58・全ての者を黒く癒し包む、闇の聖剣
「どうした? これで終わりか? 流石の女王さまもシュウラには勝てないみたいだな!」
「偉そうにしてるのはいいけど、自分で言ってて情けなくない?」
「はん、確かに情けねぇさ。でもな、そんなもん大事にしてるくらいなら命の方を取るさ! そんなつまんねぇもんで死んじまったらバカだからな!」
思いっきり言い放つディアレイには同意しざるを得ない。
でも、私だったらこんなアンデッドと一緒にだなんてまっぴらごめんだ。
生き残ることは確かに大事だ。だけど、そんな死人と共に勝ち得た生存なんて微塵も意味を持たない。
所詮過去の英雄に、昔の亡霊に助けてもらった……情けない生者の姿に価値はない。
「命の方を取るっていうのだけは賛同してあげる。でもね、その無様な在り方は許容出来ない」
「ふん、なんとでも言えよ。お前に勝てば、それが正義なんだよ」
「勝てれば、ね!」
シュウラに気を配りながら『ガイストート』をディアレイにぶつけようとしてみたけど、やっぱり避けることに専念されてしまう。
最初に放ったときよりも数を多くしてみたんだけど、単体じゃ簡単に見切られてしまうようだ。
「ちっ、俺を放そうって魂胆かよ!」
「悪いけど、貴方を相手にしてる場合じゃないからね」
「そういうことならよぉ……野郎共! ここは俺とシュウラに任せろ! お前らは逃げていった奴らを追え!
奴らならこいつ程じゃあねぇ!」
ディアレイの言葉に兵士たちは気後れしているようだったが、少しずつ鎮獣の森に向かい始めた。
おまけに私の視線に外れるようにクルルシェンドの兵士たちもついて行ってるようだ。
私が相手でなければなんとかなる。こんな恐ろしいものがいるところには居たくない。そんな願望が見え透いた行動だったけど、これは不味い。
あそこに向かわれたらシュウラとディアレイの二人と相対している以上、対処のしようがない。しかも広範囲魔導の『フラムブランシュ』は鎮獣の森を吹き飛ばしかねない。一時どうしようかと迷った私の取った選択は――
「……! 『メルトスノウ』!」
他者の魔力を糧にして燃え上がる白い雪が辺り一面に降り積もり始める。
魔法を扱わない兵士たちはその雪に触れた瞬間燃え上がるが、すぐに魔法を防ぐ障壁を頭上に展開されてしまい、魔法士の周囲はすぐさま『メルトスノウ』の雪が無効化されてしまう。
「こいつ……まだそんな隠し玉を!」
嫌な予感がしていたのか、ディアレイも同じように魔法障壁で防いでいたけど、『ヴァイシュニル』による魔力吸収と『フィリンベーニス』による血肉の魔力変換のせいでいつまで保つのやら……と言った感じか。
「グ、グウウウウウアアアアアアアアアア!!!」
シュウラの方は魔道具で操られているらしいから効果があるかもとも思ったんだけど……どうやら薄い魔力の膜みたいなのを纏っていて、それで『メルトスノウ』を防いでるみたいだ。
『メルトスノウ』の発動が身体に触れるのが最低条件である以上、こうなったらシュウラの方には効果が無いと言ってもいいだろう。
おまけにそれを見たディアレイがすぐさま真似して魔力の消費を抑えるようにしてきた。だがその隙ができれば十分だ。
「『フィリンベーニス』。闇は全てを包み込む」
彼らが『メルトスノウ』の対策をしている間に、『フィリンベーニス』のもう一つの力を解放する。
その瞬間白い剣身が真逆の黒の剣身に変化する。
準備が完了し、『ガイストート』『フィロビエント』の二つをディアレイに向かって発動すると同時にシュウラに向かって姿勢を低く落とし、突撃をかけた。
「こ、この……!」
「グルアアアアアアアア!!」
なんの変哲もない上段、振り下ろしの速攻の一撃。単調な攻撃だけど、シュウラの放つそれは恐ろしく鋭く見える。
一刀両断される瞬間、右側にサイドステップをとって回避する。
そのまま右足を軸にして、思いっきり力を込めて再度シュウラに向けて突撃を敢行。完全に不意をついた形になったのか、未だ攻撃した状態から抜け出していない。
「これなら、どう!?」
若干不安定な体勢ながら横一閃を放つ。が、私の剣にタイミングを合わせるかのように倒れ込みながら蹴りを繰り出し、斬撃を避けた上で手首を蹴り上げて武器を弾き飛ばしてきた。
「『人造命剣「フィリンベーニス」』!」
無防備になった私は距離を取って『フィリンベーニス』を再召喚するが、その間にもシュウラが迫ってくる。
「本当に厄介ね。動きが速い……!」
「俺を忘れるなぁ!」
魔導を避けきったディアレイも同時に突撃してきたもんだから本当に忙しい。
正攻法が難しいなら………こっちだ!
