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聖黒の魔王  作者: 灰色キャット
第3章・面倒事と鬼からの招待状
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63・魔王様、決闘を申し込まれる

 集まったドワーフたちの前でディアレイの大剣をアイテム袋から取り出すと一気に目の色が変わった。

 匠の目、とでも言えばいいのだろうか? まるで戦いに赴く戦士のような雰囲気も纏っていて、すごく気合が入っているのが解る。


「おい、あれ……」

「ああ、あの大剣は間違いなく……」


 同胞同士でささやきあうのはいいけど、こっちからしたらあまりいい気分はしない。

 熱心なのは称賛するけど、私の方まで上から下へとじっくりと見るのは止めて欲しいものだ。だけど変に止めるわけにもいかず、私と大剣を交互に見る失礼な視線に耐えながらじっとしていると、見かねたリカルデが声を上げてくれた。


「他国の魔王にそのような視線を向けるのは、少々失礼ではありませんか?

 言いたいことが有るのでしたら、はっきりと言えばいいでしょう」


 そう言われて途端にバツが悪そうに黙り込んだドワーフ達。リカルデによくやったと思わず視線を投げつつつ、感謝する。

 そこからしばらく沈黙を続けたかと思うと、おずおずと片手を小さく上げて発言してきた。


「いや、済まなかった。ワシらもこれほどの大剣を見たのは久しぶりでな。それを魔王とは言えあんたのような嬢ちゃんが……あ、いやすまん」

「いいわよ。それで?」

「ついつい信じられんで何度も見比べてしまったわい。ちょっと手にとってじっくり見ても構わないか?」

「……ええ、どうぞ」


 私の許可を得たと同時に興奮したような様子で代わる代わる手にとって眺めたり、手で叩いてみたりと、素晴らしいおもちゃを見つけた子どものように目を輝かせている。

 ちょっとガンフェット王の方を見てみると、どっしりと構えているのは変わらないけど、興味がそそられるのであろう、手とか足とかがウズウズしてる。

 なんというか、彼もこういう物に目がないと言った点では、そこで熱心に見定めてるドワーフたちと同じように見えて面白い。


 そう言えばセツオウカの魔王も武器コレクターと呼ばれているほど魔剣名剣の類が好きだと聞いたけど……こんな感じなんだろうか? とふと思ってしまった。


「それでどうだ? ワシが見る限り、本物のように見えるが」

「そうですな。この形、魔力を通しながらとそうでないときとで伝わる感触の有無……これは魔剣『グランブレイカー』に間違いないですな」

「ふむ、やはりそうですか」


 ガンフェットとドワーフたちのやり取りをどこか嬉しそうにリカルデが聞いてるみたいだけど、武器名だけ言われてもこっちはよくわからない。ここに来てそんなものに出会った試しがなかったしね。

 あまり理解してないような顔をしていると、リカルデが自信を持って待ってましたと言わんばかりに説明しだす。


「魔剣『グランブレイカー』とは壊れない、傷つかないという武器を作ろうという目的で制作された大剣です。数種類の強化系の魔法を組み込んでいまして、魔力を込めながら使えば例え大地が切り裂かれるほどの一撃を受けても砕けないと言われている魔剣ですね」

「……それってどうなの?」

「正直魔力を込めなければ純度の高いミスリルを使ったとても硬い大剣でしかありませんし、壊れなくなる以上の効果はないですからね。魔剣として考えれば使い勝手は些か悪いでしょう」


