の女神マーサよ その偉大なる力を我に与えたまえ 我は御身の僕なり」


 詠唱に伴い、魔方陣に描かれたマーサ神の文様が光り輝いていく。


「今ここに新たな僕が誕生せん その大いなる御心を彼の者に分け与えたまえ ドールズクリエイト!!」


 俺は魔方陣に両手を付けた。

 すると魔法陣の光が一層強くなり、辺りに迸る凄まじい光。

 吹き荒れた風が髪を攫うのを感じながら、俺は魔法を制御するのに必死だった。

 すさまじい魔力がドワーフのフィギュアへと流れていく。

 ……やはり半端じゃない魔力が吸い取られる……。


「くっ……!」


 本当に魔力を制御するだけでギリギリだ。

 やがて魔力の嵐が収束し、それに伴って魔力の制御が楽になっていく。

 全ての光は魔方陣の中心にあるフィギュアに流れ込んでいた。


「はあっ、はあっ、はあっ……」


 俺は大きく息を切らし、その場に倒れ込む。


「……お、お兄様が、あれほどの疲労を見せるなんて……」


 ルナが驚いていた。

 それはそうだ。俺がこうまで疲れることなどそうはないからな。勇者アレクとの戦いですら息を切らさなかったのだから。

 ――一方、魔法陣の中心にあるフィギュアに動きがあった。

 カタカタと振動し、光を発し始めている。


「ひっ!? な、なんですの!?」


 割とホラーな光景にルナがビビっているが、なんてことはない。

 ドールズクリエイトが成功し、フィギュアに命が灯ったのだ。

 フィギュアの発する光は益々大きくなる。

 それはまさしく命の光。エフィの時と同じだ。


 やがて直視できない程に眩しく光が迸ると、手を翳した向こうに人の気配を感じる。

 エフィの時はここでいきなり飛び付いてきたっけ……?

 そう遠い過去の話でもないのだが、なんだか懐かしく感じた。

 しかし今回の子はいきなり飛び付いてきたりはしなかった。

 やがて光が収まっていくと、魔法陣の中央に一人の女の子が立っている。


 薄い緑色の髪をした、裸の女の子。


 ……やはり人間と同じ大きさになるのか。

 それにしても、なんで毎回裸になるんだ?

 せっかく武器や防具も合わせて作ってあげたのに、それらは全部無くなってしまっていた。

 また色々と買ってあげなければならないな。

 今回は盗賊からぶん盗ってきたお宝がいっぱいあるので、何でも好きな物を与えられる。

 そんなことを思っていると、その子は静かに前に進み出てきて、俺の前で跪いた。

 いや、そんなところで跪かれたら色々と見えちゃうんだけど……。


「マスター、お久しぶりです」


 その一言で、その子が俺と過ごした短い日々の記憶を持っていることを知った。

 心の中から熱いものが込み上げてくる。


「ああ……久しぶりだな」


 俺とその子は見つめ合う。

 ややあって、俺は彼女にこう言った。


「君の名前は……アイスマリーだ」


 アイスマリーは俺に向かって一礼する。


「過分なお名前を戴き痛み入ります。でも、その前に……」


 アイスマリーはいきなり俺に向かって凄まじいパンチを放ってきた。

 ドワーフは『土』と『力』の妖精。

 その力は半端ではない。

 特に俺が作ったアイスマリーはステータスを力に極振りしてあり、パワーだけなら俺を軽く上回る。

 そんな彼女にパンチを打たれればどうなるかと言うと、


「ぐぶべらあっ!?」


 その重すぎる拳が俺の腹に埋まり、口から変な音が出た。

 俺はそのまま吹っ飛んでいき、五十歩ほど先にあったさっきの大岩のところまで飛ばされ激突した。

 衝撃で岩は崩れ、俺はその下敷きになる。


「お、お兄様!?」

「マスター!?」


 ルナとエフィの心底慌てた声が聞こえてくるが、その後にアイスマリーの冷たい声が響く。


「……どうして私は裸にされているのですか?」


 いや、だからそれは不可抗力……。

 しかし、アイスマリーのそのセリフを聞きながら俺の意識が遠のいていく。

 まさかいきなりあんな凄まじいパンチを放ってくるなんて……。

 おい、数年前の俺。どうしてもっとマシな理想を彼女に詰め込んでおかなかった……?

 俺の意識はそこで完全に真っ白になった。








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