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聖黒の魔王  作者: 灰色キャット
第10章・聖黒の魔王
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308・青スライムといっしょ!

 久しぶりにディトリアの町を歩いた私は、そのあまりの変わりように驚くばかりたった。


 ワイバーン便が始まってから、かなり食べ物の流通が広がり、一気に店が増えていったのは覚えているが、まさか更に賑わいを増しているとは思いも寄らなかった。

 それは食べ物だけじゃない。


 鉱物、他の国のみで造られているような珍しい品から武器と防具まで幅広い。

 おまけに雑貨を扱う店も一気に増えていて……正直なところ手を繋いで大正解といったところだ。


「相変わらずすごい賑わいですね」

「アシュルは町によく出ているの?」

「偶に、ですよ。

 そういえば、この前ヒルドルトさんのところに行ったんですよ。

 ティファさまが忙しそうにされていたので、私だけでも謝りに行った方がいいかな……と思いまして」


 アシュルってば、いつの間にそんな事を……。

 最近まで激務に追われていて行く暇も無かったから、ヒルドルトになんて言おうか考えていたところだ。


「それで、彼女はなんて?」

「忙しいなら仕方ないって言ってました。

 ティファさまのお陰で市場は更に活発化して、他の漁師の方も嬉しそうにしてました。

 今度、暇があったらまた飲みに来てくれ、と伝えてくれと……」

「……そう、それなら良かった」


 私としては少し怒られる覚悟でいたものだから、ちょっと拍子抜けしたくらいだった。


「ティファさま」

「? なに?」

「ティファさまは、もっと自分を誇ってもいいと思います。

 中には悪いことをしたり、損をして泣く人もいるかも知れませんが……でも、この通りを歩く方もあの漁師さんたちも……みんな笑顔です。

 ティファさまがいなかったら、こんなに笑顔で満ち溢れてる光景は出来ませんでした」


 意外にもアシュルが真面目な顔をしてきて私に悲しそうな目をして見てきたものだから、そういう風に言われるとは思ってもみなかった。


 だけど……アシュルの本気がひしひしと伝わってきて、彼女がどれだけこのディトリアの町が好きなのかよくわかった。


 ……だったら。


「そうね。アシュルの言う通り……もうちょっと自分に自信を持ったほうが良いのかもしれないわね。

 ありがとう」

「ティファさま……」


 アシュルはお礼を言われたからか、感無量のような顔で私の方を見ているけど……本当に可愛い子だ。

 というか、私は今、結構感動している。


 なぜかっていうと、私にこうもはっきり物を言うことなんて中々なかったからだ。

 それが私には何よりも嬉しい。


「……どうしたんですか?」

「ふふっ、ちょっとね」

「えー、なんですか? 教えて下さい」

「秘密よ、ひ・み・つ!」


 私が含みのある笑いを浮かべると、アシュルが気になるようで、少し頬を膨らませていた。

 結局それに答えないまま、ディトリアの町を歩く。


 子どもたちが笑いながら走り去っていくのを見たり、花の手入れをしている妖精族の子が、私に気づいて一輪頭に飾ってくれたり……というか、なぜか結構私がティファリスだと知っている者が多い気がする。


 昔は町に遊びに出かけたりもしたけど、ここ最近は本当に出たこともないのに、よくみんなに認知されてるなと思う。

 こちらの陣営に引き込んだ兵士たちの家族かもしれないが……それにしては行く先で視線がこっちに向けられていたり、私に頭を下げたりしている。


「なんだか、みんなが私を知っているみたいね。

 ちらほらと視線を感じる」

「それだけティファさまが有名だってことですよ」

「こんな滅多に外に出ない魔王が?」

「そういうものですよ」


 どうにも釈然としないのだけれど、普段町に出ている彼女が言うのならばそうなのだろう。

 いつの間にか私の手を代わりに引っ張って、いつの間にかリードされる側に回ってしまった。


「それよりも、ほら、一緒にお店を回りましょう!」

「あ、アシュル! そんなに強く引っ張らないでちょうだい!」


 それから、アシュルの案内で小道具屋に連れて行かれ、互いにアクセサリーを試着したり、服屋で上から良さそうな服を当て合ったり……自分が思うのもなんだけど、相当平穏な日常を送っていると思う。


