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聖黒の魔王  作者: 灰色キャット
第2章・妖精と獣の国、渦巻く欲望
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49・魔王様、ぼこぼこにする

 私の様子が従順な娘のソレではなく、かなり反抗的な目線を向けているのがどう影響を与えたのかは知れないが、気持ちの悪い笑みをより一層深めて、上から下まで舐め回すように見られる感覚を覚える。


「随分と気の強い嬢ちゃんじゃねぇか。自分の立場わかってんのか?」


 一人の男が私を見下ろし、威圧するかのように酒臭い顔をこっちに近づけてくる。

 お前の方こそ私の立場をちゃんと把握してるのか? と本気で聞いてやりたい。こいつが私の国の者だったら五回は記憶を飛ばすほど目に合わせてやるところだ。


 男の視線を向けられても私がだんまりを決めていると、後ろから私の肩を堂々と掴んでにやにやとしたいやらしい笑みで後ろから更に圧力をかけようとばかりにしている。

 これ、並の少女だったらまず間違いなく怖気づくか気圧されるか……どちらにしろ、下卑(げび)た笑みを向けてくる男どもの思い通りになっていただろうな。


「くひひ、今まで見た中でとびっきりの上玉じゃねぇか。ちゃんと大人しくしてたら可愛がってやるからよぉ」

「ま、反抗的ってのもそれはそれで有りだけどな!」

「はっははははは!」


 何がおかしいのかさっぱり分からないが、周囲の女性たちがその様子を見て更に怯えた様子が伝わってくる。

 頭の芯が冷えていくのを感じながら、私はここでちょっと妙なことに気づいてしまった。


 さっきの殴られて追い出された人たちもそうだったんだけど、言葉以上の抵抗を一切していない。

 店の中には今大暴れしてる男どもの同じくらい屈強な者もいたと思うんだけど、悔しい顔をして遠巻きに眺めてるばかりだ。


「おい、なんとか言えよ」

「うるさいわね。来てやっただけでもありがたく思いなさいよ」

「な、なんだとてめぇ!」

「なに? そうやって吠えてたら怯えるとでも?」


 肩に置いた手に力を入れてくる無作法者の脅しなんぞ、怖くもなんともない。

 むしろ野良犬が必死に威嚇してるようにしか見えない。


「はっはっは、粋がいいな嬢ちゃん! だけどよ、あんまり調子に乗らないほうが良いぜ?」


 私の態度に奥の男が笑いながらも、まるで言い聞かせるかのような声音で話しかけてきた。

 見た感じこの男が一番強いと思う。他の連中より戦い慣れしている雰囲気が伝わってくる。

 ……それ以上に一層気持ち悪い空気をまとってるんだけど。


「どこのいいとこのお嬢様か知らねぇけどよ。俺達はあのグロアス王国の兵士なんだぜ? 抵抗するってことはグロアス王国に逆らうってことになるぞ?」


 今話してる男をひとまずリーダーと考えて……こいつの言ってることが確かだとすれば、なんで他国の兵士どもがこのクルルシェンドの貿易都市で幅を利かせているのか。

 しっかしなんでそんなのがこんなところにいるのか。


「なんでそんなのがこの国にいるのよ」

「はっ、そんなこと、お前が知る必要ねぇんだよ!」


 リーダーの方に話しかけてるのに、後ろで相変わらず私を掴んでる男がうるさく邪魔をしてくる。

 こうなると段々面倒になってくるのよね。ただでさえ機嫌が悪いっていうのに。


「おいおい落ち着け。お前はすぐ血ぃ上らせやがるからいけねぇ……嬢ちゃん、中々肝が座ってるな。容姿も申し分ねぇし、いい女になるな」

「そう? 貴方みたいな荒くれ者に言われてもいい気分はしないけどね」

「はっはっはっ! そんな態度を取ってて立場が悪くなるのは、お前なんだぜ! ん? 一族郎党家畜以下の存在にしてやろうか!?」


 分厚いナイフを鞘から抜いて、そのなまくらそうな刃を私の頬にピタピタと当ててくる。よし、こいつは百回殺そう。


「は、離してぇ!」

「さっさとこっち来い!」


 別の男が私ぐらいの少女を無理やり引っ張ってきたのを見つけてしまう。泣き叫ぶ少女に対し、聞き分けがないとばかりに暴力を振るおうとする姿に全員の視線が行った瞬間、私は行動を起こした。


