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聖黒の魔王  作者: 灰色キャット
第2章・妖精と獣の国、渦巻く欲望
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間話・小手先の謀略、動き出す者たち

 ――貿易都市トーレス・アロマンズ視点――


 このトーレスで話し合い開くんも何度目になるか……。

 始めは前魔王クスウィンが崩御したのがきっかけやと思う。


 あん時はフォイルとぼく、どっちがクルルシェンドの魔王なるか揉めてた時やった。

 ぼくはフォイルと違って才能ないし、戦うことも出来んかった。あるんは小賢しいこの頭だけ。

 ぼくは最初から期待もされへんやったし、惨めやったなぁ……。


 どうせ次期魔王なるんはフォイルって決まってたし、ぼくは隅っこに追いやられるんが宿命や思うてた。

 そんな風にくさくさしとる日々を過ごしてた時、見知らぬ魔人族の男がやってきよった。

 見た感じ金色の髪に青色の目……セントラルの方でよく見かけるタイプのヤツやったかな。






 ――






「はじめまして、魔王候補のアロマンズ様でよろしいですか?」

「はん! なにそれ嫌味か? ぼくが城内でなんて言われとるんか知ってて言ってるんやろ?」

「ええ、もうフォイル様にほとんど決まってるそうで『フォイル様が死んだときの保険』扱いされてらっしゃるのでしょう?」

「知っててわざわざいいに来るとか、喧嘩売っとんのか! 言い値で買おか!?」

「まあまあ落ち着いてください」


 ぼくが肩を怒らせて男を似た見上げると、怖い怖いと肩を震わせる仕草をするのがまたムカつく。

 これ以上言うたら問答無用で追い出したる思うとったんやけど、そんな感情も吹き飛ぶくらい次の男のセリフに驚いた。


「いいですか? よく聞いてください。もし貴方が望むのでしたら……私が魔王にして差し上げましょうか?」

「はあ? 妄言も大概に――」

「貴方様ほどの人物でございましたら、私がセントラル側の魔人族だということはおわかりでしょう? それでしたら、私が仕えてる主がどういう方か……ある程度は予想つくのではないですか?」

「……お前が本当に中央の魔王に仕えてるんならな」


 意味ありげに微笑む男に若干イライラしながらやけど、こいつの話が本当やったらってことをちょっと考えてみる。


 セントラルのやつらはぼくらのこと見下してるヤツが多い。

 あいつらの大体がぼくらより力を持っとったり、覚醒魔王として能力が高かったり秀でていたりするからな。


 ぼくら南西地域の魔王がカーストで言うところの最底辺で、セントラルの奴らは上から数えたほうが早いくらいや。

 そらエリート意識くらい芽生えてぼくらをバカにするんもわかる。納得しとるわけやないけどな。


 そんなやつらの手下がぼくを魔王にしてくれる言うんやったら……確かにまだぼくにも可能性はあるやろう。

 南西地域のヤツよりも圧倒的に強いわけやし、後ろ盾に得られればフォイルなんかあっちゅうまに押し返して、ぼくが魔王になるんも夢やない。

 一体何考えてるんか全く読めんけど、ぼくはこの誘い、正直チャンスや思うた。


 フォイルを抜いてぼくが魔王として君臨するチャンス。他の誰でもない、このぼくがや。

 そらただで、なんてことは考えてない。それに見合う何かを要求されるのはミエミエやけど、とても魅力的な提案やと思えた。

 ぼくんことはじめから期待してない連中に目に物見せる絶好の機会やし、


「確かに私がセントラルの魔王に仕えている、という証明は出来ません。そこのところは信用して欲しい……としか言いようがありませんね」


 白々しいことを言ってるけど、目がギラギラしていて、どうしても信じないなら力でも見せてやろうかという雰囲気を纏ってる。


「何考えてるんか知らんけど、お前に暴れられたらぼくん部屋が酷いことになりかねないし、信用したるわ。で、なんでぼくを助ける? お前はぼくに何をさせたい?」


 ぼくの答えに満足気味にうなずいた男の方は、悠々とぼくに近づきながらそれを語り始める。


「なに、難しいことではございません。これから同盟を結ぶであろう国と連携して、南西地域を欺きながら支配下においてくれればそれでよろしいのです。もちろん時間を掛けても構いません。最終的にとある人物さえ手に入れていただければ問題ございませんので」

