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聖黒の魔王  作者: 灰色キャット
第3章・面倒事と鬼からの招待状
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67・魔王様、思わず忘れかける

 リーティアスからラントルオを走らせ、クルルシェンドの貿易都市リンデルまで来るのにだいぶ時間がかかった。

 そりゃあリーティアス――南西地域の端の方からこの中央までかなり遠くに来たものだからね。

 戻るのにも下手をすれば同じくらい時間がかかるんだけど……それはオウキが解消してくれた。


「ティファリス女王、これが我が主から貸し与えられたワイバーンと呼ばれる翼を持つトカゲでござりまする」

「ワイバーン……」


 竜種の亜種と呼ばれているワイバーン。祖先ははるか昔、竜人族に繋がっているらしいけど、詳しい話は定かではない。

 竜人族が人としての暮らしを捨てた結果だの、最初からそういう繋がりはなかったなどと色々な噂がある魔物の一体として有名だ。

 オウキはトカゲとか言ってたけどそんなことはない。彼らはまごうことなき竜種の一角。並の兵士であれば間違いなく出くわしただけで死を覚悟するほどの存在だ。


「初めて見たけど、中々かっこいいわね」


 このワイバーンは全身が黒い鱗で覆われていて、腕はなく、立派で大きな翼が生えている。

 きりっとした顔立ちが勇ましく、その雄々しい姿は見るものを圧倒する。


「飛竜を見てそんなセリフを言えるのはティファリス女王ぐらいなものでござりましょう」

「お世辞はいいから、どうやって乗るの?」


 正直転生前もワイバーンに乗るなんて経験なかったし、ちょっとわくわくしているのだ。

 そんなおべっかを使ってる暇があったらさっさと乗り方を教えて欲しいといったところ。


「ああ、飛竜の背中にクラが装着されておりますのでそちらに乗って手綱を持っていただければ後はおまかせでござります。自分が行きたい方向にちょっと手綱を引いてやれば、すぐに意図を理解してくれるでしょう」


 なるほど、流石竜種の一角。頭は中々にいいってことか。

 そうなれば当面の問題は……。


「お嬢様、騎乗方法も大切でございますが、このワイバーンの姿からして四人も乗れるとは思えません……」


 そう、そうなのだ。このワイバーン、スマートな外見やクラのことも含めると、二人くらいと荷物くらいが精々なのではないかと思えてならない。


「そうやすやすとワイバーンは持ち出せませぬ。我が主にティファリス女王を迎えに行くからと無理言って貸し与えていただいたでござります。結果的にはそれが功を奏したと言っても過言ではござりませぬが」

「結構点々としてたからね」

「居場所がはっきりわかっておりましたらディトリアに待機させているワイバーンも一緒に連れてきたのでござりまするが……フェアシュリーに出発してかなり日が経っておりましたので……」


 申し訳なさそうにするオウキだけど、彼は何も悪くない。万が一のことを考えたら、二匹一緒に行動するっていうのも得策じゃないし、ディトリアに預けてくれたということはその分信用してくれてるってことだろう。

 こうなると問題はフラフとリカルデ二人。どうしても置いていかなければならないのだけど……。


「ティファリスさま、おいていくの?」

「うっ……」


 そんな捨てられそうな子犬みたいな目でこっちを見ないで欲しい。

 どんなことをしてもオウキが必要な以上、連れて行くことは出来ない。

 流石にオウキを置いていくのは色々と……というか普通にまずいからね。


「お嬢様、私とフラフはラントルオでリーティアスに戻りますので、お先にお戻りください」

「えー……」

「フラフ、お嬢様を困らせてはいけませんよ。貴女はすでにリーティアス……ティファリスお嬢様の信頼出来る家臣の一人なのですから」

「信頼出来る、家臣……!」


 流石リカルデだ。そこには先ほどとは一変してキラキラと目を輝かせているフラフの姿が。

 この調子なら彼女も文句は言わないだろう。ありがとうリカルデ。


「それなら私は先に戻るけど……リカルデ。それにフラフも、気をつけなさいね?」

「うん、任せて」

「お気遣いありがとうございます。ディトリアから出立なさる時はアシュルを連れて行くといいでしょう。彼女でしたら身の回りのお世話など、何かとお役に立つと思います」

「ありがとう」


 リカルデがアシュルを名指ししていくるとは思ってなかったからか、ちょっと意外な感じだ。彼がアシュルを認めてくれているのが伝わってくる。

 これならば安心して私も向こうに行くことが出来る。


 ということでラントルオとフラフはリカルデに任せ、私は一度リーティアスの首都に変わったディトリアに戻るのであった。






 ――






 ――リーティアス・新首都ディトリア――


 久しぶりに戻ってきたディトリアは相変わらず潮風の匂いが鼻をくすぐり、フェアシュリーの『国樹』による安定した気候。

 何もかも懐かしいっていうのはちょっと大げさだろうか。


 ワイバーンでの旅は相当楽しかった。ほとんど短い旅だったけどね。

 力強く羽ばたくワイバーンが与えてくれる風を一心に受けると、まるで自分の力で空を飛んでいるかのような錯覚を私に与えてくれた。何かの魔法を行使してくれてるのか、激しい揺れを感じず、風も許容範囲内に収められていたこともあって十分に堪能することが出来た。

