第十話 『グルニアの青年貴族』
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青年貴族たちの方に顔を向けると、彼らは一様に慌て始めた。
そして、口々に言ってくる。
「ネ、ネル……いや、ネル殿、私ももう二度とこんなことはしない! だから許してくれ!」
「わ、私もだ! ネル殿、どうか御慈悲をいただきたい!」
「私も!」
倒れているゲイルを抜かした六人いる青年貴族どもは、揃って「私も」「私も」と言ってくる。しかし、
「許すわけないだろ。バカか」
俺は吐き捨てた。
「煽られた民衆たちとは違い、最初からルナをあのような目に遭わせるつもりだったお前らを、どうして許せる? しかも姑息かつ非道にも城下の娘たちをかどわかし、その罪を俺に擦り付け、民衆まで扇動するとは……呆れて物も言えないぞ」
そう言って睨みつけると、奴らは皆、顔を青ざめさせた。
すると正面にいる男が口を割ったように叫び出す。
「ち、違う! 私はアレク様の命に従っただけだ! そ、それに、ここに来てからもゲイルの指示通りに動いただけなんだ!」
「そ、そうだ! 悪いのはアレク様とゲイルだ!」
他の者たちも皆、全ての責任をアレクとゲイルに擦り付け始める。
俺はため息を吐くと、正面にいた男の肩に手を置いて、敢えて優しく語り掛ける。
「なるほど、なるほど。アレクとゲイルがやらせたことだったのか。お前たちも災難だったなぁ」
「そ、そうなんだ! さすがネル殿。わかってくれ……」
「そんなわけあるか」
俺はその男の肩をぐしゃりと潰す。
彼は絶叫して、肩を押さえながら地面をのた打ち回った。
その男の声が少し静かになったところで、俺は他の者たちに向かって言う。
「お前らいつもノリノリで俺のことを陥れてたじゃねえか? それでよくもぬけぬけとアレクとゲイルのせいだけに出来たものだな? あ?」
彼らは再び顔を青ざめさせる。
そこを突くようにして、俺はこのように質問する。
「ところでお前ら、攫った女性たちはどうした?」
俺の質問に対し、彼らは顔を見合わせる。
そして示し合わせたようにして答えた。
「も、もちろん、皆無事だ!」
「……本当か?」
「ほ、本当だ! 私たちは……その、目的があって彼女たちをさらっただけで、決して手荒なことはしていない!」
青年貴族たちはそう言ってくるが、俺はこんなクズどもがまともな扱いをしているとはどうしても思えなかった。
だから念を押してみる。
「本当だな? 俺は攫われた女性たちに何をされたかを聞く。もし今言ったことが嘘だったら……その時はお前ら、全員殺すぞ?」
俺のそのセリフに皆一様に血の気が引いた。
その時点で何かしたと言っているのも同じじゃねえか。……本当にクソどもだな。
だったら、ついでだ。もう一つカマをかけてみるか。
「攫った女性たちに何をしたのか、事細かく本当のことを言えば、最初の一人だけ助けてやる。本当のことを漏らさず言った、一人だけな」
俺はそのように提案した。
すると、彼らは堰を切ったように我先に喋り始める。
俺があのような言い方をしたせいか、彼らは本当にこと細かく教えてくれる。
……俺は呆れるしかなかった。
しかし、その内容は聞いているこちらが耳を覆いたくなるようなものだった。
しかもまだ楽しむつもりだったようで、彼女たちは生きてはいるようだが……。
恐らく現在、彼女たちは絶望の淵にいることだろう。
心が壊れてしまっている者もいるかもしれない。
彼女たちのこともそうだが、もしルナが同じような目に遭わされていたかもしれないと思うと、俺は怒りを抑えきれなかった。
そんな俺に、青年貴族たちはあからさまに怯えた顔をしながら訊いてくる。
「ぜ、全部喋ったぞ! 私が一番詳しく喋ったはずだ! だから私は助けてくれ!」
「いや、私だ!」
「違う私だ! お願いだから助けてくれ!」
……あれだけのことをした奴らが、よくもいけしゃあしゃあと自分だけ助かりたいなんて言える……!
