第十七話『エルダーの町の出来事 ‐破‐』
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宿から出て再び歩き出すと、人々は相変わらず居心地の悪い視線を向けてくる。
慣れたもので俺は別に気にしなかったが、エフィがいちいち反応して困った。
俺はエフィの腕を半ば無理矢理引っ張る形で飯屋へと向かう。
やがて見えてきた店は酒場。看板には『ドルトンの酒場』と書いてある。
「マスター? ここ酒場じゃん。こんなところに入るの?」
「わたくしも、ここはちょっと……」
女の子だからか、エフィとルナの二人がその店構えに圧を受けたように後ずさるが、
「でも、ここのビーフシチューが絶品らしいんだよ。以前この町に来た時はアレクが『こんな下衆が集まりそうな店なんかに入れるか』と言ったせいで食べられなかったんだ……。ちなみにその時、セレナとリエルがゴミを見るような目で俺を見てた……。ただ飯の提案をしただけなのに、何もあんな目をしなくても……」
遠い目でそのように語ると、
「そ、そうなんだ。うん、入ろうか?」
「お、お兄様。わたくしもここでいいですわ。今日はたんと召し上がってくださいませ」
顔を引き攣らせつつも、二人が優しくそう言ってくれた。
うん、ありがとう。あの二人と違ってやっぱりキミら二人はいい子だわ。
そんなわけで店の敷居を跨ぐと、丁度飯時とあって店の中は既に活気に満ちていた。
どうやら半分は冒険者のようで、鎧などに身を包んだ筋骨隆々な男が多い。
彼らはグラスを掲げ合い、楽しそうに談笑していた。
が、俺が店に入った途端、まるで波が引くようにさーっと静まり返っていく。
……え、なんだよ?
別に俺、何もやってないんだけど……。
だが、あからさまに店内にいる者たちの視線は俺を捉えていた。
別に睨んで来ているわけではないが、しかし何とも言えない目を向けてきている。
「お兄様、座りましょう?」
ルナの声でハッと我に返り、俺はルナとエフィを連れ添ってカウンターへと座った。
だけど目の前にいる店主も微妙な目をしている。
俺はどうしようか悩んだが、取りあえず注文だけすることにした。
ビーフシチュー三つ。
そう言おうとして口を開きかけた俺の耳に、後ろからこんなセリフが聞こえてくる。
「チッ、飯がまずくなりやがる」
振り返る。
恐らく今のセリフを言ったであろう冒険者の男と目が合う。
そいつは目を逸らさなかった。
それどころか他の皆の目も同じことを訴えてきている。
「そんなわけだ。すまないが他を当たってくれないか」
視線を前に戻すと、店主が厳しい視線を向けてきていた。
エフィがダンッとテーブルを叩く。
「なんでよ!? マスターが何をしたって言うのさ!」
静まり返った店内にエフィの甲高い声が響き渡った。
それでも彼らの反応は変わらない。
俺はため息を吐きながら立ち上がる。
「エフィ、もういいよ」
「でも!」
「いいから。……邪魔して悪かったな」
俺はそれだけ言うと、エフィとルナを連れて外に出た。
「なんでよ! なんでよ! なんでマスターがこんな目に合わなければならないのよ!」
俺に引きずられながらエフィが喚いていた。
しかし一転して静かになると、小さな声で呟く。
「わたし、ルナの気持ちが分かったかも。こんなのやりきれないよ。ルナはずっと昔からこんな気分を味わってきたんだね……」
そのセリフに俺はハッとしてルナを見る。
しかしルナはと言うと、逆に慌てたように首を振り始めた。
「え? べ、別にわたくしのことなんて気にしないで下さいませ。だって、一番辛いのはお兄様本人なのですから」
そう言って柔らかく微笑むルナ。
俺はずっと……。
しかし、ルナは目は「何てことありませんわ」と強気に言っていた。
アイコンタクトですら強情な妹に思わず吹いてしまう。
俺は昔から妹に助けられてばかりだ。
「あーっ! わたしを除け者にして、二人で分かったように見つめ合っちゃって!」
エフィが俺の腕の中で暴れ出す。
「いいから大人しくしろって。取りあえず他の飯屋を探そう」
俺がそう言ってエフィの首根っこを引っ張ると、彼女は再び大人しくなって引きずられ始めた。
どうやらこの体勢が気持ちいいらしく、目をトロンとしている。
……あの、自分で歩いてくれる?
