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聖黒の魔王  作者: 灰色キャット
第3章・面倒事と鬼からの招待状
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84・決闘、スライム同士の前哨戦 前

 ――アシュル視点――


 戦いの合図が鳴り響くと同時に駆け出した私と同じように、剣を構えて走り出しているカザキリさんの姿が見えます。

 彼も私と同じように闘技場の中にある武器を使用してるようですね。もう一本腰に得物を下げているようですけど、恐らくあれがカザキリさんの本命だと見て間違いないでしょう。


 鞘だけでも今まで見たものと違う。私達の使う細剣にも長剣にも似ていないそれは見てるだけでひしひしと何かが伝わってくるような気がしました。

 まずはあれを見せてもらいましょうか。


「ほう、余所見でござるか。拙者も随分と甘く見られたものでござるな」

「すみません。あまりにゆっくりこちらに来ていたもので」

「はっはっは、そうでござるか。ではもう少し力を入れても大丈夫でござるな」


 ガキィンと強く音が響いたかと思うと、じりじりと私のほうが後ろに下がってしまいました。

 ……予想はしていましたけど、やっぱり力負けしてしまいますか……。


 すぐにカザキリさんの刃を弾き、距離を取って改めてしっかりと見据える。


「ははっ、随分と嫌われたでござるな。なにもそう邪険にしなくてもいいでござろうに」

「あいにく、負けるとわかっている勝負に付き合う必要はないですよ」


 ――イメージは氷の槍。全てを凍てつかせる武器。掠った者の生命すら涸らせる氷結の一撃。あらゆる熱すら踏みにじる死の凍てつき!


「『フリージングランス』!」


 国境戦争で使った時よりも深く強くイメージして、魔力を解き放つ。カザキリさんに当たるよう、掠ったとしてもそこから侵蝕ように広がる氷を。

 解き放ったその力は前回使った時よりも大きく立派な槍の形状の氷が宙に生み出され、一気に射出しました。


「くっ、この魔法、尋常じゃないでござるな」


 ひと目見てこの魔導の力がただ事じゃないと見抜いたのか、大きく避けて行くのが見えます。それに対し追撃を仕掛けるように一気に加速して刃を振り下ろしたのですが、若干不安定になりながらも刃を合わせて防がれてしまいました。

 そのまま剣を斜めに倒し、滑らせるように私の剣を逸らされてしまい、腰を捻って回転したかと思うと真横から斬撃が襲いかかってきました。


「くぅっ……」


 慌てて以前ティファさまがやった剣を逆手に持ち替えて両手持ちで防ごうとしたんですけど、やはり力の差が歴然で……そのまま吹き飛ばされてしまいます。


「そんな防御、通ると思ったでござるか? 笑止千万!」


 いつの間にかこちらに駆け寄ってきたカザキリさんが突きを繰り出す姿勢を取ってるのを見て、私は魔導のイメージを働かせました。


「『アイスソーンバインド』!」

「ちっ……」


 氷の茨が私の意思で一気に襲いかからせます。そのまましっかりと剣を両手でしっかりと握り締めて、左に右にと緩急をつけながらステップを踏んで、思いっきり斬りかかりました。

 カザキリさんは氷の茨を避けながら私の動きに注目していて、ぎりぎり対応出来ずいたんですが……それでも肩口を少し掠らせるだけで留まってしまいます。肝心の私はカザキリさんに蹴り飛ばされ、多少距離が開けてしまいました。


「『フリーズレイン』!」


 向こうのペースにのせられないよう、氷の雨を降らせ、近寄らせないようにしました。

 ティファさまみたいに必要最低限の動きで躱せるほどの力量じゃないことぐらいは私にでもわかります。

 剣で劣るなら……魔導で勝負です!

 カザキリさんも私の考えが読み取れたのか、『フリーズレイン』のせいで離れた距離を詰めずに不敵に笑っています。


「くっ……くくくっ……面白い。剣でダメなら魔法で勝負、でござるか……ならばこちらも受けて立つでござる!」


 お互いに距離を保ちながら相手の出方を伺っていましたが、このままではらちがあきません。取るなら先手です!


「『フリージングランス』!」

「『火風・鎌鼬(かまいたち)』!」


 私が氷の槍を解き放った直後、カザキリさんの放った熱を持った……いや、炎を纏った風の刃が『フリージングランス』を斬り落としてしまいました。

 あれがカザキリさんの……鬼族の魔法。


 私の魔導が一刀両断にされるなんて……。


「はっはっは! 拙者とて魔法の一つや二つ、使えるでござるよ!」


 私の『フリージングランス』を砕いたのが嬉しいのか、にやっと私に向けてきました。

 くうぅぅぅぅっ……バカにされたようですごく悔しいです!


