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聖黒の魔王  作者: 灰色キャット
第3章・面倒事と鬼からの招待状
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間話・小鬼族の日常の一コマ

 ――リーティアス・訓練場 ゴストルン視点――


「どうした! それで終わりか!?」

「ひぃ、ひぃ……」


 あー、今日もまたウルフェンさんが新人の兵士を扱いているのが見えるス。

 そんなひぃひぃ言いながら一生懸命走ってる新人を尻目に、ボクは手ぬぐいで汗を拭きながら一息ついてるところス。


「ウルフェンさん、今日も派手にやってますね」

「おいらたちも ついていくのに大分苦労したんですねー」


 ボクの隣でいつものペースで話してるのは国境平原で一緒に戦ったゴウェインとゴルドン、ス。

 真面目っぽいのがゴウェイン。話し方がちょっと怪しいのがゴルドン、スね。

 あれからなんだかんだで一緒にいることが多くなって、今ではマブダチス。

 飯食う時も、どっか遊び行くときも……いやさすがに風呂は別々スけど、大概のことはこの三人でこなしてきたス。


「リカルデさんがいなくなってから張り切ってるスからね。期待に答えてみせるんだって、いつも言ってたスから」

「ははは、確かに上手くやってるんですねー。ちゃんと訓練の時と休息の時をはっきりわけてるようですし、辛いだけじゃないから長続きしやすいんですよー」

「言えてますね。そのまま過ぎるのはどうかと思いますが、下手にアレンジされて悪化されても困りますからね」


 こんな適当な話も合わせられるのがなんだか居心地がいいのがいいス。

 ま、後はアレがなかったらもっといいんスけどねぇ……。

 ちらりと横目で見ると、最近入ったオークの集団がいるス。リーティアスの国の方針で、率先してオークの人たちにも仕事を与え、働いてもらうっていうのらしいス。


「あれがなかったらここも随分居心地が良かったんスけどねぇ」

「ああ、あれですか……彼らも被害者なのはわかるのですが、どうしても感情的に……許せないんでしょうね」


 必死に訓練してるオーク達は国境平原で見ていたオークたちとは違って一回りも二回りも小さくて……一般的なオーク族よりひ弱そうにしか見えなかったス。


「でも……あのオークたちは可哀想ですよー。だって、エルガルムにも……リーティアスにも居場所がないなんて」

「「…………」」


 そういう話をしてたら、早速目についたのはオークいじめの集団だったス。

 ボクらと同じゴブリン族に、ボクたちより後に入ってきた魔人族の兵士たちスね。

 ボクら、ディトリアで生まれ育ってきた身スからね。若いゴブリンの中では結構古株なんス。


「おい、いつまで休んでんだ! とっとと動け!」

「で、でも……オラたち今休み始めたばかり――」

「つべこべ言うな! いいか? ここで飯食えるだけでもありがたく思えよ?

 本当ならお前らみたいなのがいていい場所じゃないんだからよ!」


 威圧するように見下してるのはいいスけど、いい迷惑スよ。

 ボクらの視線を知ってか知らずか、新人オーク達に八つ当たりするようにいじめてる光景を眺めながら、思わずため息をついてしまったス。

 この国、リーティアスは以前オーク族の国のエルガルムと戦争したてんスよね。今はもう終わったんスけど……その時の名残、っていえばいいんスかね?

 オーク族とボクらリーティアスの国の住民の間にはどうしようもない隔絶があるス。ディトリアの住民はそんなに嫌ってはないんスけど……やっぱりエルガルムから直接被害を受けてる人たちには難しい問題スよね。


「はぁ……仕方ないスね」

「ゴストルン、あまり関わらない方がいいですよ? 変な恨みを買いかねませんからね」

「嫌な気分になるのはわかるですねー。難しい問題なんですよー」

「それでも疲れてんのにこんなのはいやスからね」


 重い腰をあげてそのそのと近づくと、オークたちに向けた視線をそのままボクの方に向けてくるス。

 あーあー、とても仲間に向けるような顔じゃないスよ。


「そこら辺で止めてもらえないスかね? 気分悪くなるスよ」

「……ちっ、お前には関係ないだろ」

「関係あるスよ。目の前で後輩いじめられてるのなんて見てられないスよ」


 ボクの発言に小馬鹿にするような笑いを浮かべてどうしようもないやつだと言わんばかりにボクを見下してくるのは微妙に腹立つスね。

 よくも同じ国の仲間にそんな顔出来るスよね。


「後輩? このオーク共がかよ。こいつらはオレ達の村を焼き払った奴らと同じオーク族なんだぞ? 後輩でもなんでもねぇよ」


 ぺッとツバを吐きかけるいじめっ子の姿は本当にきついスね。

 オークたちもまるで自分の立場はわかってますって言わんばかりの態度で、やる方もやられる方も当然みたいな感じなのがちょっとムカつくスね。


「馬鹿スかね、ここがどこかわかってるス? ティファリス女王様の方針を忘れたスか?」

「忘れてないさ、だけど出来ることと出来ないことがあるだろう? いくら女王様のお言いつけだからといって俺達にはオークたちと仲良くなんて到底ムリってことさ」

「だったら出ていけばいいスよ。どっか別の場所ならともかく、ここはリーティアスを守るための兵士を育てる場所スよ? それを邪魔するような輩、そもそも必要ないスよ」

「なんだとぉ……!」


 ボクの言葉に血が昇ったのか胸ぐらに掴みかかって、その暑苦しい顔を近づけてきたス。

 もう青筋が浮かんでるんじゃないかっていうほどスね。


「わかってんのか……!? こいつらはな、俺達の村だけじゃねぇ、首都だったフィシュロンドもそうだ。皆奪われた! 女は犯し潰された!」

「それはこいつらじゃないスよ。ティファリス様が連れてきたオークたちはみんなフィシュロンドやボロボロになった村で飼い殺しにされてたオーク族スよ。こいつらも被害者ス」