「とある人物?」


 わざわざクルルシェンドの魔王候補であるぼくに、魔王にさせる代わりに持ちかけられた要求。それが人探し言うんは意外やった。

 セントラルが欲しがるほどの人物……一体どういうやつなんか気になってくるな。

 しっかしわざわざぼくに持ちかける言うんやったら南西地域に行けへん理由があるんやろう。


「珍しいな。人探しやったらぼくより上手にこなせるやつもおるやろ。それなのになんでぼくを選んだ?」

「そうですね。大体はアロマンズ様の思っているとおりですよ。本来でしたら私達が直々に迎えに行きたいと思っているのですが……こちら側は南西地域に手を出せない理由がございます。ですので、貴方様にお願いしたいのですよ」


 この男の言葉でぼくはこいつの後ろにいる魔王がどんな種族なんかはっきりわかった。

 むしろ南西地域に行けない種族の魔王なんて限られてる。


「はっきり言ったらどうなん? エルフ族は妖精族の育てとる国樹のせいで入れへんからなぁ」

「はは、やはりわかってしまいますよね。南西地域に行けない種族といえばエルフしかありませんしね」

「そうやな。他の魔王だったら自国の兵士たちで攻め入ることも考えに入るやろうし、まず『行けない』なんて言葉、使わんわな」

「それでしたら話が早いのではないですか? 下手に勘ぐられるより、むしろ要求がはっきりしていると思うんですが」


 人が欲しい言う以外は確かにその通りやろうな。国樹の結界のせいでエルフ族は南西地域に行くことが叶わんからな。

 妖精族の魔王であるアストゥの能力を上回るやつは一切通れんようになってるらしいからな。時間が立てば少しずつでも強くなるあの魔王らしい結界やと思うわ。

 万が一魔王が世代交代しても現魔王の力に国樹の結界が左右される辺り、いやらしい思うわ。


 でもま、ええやろ。別に南西地域の連中に恩があるわけやないし、獣人族みたいなんがいたせいでぼくら狐人族が迫害されたんもまた事実。

 あいつらが居なかったら魔人族にいじめられることもなかったんやしな。あいつら、エルフ族と違って狐人族と獣人族の区別もつかない阿呆ばかりやったからな。

 妖精族には助けてもらたこともあるけど、ぼく自身は恩を受けた覚えもないからな。食い物にするんも抵抗ないわ。


「その通りやな……ええやろう。そっちが魔王にしてくれる言うんやったらぼくもやろうやないか」

「随分即決されましたね。いえ、決断というのは早ければ早いほどいい。悩む、というのは判断を鈍らせることに繋がりかねませんからね」


 結構結構と愉快そうに笑うやつはなんか気に食わんかったけど、これから一緒にクルルシェンド乗っ取っていこういう仲間やし、少しくらいは多めにみらんとな。

 その頃のぼくは頭ん中でそう思いながらも、フォイルをどう貶めてやろってことで頭が一杯やったなぁ……。





 ――





「あの頃はまさかグロアス王国と手ぇ組むとは思いもせんかったわ」

「後悔してんのか?」


 ぼくがのんびり思い出に耽ってると、ようやく現れたんはグロアス王国の魔王ディアレイ。

 今ぼくと同盟を結んどる国の王やな。むっきむきの体にごつい鎧と大剣を背中に背負ってる、見るからにパワーバカ。


「まさか。今ここに居るんはあん時ぼくが決断したからや。微塵も後悔なんぞしとらんわ」

「くく、そうだろう。それで、首尾はどうだ?」


 これから起こるやろう略奪の機会に思いを馳せるように舌なめずりすんの止めや。気持ち悪い。