 ばっちり顔に表れていたようで、余計に笑みを深くしていってるのがわかってしまい……余計に悔しく感じます。


「『火土・地走』!」


 カザキリさんが地を走る炎の魔法を放ってきました。

 恐らく彼の得意な属性は火なのでしょう。これは好都合です。


 ――イメージするのは無数の水の矢。あらゆる炎を飲み込み打ち消す青の一斉射。


「『クアローバスト』!」


 私の言葉とともに眼前を埋め尽くさんばかりの水の矢を形成して、『火土・地走』ごとカザキリさんを射抜く為に射出しました。

 私に迫ってきた魔法はあっという間にかき消え、怒涛の攻撃が彼に襲いかかることに。


「『風土・砂塵黄砂』!」


 ちょっとは仕留められるかと思ったんですけど、やはりそう簡単にはいかないみたいですね。

 彼が魔法を口にしたと同時にカザキリさんを中心に黄色い砂の嵐が巻き起こって私の放った無数の水の矢は次々と吸い込まれるかのように砂嵐の中に入り、消えていってしまいました。


「防御系の魔法ですか……」

「残念でござるな。拙者はそう簡単にやられはしないでござるよ!」


 もう魔法勝負は飽きたと言わんばかりに剣を構えたカザキリさんは、ぐっと腰を落として私に斬りかかろうとするかのように見えます。


「……剣勝負に付き合う気はありませんよ?」

「はっはっは、なにも魔法だけが勝負とは限らんでござるよ! 両方を使えてこそ戦いでござる!」


 まるでカザキリさんが矢になったかのような速さで私の元に迫ってくるのを見て、迎撃するべく構えました。

 二度めの強いイメージをして、魔導の準備をしていたのですが……それもカザキリさんに先手を討たれてしまいました。


「『風風・風神一刀』!」

「…………っ!?」


 嫌な予感がして防御の姿勢を取ったのですが……正直、何が起こったのかわかりませんでした。

 気づいたら私は壁に叩きつけられ、思わずよろけてしまいます。


「くぅ……かふっ……」

「どうしたでござるか? よもやこれで終いでござるか?」


 幸い目立った傷もなく、まだ十分に身体は動かせます。

 だけど、あの動きは……ちょっと異常に感じました。


 魔法なのか剣技なのか……まだ剣の届かない遠い距離だったはずでしたのに、その間合いが一気に縮まって来たのには驚きました。

 挙げ句、剣で確かに防いだと思ったソレは、重い感触をそのまま私に与えてきて、壁まで吹き飛ばされてしまいました。


 魔法名からしても風属性の魔法なんでしょうが……速すぎて捉えることが出来ませんでした。

 突風が吹いたかと思った瞬間にこのような状態になったのでは、とても勝負になりません。


「はぁ……はぁ……」


 それでも……それでも、諦めたくありません。絶対に、諦めたくない。


 ――イメージは癒しに満ちた慈愛の光。柔らかく包み込み、傷を治す祝福の煌めき。


「『ヒールベネディクション』」


 本来は広範囲を癒やす魔導なんですが簡略化を図って私一人に癒しの力を絞り込み、体力を回復させました。

 なんとか持ち直しましたが、これはかなりまずいです

 魔法は恐らく五分か僅差とも言える程度なのかもしれません。ですが、剣は明らかに私のほうが不利。

 それらを組み合わせたさっきの魔法がまだいくつもあるのだとしたら……非常にまずいです。


 ですが今すぐに切り札を切るわけにもいかず…どうしましょうか……。


「回復したでござるか……適正は水・光。攻撃も回復もこなす万能型でござるね。一辺倒のものよりも器用貧乏になりやすいはずでござるが、よくここまで練度の高い魔法が使えると感心するでござるよ」

「お世辞は良いですよ。それでも貴方には及ばないんですから」

「はっはっは、拙者は上位魔王であるセツキ王と常に戦場を共にした益荒男でござるよ。アシュル殿のような未熟者に、負けるはずもなし、でござるよ」

「私が、未熟者ですか……」


 確かにそれは事実なんですが、思わずムッときてカザキリさんに不満の目を向けると余計に愉快そうに目を細めて私を挑発し続けてきました。


「本当でござろう? お主、ティファリス女王を好いているのでござろう? 好意ではなく、恋慕の類でござるな!」


 話しかけながら一気に詰め寄ってきたのを迎撃するのですが……刃を交え、剣戟を鳴り響かせながら、それでもしっかりと届くほどの声で彼から放たれる挑発の言葉が、私の心を揺さぶらせてきます。


「お主、まだ人型になった契約スライムの秘密について、ティファリス女王に告げてはおらぬのでござろう?」

「……くっ、なんでそう言い切れるんです……かっ!」

「はっはっはっ! ティファリス女王の態度から丸わかりでござるよ!

 どちらかと言うと妹やそれに近いなにかのように思われてるのではござらんか?」

「そ、そんなこと……」


 私が不安に思っていることの一つを言い当てられてしまい、思いっきり動揺した私の隙をついてきました。

 見逃してくれるほど甘い男の人じゃないのはわかっていたはずなのに……!


 今までよりもずっと早く振り上げられた一撃を受け止めることには成功したのですが、力が込められた重い一撃を動揺で力が抜けた私はしっかりした姿勢で止める事ができず、そのまま剣の勢いに流されるように体勢を崩してしまいました。


「どうしたでござるか? 動揺した、ということは自分でもそう感じている証拠!

 秘密も、想いも告げることの出来ぬ、情けない軟弱な我が同胞よ!」

「言いたい放題……ッ」

「間違ったことは言ってないでござるよ!」


 振り下ろされた剣がそのまま一回転して再び同じ軌道を描き、私に叩きつけられようとしたところを寸前でなんとかかわして、少しですが距離を取ることに成功しました。


 追撃しようと思えば出来たはずなのに、カザキリさんはわざとそれをしないで不敵に見下すように佇んでいます。


「ティファリス女王を守るなど、お主のような未熟者に出来るはずもない!」

「……そうかもしれません。それでも……」


 それでも、私はあのお方の側にいたいから……あのお方を守りたいから……!


「……それでも、貴方たちにはお任せできません」


 しっかりと起き上がった私は、はっきりとカザキリさんを見据え、ぐっと剣を持つ力を込めて彼めがけて駆けていきました。

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