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聖黒の魔王  作者: 灰色キャット
第3章・面倒事と鬼からの招待状
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80・魔王様、とっておきの場所に招待される

 アシュルの魔力切れで動けなくなってる間、その看病をしたり図書館で本を読んだりと時間を過ごしてる内に、あっという間に時間が過ぎていった。


 誰かの世話を焼くなんて今までしたことなかったし、すごく新鮮で良い体験をしたんじゃないかと思う。

 調子に乗って食事やらお話やらをせがんできたんだけど、アシュルはこの特訓で頑張ってくれたからご褒美、ということで存分に甘えさせてあげた。


 わざわざ「あーん」してあげたし、本の読み聞かせとか……ま、それなりに楽しかったからいいけどね。

 一応ある程度動けるようになったのはいいんだけど、倒れる前よりもずっとべったりになってしまったのがちょっと難点だけど……それも気にするほどのことじゃない。


 そんな比較的楽しい日々を過ごしていたんだけど、急にセツキ王から呼び出しがあった。

 従者の女の人が訪れたと思ったらいきなりそんな話になったからびっくりしたけど……「面白いものを見せてやるからアシュルと一緒に来い」なんて言うもんだから俄然興味が湧いてきた。


 もちろん最初は「いやさっさと決闘の準備整えなさいな」とも思ったけど、何もそう慌てることじゃない。

 物事には順序というものがあるし、セツキ王の仕事が終わったからってすぐに決闘が出来るというわけでもないと思い直すことにした。


 というわけで現在の私はアシュルを連れてセツキ王のいる王の間の入り口にいる。

 まだ万全の状態じゃないアシュルだけど、動くぐらいなら支障ない様子で……なぜか私の服の裾を掴んでいた。


「アシュル? なんで手が……」

「え? あの、まだちょっと一人で歩くのは不安と言いますか……ダメ、でしたか?」


 その弱々しい目で私を見るのは止めて欲しい。それじゃあダメとは言えないじゃないか。

 ……仕方ない。体調が悪い時は、支えてあげるのも私の役割というものだろう。


「ふぅ……一応私は貴方の主人で女王様なんだからね? 元気になったらそこのところ、ちゃんとしなさいよ?」

「はい!」


 許された! とばかりに満面の笑みを浮かべて楽しそうにしているアシュルの姿にしょうがないなとため息が出そうになる。

 本来だったらこういう所はしっかり境界を引いておかないと、とも思うんだけど……これはこれで私ってことでいいか。


 裾を握ってたアシュルの手をしっかりと握ってあげると、ぱあっと花が咲くように満面の笑顔でこっちを見ている。

 なんとなく気恥ずかしくなった私は、さっさと中に入ろうと思い王の間に一声かけることにした。この国の作法と違う? そんなものは最初から守れてなかったし、ある程度は気にしなくていいと向こうも言ってたから大丈夫だろう。


 前回はその……このふすまというものは名称もよくわからなかったんだけど、今はそこそこ理解できてる……はずだ。

 とりあえずノックはしない。入る時は必ず一声かけて入るっていうのがマナーらしく、初めてここを訪れた時の行為はどちらかというとマナー違反なんだそうだ。


 ……いや、あれはカザキリがむしろ勝手にやったことで私達が守ってないわけじゃあないんだけどさ。

 あの時は本当に驚いたもんだ。だからこそ二度目は失敗しないようにしないよう、この最低限の礼儀だけは通しておかないとね。


「セツキ王、ティファリスだけど、今は大丈夫?」

「おう、入ってきてくれ」

「それじゃあ失礼するわ」


 ガラッと開けた先には相変わらず座っているセツキ王の姿とカザキリの二人だ。

 相変わらずどんと構えているけど、少しは仕事をしているような雰囲気も見せて欲しい。


「ティファリス様、おはようでござる」

「はっはっはっ! よう、朝からお熱いこったな!」

「お熱いだなんてそんな……」


 カザキリの方はまともな挨拶をしたけど、肝心のセツキ王は茶化してくれた上、アシュルはそれを受けて頬を赤くして満更でもないといった様子だ。


「二人共おはよう。で、セツキ王の面白いものっていうのは何かしら?」

「おいおいつれねぇな。ちょっとはノッて来てもいいだろうに」


 そんなノリ悪いなみたいな感じで言うのは止めてくれないかな。

 バカな発言には付き合ってられないって。

 ちょっとため息が出そうになるけど、そこはこらえ――結局呆れ顔してるから同じか。


「その調子でずっとイジられたらこっちもたまらないからね」

「さすがティファリス様でござる」


 セツキ王が若干面白くなさそうな顔をしてるけど、何も無理して付き合う暇はない。

 そんなことのために私は呼ばれたわけじゃない。

 やれやれと言わんばかりにため息を一つ付いて、彼の方から本題を切り出してきた。


「……はぁ、仕方ねぇな。ティファリス女王、面白いものの話の前によ、俺の別名はなんだか覚えてるか?」

「貴方の別名?」


 私とセツキ王にはつい最近接点があったばかりだったはずだ。

 ……いや、実際は誓約でリーティアスとセツオウカは結ばれていたわけだっけか。期限は切れたし、その関係はもう解消されたけど。

 誓約には結ぶ側が互いに納得する条件と、提案した側が立会人になった魔王に対しなにか対価を支払わなければいけなかったか。


 アールガルム・エルガルム両国とリーティアスが誓約を結んだ時、立会人になったセツキ王に対しなにを対価にしたんだっけか……あれは確か……


「……ああ、思い出した。武器コレクターだっけ」

「ははっ、その通りだ。せっかくだから俺様のコレクションの品々を見せてやろうと思ってな」

「へえ……」


 それには確かに興味深い。私のところから便利そうな魔剣を三本も持っていった元凶が一体どんな魔剣を集めているのかを。

 この男のせいで『猫愛限界突破剣(キャリッツ・オーバー)』とかいう猫に好かれる毎に切れ味が増していくとかいう奇妙な魔剣しか手元に残らなかった上、危うく猫耳のついたカチューシャと猫しっぽが生えてるふりふりのフリルがついた、淡いピンク色の服を着させられかけたのだから。