 思わず心の中ではしゃいでしまった程だ。


 唯一不満があったとすれば、私の腰に遠慮なく手を回していたオウキの存在ぐらいか。

 危ないとはいえ、少女にしがみついてくる男の図っていうのは酷いものだ。

 これがワイバーンじゃなくてラントルオの上だったら遠慮なくぶっ飛ばしていたかも、と思うくらいにね。


 ちょうど降り立ったのはディトリアにある私の館がある場所だった。ちょうどもう一匹のワイバーンを目印にしていたみたいで、同じ色のワイバーンがそこにはいた。


「無事到着いたしましたな」

「着いたんなら放してもらえる?」

「いやはや、これは申し訳ない。せっかくの旅、役得を堪能させていただきました」


 ようやく離れていったオウキにため息をつきつつも、久しぶりに帰ってきたこの国の変わらない様子に思わず目を細めた。


「ティファさま!」


 懐かしい声が聞こえてきたかと思うと、目の前にその青い存在が現れた。

 そう、ディトリアを発って以来ぶりのアシュルだった。


「ただいま、アシュル」

「はい! おかえりなさいませ!」


 私のことを待ってました! と言わんばかりに輝かしい笑顔を向けてくれる。犬の尻尾とかついてたらぶんぶん振り回しそうなほどだ。

 だけどもそんな様子から首をかしげるようになった。


「ティファさま、リカルデさんは?」

「彼なら今もセントラルよ。もうしばらくしたら帰ってくると思うわ」


 出来ればすぐにオーガルを連れてセツオウカに向かわなければならないのだろうけど、その前にせっかくここに戻ってきたのだ。やることはそれこそ山積み。

 まずは最低限でもリーティアスの情勢を知って置かなければならない。


「アシュル、帰ってきて早々だけどフェンルウとケットシーを呼んでくれる? 私が居なかった間に何が起こったのか知りたい。執務中だったらそれが終わってからでいいわ」

「かしこまりました! しばらくの間お待ち下さい」

「よろしくね」


 ぱたぱたと駆けていったアシュルを見送って、私の方も久しぶりに帰ってきた館をのんびりと歩くことにした。


「ちょっとくらいこっちの様子を見てもいいでしょう?」

「もちろんでござりますよ。我が主もこちらが急かしすぎたせいでリーティアスの情勢が不安定になるという事態に陥ることは、好ましくはないでござりますからね」


 良かった。もし強引に連れて行こうっていうんだったらちょっと反抗したかもだからだ。

 急がねばならないのもまた事実だろう。だけれどラントルオでの移動とは違ってワイバーンは相当移動速度が速い。

 ラントルオが15日で行ける距離はワイバーンにとっておよそ3日程度で行けるようだ。しかもあくまでラントルオが野宿や食事、小休憩などをする以外は走っていた場合にのみ、だ。ラントルオ自身を休めることも考えれば、後半日ぐらいは短縮されるだろうか。

 ワイバーンの場合、障害物のほとんどない空の旅。大地を走ってるラントルオとはまた別といったところだ。

 その分風の影響を強く受けるから、強風ばかりのところだと立場が逆転するんだけどね。


 そういうわけだから多少はこっちで滞在する期間がある。3~4日くらいだろうから大したことは出来ないだろうから、現状の確認、大まかな指示くらいはこなせるだろうと思う。


「それにしても彼の方があのような場所にいたとは、驚きを禁じ得ないでござります。まさかあの鬼族の元魔王であるシュウラ様がかのような地にて憂い目にあっていたとは……」


 ふとオウキが目を伏せているのを見て、なんというか……その姿に同情した。

 そう、私はワイバーンに乗るあの時まで忘れていたのだ。


 正確には四人ではなく、四人と死体が一体ということを。

 最初シュウラのことをオウキに説明した時は相当驚いていた。それもそうだろう。なにせ彼は鬼族の元魔王……亡くなってから今までどこに姿を消していたのか、セツオウカの誰にもわからなかった。

 そんな元魔王がまさかアロマンズの元にいて、今回の戦争で私と死闘を演じたというのだからそりゃあ驚くか。


 急に荷物が増えたことにより私は大いに悩んだ。

 ワイバーンは明らかに二人が精一杯。荷物のことを考えたらもう一人くらいはなんとかなりそうだったけど、ほとんど暴れることのない……そう、荷物みたいな扱いをされることが条件だろう。

 幸いアイテム袋のおかげで荷物はほとんどないし……ここまで考えてから私が出した結論とは――『チェーンバインド』によってオウキの身体にくくりつけることだった。


 いくら死体とはいえ、仮にも人形の……それも自分の同じ種族の元魔王を荷物扱いするということに若干納得の行かないというような顔をしていたんだけど、私がワイバーンを操る以上、それしか選択肢はなかった。


「……彼にも悪いんだけど、もう少ししたら故郷に帰してあげられるから……もう少しだけ我慢して」

「わかっておりますよ。ティファリス女王は優しいでござりますな」


 そう言って生暖かい目でこちらに微笑みかけてくるオウキに今の私は多分心底ありえない…という顔をしてるだろう。


「そんなわけ、ないでしょ」


 これ以上変なことを言われる前にさっさと館に戻ろう。仕事も山積みだろうしね。

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