だから俺は、彼らに笑顔を向け、
「ああ、みんなよく本当のことを言ってくれたよ。皆平等に事細かく喋ってくれた。俺は誰も嘘はついていなかったと思う。みんな平等だ」
「で、では……!」
俺のそのセリフに青年貴族たちはパッと顔を綻ばす。
何故なら、皆助かるような雰囲気を作ってやったからだ。
だが、
「そう、みんな平等だ。だから、みんな平等に殺してやるよ」
「へ?」
「な、なんで……?」
皆、一斉にきょとんとした顔をするが、知ったことではない。こいつらはもっと酷いことをしたのだから。
「俺は一番喋った奴だけを助けてやるって言ったろ? それなのに一番がいないんじゃ、助けようがないだろう?」
「そ、そんな……」
絶望に暮れた顔をする彼らに、俺はもう一つきっぱりと言ってやる。
「それに、てめえらは悪人の中の悪人だ。救いようがないほどの、な。この俺が、そんな奴らを、本当に見逃すと思ったのか?」
俺がそう言うと、それが本気だと分かったのだろう、
「う、うわああああああああああああああ!!」
一人が逃げ出した。
すると一人、また一人と、慌ててその場を去ろうとする。
しかし、
「逃がさねえって言っただろ」
俺は左手を前に構え、体内の魔力を操り、ある魔法を行使する。
すると青年貴族の足元で風の爆発が起き、彼らはその場で真上に吹き飛んだ後、そのまま地面に転落した。
倒れ込んで苦しげに呻き声を上げている青年貴族たち。
俺はそんな彼らに近付いていくと、
「お前ら、どうせ今まで他の女性たちにも酷いことしてきたんだろ? だったら、その股に付いているやつはもういらないよな」
そのセリフに、青年貴族たちの顔が一斉に青くなった。
そんな彼らに、俺は宣言してやる。
「それじゃあ、摘出手術。やっちゃいますか」
俺は腰の鞘から剣を引き抜き、その後、乙女を六人製造してやった(婉曲表現)。
女の気持ちになって、酷いことをした娘たちに謝罪しやがれ。
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乙女にした青年貴族たちから意識を奪い、ひとまとめに縛り上げた俺は、エフィにルナを下ろしてもらい、すぐに回復薬を与えた。
ルナは全身の打撲に加え、内臓にダメージを負っていたので心配だったが、しかし上級回復薬で回復してくれた。……よかった。
元気になったルナが、いつものように気丈に振る舞い始める。
「まったくお兄様は心配性ですわ。貴重な上級回復薬を使うなんて……わぷっ」
俺は有無を言わさず抱き締める。
「ごめん、ルナ。この償いは一生かけてでもするから」
「だ、だから大げさですって。わたくしはこうして無事だったのですから」
「でも、怖かったろ? 痛かっただろ?」
「そ、それは……」
そう訊くと、途端にルナの瞳からぼろぼろと涙が落ち始める。
「あ、あれ? わたくし、なんで? こ、こんなつもりでは……」
ここに来てなお俺に心配かけまいとするとは……。
しかし、その思いが逆に俺を切なく締め付けた。
俺はより強く、ギュッとルナを抱く。
するとルナは大声で泣き始めた。
俺はただ黙ってルナを抱いていた。
しばし、そのまま時が過ぎたが、やがて落ち着いたルナが言ってくる。
「……お兄様の胸の中はあったかいです。わたくし、男の人が怖くなったけど、でもやっぱりお兄様は別です」
「……そうか」
「もうわたくしは他の男の人に触れることは出来ないかも知れません。このままお兄様に責任を取ってもらいましょうか?」
元気になったことを俺に伝えたかったのだろう、冗談めかして言ってくるルナ。
しかし、俺はその言葉に対し真剣に答える。
「分かった。俺が責任を取る。さっき言ったことは本当だ。一生かけてでもルナに償う。俺がお前を幸せにしてやるから」
「へ? そ、それってどういう……?」
「俺、もうルナから離れないから」
「!? ちょ、お兄様!? そ、それ本気……?」
と、ルナが言いかけたところで、横からエフィが割り込んでくる。
「妹として、という意味だよね? マスター」
「ちょっとエフィ!? 今いいところなのですから邪魔をしないで下さいませ!」
「えー、邪魔なんてしてないよー。本当のことを言っただけじゃん。それよりも、わたしのことを放置しないでよー」
「いいじゃないですか! 今はわたくしのターンなのです! もう少しで完璧な言質が取れるところですのに!」
「なにこの妹ヤバい。マスター、逃げよう?」
「な……!? お、お兄様の前でヤバい妹などと言わないで下さいませ!」
ルナとエフィは俺を置いて二人でじゃれ合い始めた。
良かった。ルナは少し元気になったみたいだ。
もう目を離したくないが、しかし、俺にはまだやらなければならないことがいくつか残っている。
取りあえず俺は攫われた娘たちを助け出すため、青年貴族のリーダー――ゲイルを起こしに行く。
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初ランキング!
でも勢い的にすぐ落ちちゃいそうですね……(*^_^*)
これからも楽しんで下さると嬉しいです。




