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聖黒の魔王  作者: 灰色キャット
第3章・面倒事と鬼からの招待状
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62・魔王様、ドワーフの国に向かう

「これ以上なにもないわよね? 恨みを買ってるとか」

「フッフッフ、むしろ買ってないほうが不思議でしょう? 周囲の魔王たちにディアレイ王の死が広がるまでは安心できないですね」


 なんでそんな不穏なことを意味ありげに笑いながら呟くのだろうか? 聞いた私がバカみたいだ。


「はぁ……わかった。数日後にドワーフ族の国に行くから、今すぐ使者を出してちょうだい。それから、ディアレイが私に討たれたっていう噂を流して、統治者が変わったことをアピールして欲しい。事の顛末が真実だとわかれば、ディアレイに挑む者も減るでしょう」

「しかしそれではつけ入る隙があると勘違いした輩が押し寄せてくる場合も考えられますが?」

「そういうときは私が真正面から叩き潰せばいい。手が回らなさそうなところは事前に防備を固めて、守ることにのみ特化すれば大丈夫だと思うわ。最悪、私が来るまで持てばいいし」


 これ以上後からバカな真似をする輩が増えないよう、行動するならさっさと起こしてもらって、私がちゃっちゃと解決する。

 そういう風にしないと終わらない気がしてならない。


「ですがそれでは上位魔王を呼び寄せかねないのではないですか?」

「そんな事はないと思うけど……所詮上位魔王に一番近いだけなんでしょう?」


 リカルデに問われた事は一瞬私も考えた。だけどディアレイが上位魔王だったとすれば可能性があるだろう。

 恩義を受けてる者がいたり、警戒心が強い者だったなら報復にとか、様子を見にとか考えられたかも知れない。

 だけど、ディアレイがあんな性格をしてる以上、そういうことはまず無いと見ていいだろう。


「ディアレイを倒したということは、我が君こそが次代の上位魔王に一番近いということになります。興味の対象にはなるとは思われます。

 ……が、それでも直接来ることは絶対ないとだけ言っておきましょう」


 ロマンが何故かやたらと確信しているみたいな言葉を口にしてるけど、なにか理由があるんだろうか?


「そこまで言うからには理由があるんでしょう?」

「……はい。ですがそれ以上申し上げることはできません。我が君が上位魔王と会われた時、わかると思いますよ」


 どうやら何を言っても答えるつもりはなさそうだ。

 話したくないから……っていうより話せない事情があるみたいだし、いずれ知ることが出来るのであれば無理に聞くのは悪いか。

 それよりもいつの間にか呼び方が我が君に変わってるんだけど……まあいいか。


「わかった、それ以上は聞かないわ。今は一つ一つ処理していきましょう」

「ありがとうございます」


 お辞儀をするように仰々しく頭を下げるロマンの姿は多少芝居がかってるように見える。

 それからはドワーフ族の国リンデルの首都の位置やその国の特色なんかを聞いたり、兵士たちへの挨拶とかディア礼を討伐したことに対する噂を広めるための手配とかしていたらすぐに数日が経ってしまっていた。

 セルデルセルを見て回りたい気持ちも多少はあったんだけど、そんな時間はあっという間に潰れてしまった。

 ……今はあまり見て回る気分じゃなかったし、しょうがないと割り切っておこうか。どうせまだ予定が詰まってるし、さっさとリンデルに向かうとしようか。





 ――






 ――ドワーフ族の国・リンデル 首都スレードフォム


 リンデルの首都スレードフォムは鉱山の多い都市らしく、その分職人の集まる都市なのだとか。

 武器や防具、生活に必要な物に至るまで幅広く造られており、たまにコンテストも開かれているという。


 他にも酒造りも非常に盛んで、酒場は家の数より多いとかドワーフの酒は火をつけると燃えるとか嘘なのか本当なのかよくわからない話が作られるほどの酒好きの多い都市で有名らしい。


 それよりも驚いたのは男女の身長差だ。

 ドワーフの女はロマンの言う通り私と同じぐらい……というより大概が私より少し低いぐらいだろうか。

 たまに私よりほんの少しだけ高い子もいるけど、それだけだ。

 魔人族にも私と同じぐらいの身長でも大人として生活している者もいるんだけど、ドワーフみたいに見渡すかぎり同じっていうのはまずない。

 胸の方はさすがに私と同じってわけじゃなさそうだ。大きかったり小さかったりと様々。後は怪力なのか、重そうな金属やら槌と呼べるほどのハンマーやらを背負ってたりしてるのがとても印象的だ。


 対する男のドワーフは巨躯と言っても言い過ぎじゃない。私の倍ぐらい……恐らくディアレイと同じくらいだろう。

 そしてその大きさと同じくらいのガッシリとした身体付き。しかも太ってるとかそういうのじゃなくて筋肉の鎧を武装しているように見える。


 なんというか、武装集団の中に少女たちが混じってる風景にしか見えない上に、仲良く手を繋いで歩いてる姿は違和感しか見当たらない。


「これは、ものすごい光景としか言いようがないわね」

「まるで、女の子連れ去ろうとしてる、おじさんの図」

「そう言われるとドワーフの男たちが本当に危ない集団にしか見えないから止めて」

「少なくても、他の国だと、異常」


 フラフの言うことはわかる。こんな両極端とも呼べるほどの差が男女にあるのはきっとドワーフ族だけだろう。

 この光景はドワーフ族ならでは、だろう。他の国ではドワーフ族の恋人はいるにしてもここまで身長差のあるカップルとか夫婦ばかりはない。他種族からみたらなんというか……上手いこと言いくるめて少女を連れ回してるガタイのいいおじさんたちにしか見えない。