 今思い出したら少し腹が立ってきた。


「……どうした? 不機嫌そうな顔しやがって。

 なにかやらかしたってか?」

「別に。ちょっと昔のことを思い出しただけよ」


 今のセツキ王に当たるのは流石に見当違いな上、今更八つ当たりしたってどうなるものでもない。

 むしろ彼の性格からいって、からかわれるか実際着ればよかったのにとでも言われるかのどちらかぐらいでしかないだろう。


 そんなもの、私にとっては不利益でしかない。不毛な争いになるだけだ。

 ひとまず気を落ち着けないと、下手なことを言ったら墓穴を掘るだけだ。


「……ふぅー、大丈夫よ。もう何でもないわ」

「そうか、ならいいんだがよ。さ、それじゃ行くぜ」


 そう言って立ち上がったセツキ王は、カザキリと共に件の武器がある場所に案内してくれたのだった。






 ――






「ここが俺様のコレクションが蓄えている武器庫だ」


 しばらく歩いてたどり着いたのは、この城には似つかわしくない分厚い鈍色の扉だ。しかしふすまと同じように横から引いて開ける感じに見える。こういうところは変わらないんだから尚更違和感があるな。


「これはちょっと……すごいですね……」

「また随分と変なものね」

「そうか? これぐらいしねぇと盗まれたら困るしな! よし、それじゃ開けるぞ」


 セツキが両手の骨を鳴らして、鋼鉄製のふすまに何故かついてるハンドルに手を掛け、ゆっくり回転させる。

 ゴゴゴゴ、と何かが動く音がしたかと思うと、直ぐ下からドアノブが出現した。


「なんでドアノブ?」


 思わずそう呟くほど不思議に思ってしまうほどだったが、セツキ王がちらりとこちらを見て笑ったかと思うと、ノブを回してゆっくり扉を押して開いた。


「あ、それ押すタイプの扉だったんですね……」

「てっきりこっちもふすまと同じものかと思ったわ……」


 あんまりの出来事にあ然として見ている私達に、その反応が見たかったと言わんばかりに満足そうな顔をしている。


「くっくっく……いやぁおもしれぇな。こいつはそういう風に見せかけてるだけのただの扉だ。

 ハンドルも相当かてぇから俺様じゃないと回せないシロモノよ」

「……大層な趣味だこと」


 呆れてものも言えないとはまさしくこういう事を言うのだろう。

 わざわざそういう風に見せ掛けなくてもこんな馬鹿みたいに重そうな扉、常人というかよほどの魔王じゃないとまず開けられないだろう。

 それだけ重要なもの……というか、彼の大切な物が入ってるってことになる。


「はっはは、何度見てもこの仕掛は面白いでござるな」

「だろ? さっ、早く中に入ろうぜ」


 そう言うとさっさと中に入ったセツキ王についていくと……そこには一本一本丁寧に武器が飾られていた。

 様々な形状、色んな剣がずらーっと並べられている。

 中央は試し切りが出来る広いスペースがあって、更に奥にはまた何か別の施設があるように見える。ここまでの設備が整ってるとは思っても見なかった。


 これはすごい。見てて壮観というか圧巻というか……よくもこれだけの物を集められたもんだと感心する。リカルデが見たら飛んで喜びそうだ。

 私の目から見ても逸品揃いだし、一体どんな効果を持つ魔剣なんだろうか。柄にもなくわくわくしてる私がいるのを感じた。


 以前なら興味もなかったはずなのに……随分と不思議なものだ。


「お、興味が出てきたみたいだな。どうだ? 説明、いるか?」

「お願いできる?」

「おうよ。元々そのつもりだったからな」


 誰かに自慢したくて仕方なかったと言わんばかりの良い笑顔だ。

 これが王という存在じゃなかったら集めたものを自慢したがる子ども心を残した男のように見えるのだからしょうがない。


「男の人ってみんなあんな感じなんですか?」

「いくつになっても遊び心は忘れない。それが鬼族ってものでござるよ。だからこの国には娯楽も盛んに行われているでござるな。まっこと愉快な種族でござるよ」

「ああ、男の人……っていうことじゃなくて鬼族だからってことですか……」


 珍しくアシュルがカザキリに話しかけていて、彼も普通に受け答えてる。

 娯楽っていうのは四面ダイスを使った卓上遊戯とか……そこら辺は軽く触れたぐらいだからあまり詳しくはないんだけど、色々と存在するようだ。


 で、そのお祭りや賑やかなのが好きな鬼の魔王はそこでのんきに魔剣の物色をしてるんだけどね。


「そうだな……せっかくだからここでも披露できるなにか面白そうなものが良いな」


 ちょっとあくどい顔をしてるけど、多分さっきの扉のように私達を驚かせようと画策してるだけだろう。

 さてさて、一体どんな魔剣が飛び出してくるのやら……今から少々不安になってきた。

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