「それで……それで納得しろっていうのか!? それで死んだ奴らが、心の傷を負った奴らが、許すと思ってるのか!」

「そんなのボクは知らないスよ。それはあんたも同じス。ボクらはそういう目にあった本人じゃないスから」


 死んだ人達のこと、心に深い傷を負ったという人のこと……そういうのを想うのは大切なことス。

 それで死を悼みながらも心の整理がつけられないのは仕方ないことス。だって、そう簡単に割り切れるもんじゃないスし。

 でもこいつらがやってるのはそれ以下。ただ冷めない怒りに任せてひたすら八つ当たりしてるだけス。


「ふざけるなよ……何もわかってないやつが……!」

「わかんないスよ。ここにいるオークたちはみんなボクらの仲間ス。それは変わらない事実スよ」

「はんっ、何が仲間だよ。俺達はこいつらを仲間だと絶対認めねぇ!」

「だからー……だったら出ていけばいいスよ。何度も言うスけど、ここにいるオークを含めたみんなを仲間と思えない奴はここには必要ないス」

「そんなの、お前が決めることじゃないだろうが!」

「そうスね。ボクは別にここの魔王ってわけでもないスし。でも、兵士ってのは国に仕えるものスよ? 魔王に仕える者ス。この国の魔王であるティファリス様の考えに賛同出来ないならそう言われても仕方ないスよ」

「こいつ……ぺらぺらと……」


 憎々しげにボクを見てるのは結構スけど、いい加減鬱陶(うっとう)しいス。休憩時間には限りがあるスし、このままじゃロクに休めないで終わってしまうス。

 全く、ウルフェンさんもこういうところは気が利かないというか、見てないというか……。

 リカルデさんの言うことを忠実に守るのはいいスけど、それだけで精一杯なんスから困るス。

 ま、だからボクみたいなのがこうやって手助けするんスけど。


「別に今すぐ考えを改めろ、なんて思ってないス。あんたらの感情はあんたらのものスし、ボクがとやかく言うのは間違ってるス。だけど兵士として、この国に……ティファリス様に仕える気があるんだったらせめて表面上だけでも無干渉でいてくれないスかね?」

「そんなもんが……」

「出来ないならボクらは……いや、ボクらだけじゃないス。この国の兵士達は誰もあんたらに背中を預けようとはしないスし、上官もあんたらのことを信用することはないスよ。感情もロクに制御できない兵士なんて、いざとなったら何しでかすかわかったもんじゃないスからね」

「……ちっ」


 お互い、これ以上言っても仕方ない。そう結論付けてくれたのか、苦々しい感情をあらわにしてそのままどこかに行ってしまったス。

 残されたのはボクとオークたちだけ。


「あ、あの……」

「なんスか?」

「ありがとうございます。あんたがいなかったら、オラたち……」

「別にオークもなにも関係ないス。ボクはただ、ティファリス様のやってることを支えていければって思ってるだけスから」


 国境平原でのあの超広範囲とも言える魔法で敵を殲滅したティファリス様。その力は決してボクらに奮われることはないス。

 ティファリス様はその力で外敵を守ってくれる……それなら内敵から国民を守るのは、国に身を捧げようと決めたボクらの仕事ス。


「君らも自分のことはもっとしっかり守るス。そうやって守ってもらうような立場に甘んじるなら、兵士なんて辞めた方がいいスよ。あまり酷い確執を生まないようにわざわざオークだけの村を作ってるんスから、そこで静かに暮せばいいんスよ」

「で、でもオラたち、ティファリス様がオーク族の為に色々やってくれて……それでオラたち、少しでも役に立とうと思って……」


 オークたちはうんうん頷いているス。そういう意気込みだけはいいんスけど、肝心なものが全くついてきてないス。


「だったらそんないじめられて当たり前みたいな顔スんなス。ボクらはリーティアスを守る為にこの道を選んだスから」

「あ、う、うん……そう、だね……」


 そんな落ち込むような顔してたらまるでボクがいじめたみたいじゃないスか。

 全く、いい迷惑ス。


「覚えておくスよ。ティファリス様のお役に立ちたいならそういうこと考えたらダメス。ボクらは守られる側じゃいけないんスから」

「…………」

「まあでも……」


 そのまま立ち去ろうと思ったんスけど、一つだけ言っておかなきゃならないことを思い出したス。


「なんかあったらボクを頼ってくれていいスよ。国を守るのが兵士の仕事スから……後輩を守るのもボクらの仕事スよ」


 それだけ言い残して、ボクはもう返事を聞かないでゴウェイン達のところに戻ると、にやにやとこっちを見てきてちょっと鬱陶しいス。


「『国を守るのが兵士の仕事スから……』ですか」

「『後輩を守るのもボクらの仕事スよ』だよねー」

「……! うるさいスよ! ほら、もうすぐ休憩も終わりスから、訓練戻るスよ!」

「「あっははははは!」」


 ああもう、こんなに茶化されるなら言わなかったら良かったス。

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