そう思いつつも暴れられるよりはマシと判断し、俺はそのまま彼女を引きずって行った。
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それからもいくつか飯屋を回ったが、どこも最初に訪れた酒場と似たような反応だった。
まあ、あそこまであからさまではなかったが、暗い雰囲気のところで食べてもこちらも美味しく食べられないので諦めて店を出た。
「あー、もう! 本当にムカツク! 何なのこの町、感じ悪い! あ、そうだ。いっそのことこの町を吹き飛ばしちゃおうか? ドラゴニアスマインならそれが出来るけど、どう? 全部吹き飛ばせば証拠も残らないよ?」
「どう? じゃないから! ダメに決まってるだろ!」
「えー。どうしても? (コテンッ)」
「そんな可愛らしく首を傾げてもダメなものはダメだから!」
……こいつ、俺のツボを突けば自分の案がなんでも通ると思ってるんじゃないだろうな?
さすがに『おねだり』で町を滅ぼしてもいいよとは言えないだろ……。
「ねえ、チューしてあげるから。町を滅ぼしてもいい?」
「………」
「お兄様! チューだけで町を滅ぼすおつもりですか!?」
ルナの声でハッと我に返る俺。
いかんいかん。気付けばエフィのチューとこの町の滅亡を天秤に掛けていた。
「エフィも、わたくしの兄を誑かさないで下さい!」
「ならルナがマスターとチューしていいから。そうしたら町を滅ぼしてもいい?」
「………」
「ルナ、しっかりしろ! そんな意味の分からないことで町を滅ぼすつもりかお前!?」
なんでこいつ兄とのキスで町を滅ぼそうか悩んでやがるんだ!? ちょっと妹の未来が不安になった瞬間だった……。
「取りあえずエフィ、町を滅ぼそうとするんじゃない!」
「えー。じゃあマスター、キス以上のこともしてあげるから。ね? 町を滅ぼそう?」
「……うん」
あ、つい頷いちゃった。
「お二人とも、いい加減にしてください!!」
ルナにこっぴどく怒られた俺だったが、何か今一つ納得がいかない……。
ま、まあいいや。差しあたって話を変えよう。一向に話が進まないから……。
「取りあえず宿に戻ろう。あそこなら何か簡単な物でも作ってくれるだろ」
俺がそう言うと、エフィも渋々頷いてくれる。
おかげで何とかこの町は滅亡を免れたのだった。
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結論から言うと、俺たちは何とか飯にありつけた。
宿で飯を作ってもらい、それを部屋の中で食べることが出来たのだ。
ただその際、宿の店主から「飯代も五倍いただけるんですよね?」と言われた時にまたエフィが癇癪を起して大変だった。
でも「この宿だけでも滅ぼそう?」と可愛く言われた時にはちょっと悩んだくらいには俺もむかついたけど……。
――その後、騒ぎ疲れて眠ってしまったエフィをルナに任せ、俺は部屋で一人思い悩んでいた。
今日この町の者たちから向けられた視線や、受けた仕打ちの数々。
実は以前、この町を訪れた際に俺は盗賊から街を守ったことがあるのだが、どうやらこの町の連中はみんなそんなことは忘れているみたいだ。
――それとも単に目を瞑っているだけなのだろうか?
………。
いずれにせよ勝手なものだと思う。
王都でも散々味わったものが、ここに来てぶり返していた。
今まで人のために戦ってきたことがバカらしく思えてくる。
分かっていたつもりだが、再度確認させられたような形だ。
……まあ、いいさ。
もう何があってもこんな町のために身を削ってまで戦ってやるものか。
そう思うだけで、何やらスッと胸が空く思いだった。
――明日、朝早くにこの町を出よう。
グルニア王国の領土を出るまでは、どこの村や町でもこんな感じの対応が続くかもしれない。しかし、城から離れるほどマシになっていくだろう。
恩も知らないこんな国、さっさと出て行くに限る。
この国の中にいるだけで息が詰まる……。
そのように決めて俺はベッドの上に身体を横たえ、眠りに着いた。
この町の誰も彼もが俺に否定的だった。
それが明日、自分たちの首を締めることになるとは知らずに……。
読んで下さりありがとうございます。
皆様のおかげでランキングが17位まで上がっておりました!
初めて20位より上に……。順位が下がると思っていただけに目を疑いました(*^_^*)
これからも楽しんでいただけると嬉しいです。
<追記>
エフィがグルニア城で大魔法を放った際、誰も殺していないことが分かる一文を十四話に追加させていただきました。細かい理由は11月10日の活動報告で補足させていただいております。
ちなみに今のところネルとエフィは一人も殺していません。
これから先、殺すシーンはありますが、そこにはちゃんと理由があります(--〆)