 要は硬いだけの大剣ってわけか。私の剣を受け止めたのは魔力を込めてたからってことか。

 壊れないという一点だけは剣として有能なんだろうけど、魔剣としてはどうなんだろうか? まあだから渡り合えたという面もあるわけか。


「さすがリカルデ。詳しいわね」

「もちろんでございます。セツオウカにはそういう資料も多くありましたので」

「ほう、さすが鬼の執事。魔剣好きのセツキ王が支配している国の住民というだけあるな」


 主の期待に応えることが出来た、とどこか誇らしげな様子のリカルデに感心するような声をガンフェットが上げてるけど、残念ながらリカルデはリーティアス出身の鬼だ。

 ああ、でもそれを言うとまた根掘り葉掘り聞いてきそうだから秘密にしておこう。


「これで私がディアレイを倒したということが証明できたんじゃない?」

「うむ、にわかには信じがたいが……何よりこの大剣が証明になるということか」

「なら、宣戦布告は取り下げてもらえる? グロアス王国はすでにリーティアスに取り込まれてるんだし、意味がないでしょう?」

「……」


 あごひげをさすりながらなにやら考え込むように目を閉じていたけど、軽くうなずいて再び私をまっすぐ見据えてくる。

 この様子を見る限り……無理そうなのは明らか、か。


「話はわかった。だが、このまま簡単に引き下がることは出来ん」

「それは感情の整理がつかない……そういうこと?」

「そうだな。こちらもあの男には随分と辛酸を舐めさせられてきた。それをいきなり名も知らぬ魔王が討ち倒したから矛を収めろなどと……簡単に出来るものではない」

「私もそこのところは一応聞いてるわ。だけどそれじゃあどうするの? 貴方も私と全面戦争する?」


 一瞬ガンフェットの顔が渋くなったのを見逃さなかった。

 納得はできないけどディアレイを倒した相手とドロドロの殺し合いはしたくない……そんな感じが伝わってくる。


「ワシとしても無理はしたくない。というわけで、決闘で決着をつけたいと考えている」

「出来るだけ被害を出さずに……自分も納得するために?」

「……否定はせん。勝負方法はワシとティファリス嬢の一騎打ち。敗者は勝者の下につくということでどうだ?」

「いいわ。勝利条件は相手を参ったと言わせるか、戦闘不能に追い込むかで問題ない?」

「それでいいだろう。書類の作成には数日かかる。それまではこの国でのんびりしているがいい」


 結局またしばらくは足止めってことか。納得してなかった時点である程度予想はしていたけど、私としてはさっさと終わらせて帰りたいんだけど。


「そうさせてもらうわ」

「……せっかくだ。わざわざ南西からここまで来たんだのだから、この国を見て回るといい。他の種族の国に比べて、ドワーフ族はまた一風変わったところも多い。酒も美味いしな!」

「お酒、楽しみ」


 がっはっはと笑うガンフェットの酒発言にわくわくしたような雰囲気のフラフ。


「楽しみなのは良いけど、明日ね。今日はまだ来たばっかりなんだから」

「はは、すぐに部屋を案内してやろう。まずは旅の疲れを癒やすと良い」


 これでひとしきり話したいことは終わった。戦争にまで発展しなかったのはよかったけど、結局ジークロンドの時以来の決闘を行うことになるとはね……。向こうも色々準備をするつもりなのか、その後すぐにガンフェットの呼んだドワーフに案内されて部屋の方に向かうことになった。






 ――






「お嬢様、よく耐えましたね」

「? なんのこと?」

「若干疲れたような顔をしておりましたので」


 部屋に入ってドワーフがいなくなった直後、リカルデは私を心配するように気にかけてくれた。


「ちょっとね。フェアシュリーに行ってすぐ帰るぐらいの気持ちでリーティアスを出たのに、随分遠くまで来ちゃったなと思ってね」

「そうですね。こんなにリーティアスを離れたこともありませんでしたし、環境が変わったことによってお嬢様の負担の大きさも想像に難くないでしょう」

「ティファリスさま、帰りたい?」


 私とリカルデの会話に割り込むように心配そうな表情でフラフが見つめてくる。

 そんなことはないと言わんばかりにフラフの頭を撫であげると、気持ちよさそうに目を細めている。


「帰りたくないと言えば嘘になるけど……今私が頑張らないといけないときだからね。それに、心配してくれる人がいるんだもの。辛そうな顔はできないわ」

「さすがお嬢様です。今は目の前のことに集中し、数日後の決闘のために英気を養いましょう」

「……そうね。セルデルセルに着いたばかりのころはどうもそんな気分にはなれなかったけれど、今回は外に出て気分を変えましょうか。何もせずに城に入り浸るのも、観光を勧めてくれたガンフェット王に悪いしね」

「そのとおりです。気分転換も時には必要でしょう。

 特に前回はあまり楽しむことも出来なかった御様子でしたし、その後は戦争に戦後処理にと大忙し。セルデルセルでは城で他の国にディアレイ王を討伐したことを知らしめるための準備と休む暇があまりありませんでしたからね。ここで休息をとっていただくのが良いかと思います」

「ティファリスさま、一緒にお酒、飲もう?」


 二人共結構気遣ってくれてるし、せっかく行くんだったら楽しんで行きたいものだ。

 というかさり気なくお酒アピールをしないで欲しい。私はどうせ飲んでも酔うことはないんだから。


「それじゃ、フラフは私と来なさい。リカルデも私のことばかり考えてないで明日明後日は身体と心を休めなさい。貴方もクルルシェンドとの戦いの時は随分と苦労をかけたし」

「いいえ、お嬢様のためとあればあのようなこと、苦労の内に入りません」

「いいから、貴方も休みなさい」

「……わかりました。ありがたくちょうだいいたします」


 譲らない私を見て、若干ため息を突きながらだけどリカルデは受け入れてくれる。

 アシュルといいリカルデといい、私の事を大切にしてくれるのはいいけど、もうちょっと自分のことも考えて欲しいものだ。


 この数日間は私だけじゃない。今まで働いてくれたリカルデの方にも十分な休息が取れるようにも働きかけるべきだろう。

『リ・バース』で基本的に全回復出来る私と違い、リカルデとフラフは疲れが溜まれば動きが鈍くなる。魔導をかけようとしても拒まれることが見えてるし、疲労感を漂わせていた者が次の日には元気になってることに違和感を覚えるものいるだろう。他のものに見つかるリスクの事も考えれば、一人の時以外おいそれと使うべきではないからね。


「よし、そうと決まったら今日は城の食事を楽しんで、明日からはスレードフォムを楽しみましょう」

「はい」

「おー!」


 こうして私達は明日明後日と思うように行動することになった。

 まあ、フラフは私とくるみたいだし、実質リカルデとだけ別れた形になったんだけどね。

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