「『ガイストート』」

「は?」


 もはや恒例と化している精神を殺す魔導『ガイストート』の闇の刃が、中央で騒いでいた六人の男全てに一斉に襲いかかる。

 標的以外には当たらない絶妙な位置取りでの魔導に対処できずにいる男どもの末路は無残だった。


「がああああああああああ!!」

「くそっ! 魔法使いか!」

「ふざけやがって!」


 四人ぐらいは為す術無く魂を削り取られそうな程の痛みにのたうち回り、残りの二人は距離を取って私に刃を向けてくる。

 ちなみにリーダーの男は既に倒れていて、私の『ガイストート』の刃を幾度も受け、その度に絶叫していた。


「き、きさまぁ! グロアス王国に逆らうのかぁ!」

「逆らう? 一兵士風情が私に向かって吐いた暴言、償わせてあげるわ」


 結局残りの二人は私の方に突撃を仕掛けてきたけど、テーブルと苦しむ男どもが邪魔して上手くこっちに来ることが出来ずにいた。

 その隙に『ガイストート』を撃ち込んでやり、最初の四人と同じ末路を辿らせてやった。


「あ、がぁぁ、こ、後悔させて、やるぞぉ……!」

「愚かね。どう転んでも後悔するのはお前たちよ。『ガイストート』『チェーンバインド』」


 恒例の相手を殺さずに痛めつける魔導で動きを封じながら、さっさと鎖でがんじがらめにしてやる。

 ついでに傭兵たちの懐を探ってやり、たんまり硬貨が入ってる袋を見て、慌てた様子で駆けつけてきたフォイルに投げ渡した。


「フォイル。外で可哀想な目に遭ってる人たちに魔法医を。このお金を治療費に当ててあげて」

「……大丈夫なんですか?」

「当たり前でしょう。これは彼らの自業自得よ」

「わ、わかりました」


 せっせと他の男の硬貨袋を取り上げていって、テーブルの上に載せていく。

 大銀貨が複数枚入っていたり、結構お金が入ってて、少しばかり頂戴しても傷まないほどだ。


「フラフ、こいつらはどこか適当に端に寄せておいて。乱暴に扱っても構わないから」

「いいの?」

「いいわよ。なんなら蹴っ飛ばしても構わないわ」

「それ、いい考え」


 百回殺すと決めたリーダーの方は私が延々と『ガイストート』を使って死ぬほどの痛みを与え続けている。

 私はやると決めたらやるおと…いや、今は女か。どうせ死なないし、心が壊れる前には終えてやる。


「あ、あの……」


 私が徹底的に制裁を加えている最中に、おずおずと声をかけてきたのは恰幅のいい、腰にエプロンを巻いた男性だった。

 まあ見た感じのこの店の関係者なんだろうけど、一体なんの用なんだろうか?


「ま、まず店を助けてくれた礼から言わせて欲しい。あいつらはたまにこの都市にやってきて色んな酒場を荒らして回る厄介者だったからな。おまけにグロアス王国の兵士と来たもんだから不用意に手を出すわけにもいかなかった」

「ここはクルルシェンドに属している都市でしょう? なんで王国の言いなりなんかになってるのよ?」


 私の言葉に信じられないものを見るかのような目を、恐らく店主だろうと思う男がしてる。しかもよく見たら周りの人たちも同じような目でこちらを注目していて、なんだか気分が悪い。


「……お嬢さんは何も知らないのかい?」

「私は二日前に南西地域の方から来たばかりよ。ここには初めて来たわ」

「それは……」


 今度は可哀想な子を見るような目に変わってきて、段々居心地が悪くなってきた。

 見るに耐えかねて、といった感じで別の男が遠慮がちに声を上げてくる。


「お嬢ちゃん、悪いこたぁ言わねぇ。早くここから出ていきな。いくら強いと言ってもグロアス王国に相手に勝てるわけがない」

「だから、なんでグロアス王国の連中がここにいるのよ? まずは私に理由を教えてちょうだい」


 執拗にグロアス王国を恐れるのは伝わってきた。だけどなぜクルルシェンドにいながらかの王国に怯えているのかがさっぱり理解できない。


「クルルシェンドのアロマンズ王は、グロアス王国のディアレイ王と同盟を結んでるからだ。この貿易都市トーレスでは、グロアス王国のやつらが何をやっても知らぬ存ぜぬ。その分セントラルの武装を流してもらっているって噂だよ」

「ああ、過去にも同じように歯向かったやつがいたけど、翌日にはクルルシェンドの兵士に連行されていったさ。俺達にはあいつらに逆らうことは出来ない」


 代わる代わる教えてくれたその情報は、とても貴重なものだった。

 ディアレイ王が率いるグロアス王国の兵士たちがクルルシェンドで好き勝手にしているという事実。これは最悪の可能性を考えたなら……いや、これはもう確定なんじゃないかと思う。

 だけどそれならまたわからないことが出てくる……が、その解答は今は得られないだろう。これ以上の情報はちょっと期待できなさそうだ。


 頭の痛いことが次から次に起こってきて、まるで私がなにかする度に邪魔しようとしてるみたいだ。


「気持ちだけはありがたくいただくわ」

「おい嬢ちゃん、俺達は本当に――」

「わかってるわ。でもね、私もただ観光しにここに来たわけじゃないのよ」


 私の目を真っ直ぐ見つめていた男だったけど、絶対に曲げないとわかるとため息まじりに頭を掻いていた。

 気遣ってくれるのは嬉しいけど、ここで引いたら私はなんのためにここに来たのかわかったもんじゃないからね。


「はぁ……何を言っても引きそうにねぇなこりゃあ。せいぜい気をつけてくれよ。一時とは言え、あんたは俺達を助けてくれたんだからな」

「ええ、肝に銘じておくわ」


 男が離れていった後、兵士共から巻き上げたお金を使って騒ぐことにした。

 一応彼らが生活できる分の金銭は残しておいてやったけど、それ以外は他の人への迷惑料ということで一切遠慮せずに使わせてもらう。

 これに対して今まで恐怖の色に染まっていた場の雰囲気が一気にリセットされ、結果的に楽しく過ごせたし、今はグロアス王国とか言う国は忘れて騒ぐとしようか。






 ――






 酒場での騒動やその後の宴会じみた騒ぎをしていたせいか、馬鹿どもを衛兵隊に引き渡して宿屋に戻った頃にはすっかり夜になっていた。

 流石に向こうで散々食べてきたわけだし、結局お湯で体を拭いて寝るだけということになったんだけど……。


「ティファリス女王、少しお時間をよろしいですか?」

「ええ、入ってきていいわよ」


 ノックの音とともに聞こえてきたフォイルの声音はどことなく真剣味を帯びている。

 入ってきたその顔つきもやっぱりあの酒場でいたときとは違う、どこか硬い表情で、私のことをじっと見据えている。


 何か重要な用なのはわかるが、一体どんな言葉が飛び出してくるのやら……。

閲覧ありがとうございます。

次回の投稿は11月7日予定となります。

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