 後悔はしてへんけど、こいつんことはあんまり好きにならへんわ。お互い利用できるだけの関係やし、役に立たへんのとくまされるよりはずっとマシやけど。


「問題あらへんよ。件の女王はここでぐだぐだやっとったそうやけど、予定通り鎮獣の森に行くみたいやしな」

「なら手はず通り、俺の方も動くとしようか。お前の方はどうする? アレは使うのか?」


 アレ……ディアレイが言うんは恐らくあの時の男にもろたもしものための秘策、言うやつか。

 正直今でも思うんやけど、こんなのどう使えいうんやろうか。明らかにぼくの手に余るわ。


「もろたぼくが言うんもおかしい思うけど、アレは規格外すぎるわ。ま、それでもあんたが間に合わんかったときの最終手段としていつでも使えるようにはしとるけどな」

「はんっ、心配性のお前らしいな。そういうところ、俺は嫌いじゃねぇぞ」

「それはどうも」


 ディアレイに言われると、なんか背筋が凍る思いがするわ。決して口に出しては言わんけどな。


「なら俺も進軍の方、進めておくぜ。あの女を捕まえたら後は南西地域に侵攻するだけだからな。女も酒も思うままに手に入りそうだし、一気に攻め込んでやるぜ」


 にやにやといやらしい笑みを浮かべて股間のテント張るんはるんはええんやけど、傍から見たらぼくに興奮しとるようにしか見えんのやから本当勘弁してほしいわ。夢想すんなら自分とこ帰ってからにしろや。


 まあ、そんなこと言ったらぼくなんかどうせ瞬殺やろうし、口に出して言うことは絶対ないんやけどな。心でどう思うかは自由っていうことや。


「夢見るのは結構やけど、万が一のこと考えといて貰わんと困るよ? ぼくはあんさんほど力持ってるわけやないし、エルガルムとの戦争でも一切の被害もなしに完勝した言うしな」

「はっはっは! わかってるわかってる。本来ならお前みたいな雑魚を守るなんてこと、する必要もねぇんだが……何かと役に立つし、仮にも同盟を結んでやってる仲だからな。任せておけ」

「後、女王と戦うことなって捕らえたとしても、手ぇ出したらあかんからな? あんさんは女と見ると見境あらへんからな」

「はん、お前に言われなくてもわかってるって。確かに極上の女だと聞いてるけどよ、俺だって命は惜しい。まだまだ色んな女を楽しみてぇからな!」


 イライラするその話し方はちょっと改めたほうがええんやないか思うけど、ぼくみたいな雑魚が言っても無意味やろうなぁ……。

 結局あのバカはそれだけ言うとさっさと帰っていった。あの男との会話はほんま疲れるけど、これもぼくがこの国で魔王やっていくため言うんやったらそれも仕方ないか。


 あの男が帰った後、椅子の方に深く腰掛けて天井を見て少し物思いに耽る。フォイルとの縁もこれで最後やと思うと、不思議と色々思い出す。


「……ぼくはもうお前の保険やない。ぼくが魔王なんや。いくらお前が強うても頭が良くても、今はぼくのが強い。それを絶対理解らせたる。そんでそのまま逝ねや」


 ぼくの眼の前に立ちふさがっていたはずの障害。それを蹴落として地位を奪ってやった。でもそれだけじゃ物足りん。

 あいつからは全部奪ってやる。地位も名誉も……一番最後に大切な命もな。


 それじゃ、ぼくの方も動くとするか。はよせんとあいつらが鎮獣の森の霊獣と接触を終えるかも知れんからな。

 最期の幕は盛大な祭りにしたるから、精々楽しんでいけや。

閲覧ありがとうございます。

次回の投稿は11月10日予定となっております。

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