 これでドワーフの女の人が嫌がってたらそれこそ危険な構図だろう。


「なんでこうも身長が違うのかしら?」

「謎ですね。……ドワーフ族という種族の神秘と言うべきでしょうか」

「身長差が神秘って……」


 使者を送って数日後、私達もなるべく目立たない鳥車を使ってラントルオでこのリンデルの首都スレードフォムにやってきたんだけど、他の種族とはまた一風変わったドワーフ族の姿に視線が釘付けになっていた。


「あんなに大きい、ということは、下も相当……」

「止めて」


 その話になってしまったら余計にいかがわしく見えるから本当に止めて欲しい。

 ああ、ほら、なんだかドワーフの男どもが怪しい集団にしか見えなくなってきた。


「……さっさと行きましょう。これ以上はいけない」


 一刻も早くここから離れなければならない。このままでは街で歩いてるドワーフの男がロマンと同類にしか見えなくなるだろう。

 そうなる前にさっさと城に入ったほうがまだマシというものだろう。






 ――






 ドワーフの城はいかにも武装してるように見えて、要塞のような城に見える。

 所々砲門がついていて、相当物々しい。

 兵士たちもただでさえあの巨躯なのに、鎧を着込んでいて巨人具合が更に引き立っている。


「待たれい!」

「待たれん」


 城門前の鎧兵器みたいなドワーフが大声を上げて私達を止めてきたんだけど、なぜかフラフが聞こえるように拒否の声を上げた。

 その声にドワーフが青筋を立てそうになってるからちょっと静かにして欲しい。


「……今のは忘れてちょうだい。私は前に使いの者をだしたリーティアスの魔王ティファリスよ」

「ふむ、少し待っててくれ」

「い――」

「わかったわ」


 またなにかいいそうになったフラフを遮って、さっさと確認に行ってもらう。


「むー」

「一応はじめての相手なんだから、自重してちょうだい」

「はーい」


 フラフがどこか気のない返事をしてる間に確認が取れたのか、ドワーフの兵士は門を開けて敬礼するようにい直立する。


「おまたせしました。どうぞ」

「ご苦労さま」


 しっかし、私が魔王だと言ったときのあの信じられないと言わんばかりの目、ちょっと失礼だな。

 ま、門番ってのは怪しい者を通さないのが仕事だろうから仕方ないか。


 適当な場所で鳥車から降りた私達は、一直線にドワーフの魔王のところに向かう。

 まっすぐ入ってそのまま進めば謁見の間らしいからこういう時は簡単でいいな。


 大きな扉を抜けて部屋に入ると、ドワーフ族サイズの大きい玉座に腰を落ち着けている男の姿が目に入った。

 他のドワーフより一回り大きいその姿は、他者を圧倒するような印象を抱かせる。ディアレイの時と似たような感じだ。


「おお、リンデルによくぞ来た。南西の魔王よ。ワシの名はガンフェットだ」

「お初にお目にかかりますわガンフェット王。私はティファリス。ご存知の通り南西にある国、リーティアスからこちらにやってきたものです」

「そういう堅苦しい話し方はいい。互いに疲れるだけだろう」


 片手を上げて「普通で構わない」というような態度を表したらかと思うと、早速本題に入ってきた。


「さて一応問うが、ティファリス嬢が現在グロアス王国の領土を管理している……間違いないか?」

「嬢ってなんだかむず痒いわね」

「はっはっは、その様子、まだうら若き少女だろう? ならば女王というよりそう呼んだほうが愛らしいではないか。不服か?」

「いいえ、初めて呼ばれたから気になっただけよ」

「そうか。ならば話を戻してもらおうか」


 豪快に笑ってるように見えるが、その目の奥はまるで笑っていない。あれは真偽を確かめるような目だ。


「本当よ。クルルシェンドと一緒になって私に宣戦布告をしてきた。そして私はディアレイと相対してこれを討ち倒した」

「……にわかには信じられんな。ワシもディアレイとは相まみえたことがあるが、あれは地方にいる未覚醒の魔王が倒せるほどの者ではない。セントラルの魔王ですらあの男と戦うのには抵抗を抱く者もいるだろう。ワシとて勝ちに行くのは難しい。

 それを国の名もろくに伝わってこない辺境の魔王が打倒したと言われて素直に信じることが出来るはずがなかろう」


 ガンフェットの言うこともわかる。私だって同じ立場であったなら証拠の品がなかったら信用することはないだろう。

 やっぱりあの剣を持ってきて正解だった。私の『フィリンベーニス』でもほとんど傷がつかなかったほどの大剣。少なくとも普通に出回ってるものではないだろう。


「それじゃ、証があれば認めてもらえるってことでいいわね? ディアレイの武器とか」

「ほう? 確かディアレイ自身の身の丈ほどある大剣だったな。それが本物であれば確かに証明になるだろう。しかしワシらドワーフは武器やそれに使用されている金属について詳しい者も多い。下手な大剣を出しても無駄だと思えよ?」

「わかってるわよ」

「ははっ、いいだろう。試してみろ。

 おい! 他の連中も呼んでこい!」


 ニヤリと挑戦を受けた男のような笑いをしたかと思うと、大声を上げて複数のドワーフを招集した。

 私の方にそのまま目を向けるその姿はまるで「嘘だと言うなら今のうちだぞ?」と言ってるみたいだ。

 いいだろう。本当にディアレイから手に入れた戦利品なわけだし、何も臆することはない。

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