「『チェーンバインド』!」
イメージ的には周囲の地面から鎖が現れる感じ。捕らえる、というよりも視線を遮る感じだ。
そしてそのまま次の魔導のイメージに入る。
――影に縛られる自身の足。自らに深く食い込む影の杭。
「『シャドーステイク』!」
これは私が対象だと認識した相手の影から杭の尖った部分が飛び出し、相手を縫い付ける魔導だ。
あくまで相手自身の影だからか、攻撃という側面は全く無い。足に杭が刺さってる間だけ動けなくなる程度だし、『シャドーステイク』の効果が切れたら何の問題もなく行動できる。
だけど一時的とは言え隙が出来るのは非常に大きい。
「な、んだとおお!?」
「…………ッ!」
案の定引っかかったディアレイとシュウラは動きを止め、大きく体勢を崩す。
先ほどと同じようにその隙を狙って『フィロビエント』をシュウラに向けて放ちつつ、二度目の突撃を敢行する。
見えない風の刃をほとんど感といったレベルで防いだり避けたりしてるシュウラだったけど、片足が『シャドーステイク』で拘束されている為、思うように動けずにいるみたいだ。
そこに私が仕掛けた右上からの斬撃。なんとか合わせようとしていたようだけど、流石に二度目はなかった。
私の一撃は完璧にシュウラを捉え、その死に満ちた身体を切り裂いた。普通の斬撃であればこれで安心することは出来ない。そう、普通であれば。
「……!? お、おい…どういうことだよこりゃあ」
ディアレイが驚くのも無理はないだろう。
シュウラは黒の『フィリンベーニス』が当たった瞬間、黒い繭のような物に包まれたのだから。
この繭は包んだ相手を癒す効果がある。その力は『リ・バース』と同等以上だ。そして死者に当たった場合、あるべき姿――動くことのない状態に戻る。
死者を操る魔法は消え、アンデッドだったものはただの死体に。そして……その体内に残った私の魔力が他の力を阻害するように働き、目覚めることもない。
「今度こそ安らかに眠りなさい。鬼の魔王」
繭の中から現れたシュウラは血色こそは戻ってないが、完全にその目を閉じたまま動くことはなくなった。
これでもう、彼を縛るものはなくなったのだ。
「シュウラ……!? ちっ、まさかそんな奥の手を隠し持っていたとはよぉ」
「……あの死体を操る魔法、一度切れたら使うのにまた魔力がいるんでしょう? しかも死体とはいえ、あれだけの猛者を生前の能力に近い状態で扱うには、アロマンズ程度では力不足。大方別の誰かが事前に用意した魔道具で起動しただけにすぎない……違う?」
「はっ! どうだかなぁ!」
『シャドーステイク』の効果時間が切れた瞬間、これが私への解答だと言わんばかりに大きく剣を振り下ろす。だけどそんな大振りがそう何度も通じるとは思わないことだ。
私は『フィリンベーニス』を黒から白へと変化させ、紙一重でそれを避けながらディアレイの顔めがけて一閃をお見舞いする。
「グウウウゥゥゥゥ……!」
顔を反らして回避すること事態は成功したようだが、剣先が目のところを斬りつけ、大きな切り傷をつける。
光の粒がまるで血を噴き出すかのように溢れ、ディアレイの視界を遮っている間に彼の懐に飛び込み、胸よりも防御の薄い腹部に剣を突き刺す。
「ガ……アアアアアアアアアア……こん、のおおおお!!」
私に向かって左の拳を振り下ろそうとしている間に引き斬るように剣を引き抜き、流れるように痛みで若干緩慢になっているディアレイの拳に合わせるように剣を振り下ろす。
剣は拳で防がれたような形で止まり、私はそのまま剣を捨ててディアレイの攻撃範囲から離脱する。
「く、くう……」
何も持たずにディアレイと向かい合うけど、その姿はもはや立っているのが不思議なくらいボロボロだ。
最初の攻防で軽度とは言えかなり多くの切り傷をつけられ、今では片目が見えないほどの傷……腹部には無視できないほどの重傷。左手は半ば私の剣が食い込み、無残な姿だ。
全身から光の粒が舞い散り、私に流れ込んでくるその様はまるで……生命の全てを奪われてるようにも見える。
「……そこまで酷い状態になってもまだやろうって言うの? もうまともに戦えないでしょう?」
「な、舐めるなよ……まだ、終わっちゃいねぇ……!」
強がりか、それとも意地か……不敵な笑顔を浮かべたまま私を見据えるディアレイに、三度目の『人造命剣』の魔導で『フィリンベーニス』を呼び出し、最後の一撃を放つ為に走り出した。
「は……ははは………あーっはははははは!!!」
どこにそんな力があるのかはわからないが、大剣で突きを繰り出すような構えを取り、真っ向から相対する。
「哀れな男。せめてその生き様、私の全霊を持って受け止めよう」
繰り出された突きは今までの中で一番速く感じた。全身全霊――文字通り生命の一雫まで燃やしきって放つ一閃。美しくも儚く消えそうな魂の叫び。
そのきらめきに対し、私も同じく刺突の構え。片手は添えるように……解き放つのは軽くも最速の一撃。
お互いの剣が交差し――――
「グ……ガ…ハ、ァ」
「……ッ。さようなら、私に傷をつけたことを誇りに思って逝きなさい。セントラルの魔王よ」
「く、っはは……じゃあな。辺境の、女王、さ…ま……」
ディアレイの刃は届いた。私の左肩を捉えていたのだ。それは鎧に弾かれ、私に衝撃を与える程度のものであったけど、確かに届いた。
一方私の方はディアレイの鎧をまるでなかったかのように貫き、心臓に直接刺さり確実に致命傷を与える。
皮肉げに笑いながら別れの言葉をつぶやくディアレイは、突きを繰り出した姿勢のまま絶命する。
握られていた大剣はそのまま地面に落ち、カランカランと音を立ててそのまま静寂の世界が訪れた。
あとに残ったのは一面に降る死を内包した雪。そこに横たわり立ち尽くす者達……魔力を失い、種火にもならず残る、私と死闘を繰り広げた者達の亡骸だった。
閲覧ありがとうございます。
ようやく装備の全容が出せて一息つきました。