 二人で笑い合って、大道芸のような事をやってるのを、興味深げに見たり……こんなに楽しい気持ちになったのも本当に久しぶりのことだった。







 ――






「ティファさま、そろそろ着きますよ」


 アシュルと一緒に行ったのは、私がよく通っていた『ミトリ亭』だった。

 ちょっと前より建物が増えてしまったため、入り組んでいたけれど、アシュルの案内でなんとか私も知っている光景が見えて……私たちは久しぶりにミトリ亭に辿り着いた。


 ……のだけれど。


「混んでるわね」

「混んでますねぇ」


 丁度お昼時に来たのがまずかったのか、かなりの賑わいを見せている。

 というか、ちょっとした列が出来ていた。


「どうされますか?」

「んー……待つしかないでしょうね」


 色んな食堂や料理店を開拓していくのも良いんだけど、私としては久しぶりにミトリ亭の料理を味わいたかった。

 ここら辺は私のわがままだけど、アシュルはなんの不満一つ言うこと無く、一緒に並んでくれた。


 しかし、並んだ途端、ざわざわと周囲が騒ぎ出してしまって……魔王である私が後ろで並んでることが問題だそうで、店員の一人がすぐに案内してくれようとしてくれた。


「あ、あの、ティファリス女王様、ですよね? 魔王様をお待たせする訳には……」

「気を使わなくていいわ。みんなが待ってるのに、私が待たないなんておかしいでしょう?

 それに、今日の私は魔王としてではなく、一個人として来てるの。

 気持ちだけ、貰っていくわ」


 だけど周りの気持ちを考えずにそのまま受けてしまのは、いくら魔王とは悪い。

 私は気持ちよく食事をしたいのだ。


「で、ですが……まだかなりかかりますよ?」

「大丈夫よ。それよりもほら、仕事に戻りなさいな」

「は、はい!」


 思いっきり頭を下げて、そのまま店員は自分の仕事に戻っていった。


「ティファさま、良かったんですか? 誰も文句は言わないと思うんですけど……」

「こういうのはね、気持ちの問題なのよ。

 せっかく食事に来たのに、割り込みされたら気分も萎えちゃうでしょう?」

「そういうところ、律儀ですよねぇ……」


 アシュルが妙に納得したような視線を向けてきているのを感じながら、私はのんびりと列に並んで待つことにした。


 結局、お昼を少し過ぎた辺りで私たちは店内に入ることが出来た。

 外装もそうだけど、内装もほとんど変わって無くて……懐かしさを思い出させてくれる。


「いらっしゃいませー!」


 元気の良い店員の声が響いて、とりあえず適当な席について、メニュー表を見る……んだけど、前に比べると色々と増えている。

 私はこういう時、変に悩んでしまうから適当に選ぶことに決めている。


 幸い、種類ごとに分かれていたから似たようなのが被ることはなかったけど、今度からまた少しずつここに通って、いずれ全種類挑戦してみたいものだ。


 そして肝心の料理の方は、どれも素晴らしい出来栄えで、以前『夜会』での料理を頼んだ時よりも洗練されている。

 アシュルも相変わらずの量を食べながらご満悦な表情をしているし、ミットラは聞いていた通り、自分の腕に慢心せずに励んでいてくれているようだ。


「ティファさま、どうですか?」

「うん、前より腕を上げてる。

 美味しい料理を食べてる時って、幸せよねぇ……」

「私はティファさまのそのお顔が見られて本当に幸せです……」


 私の顔? そう言えばに料理を食べだしてから騒がしかった周囲が静まり返ってこっちを見ているようだけれど……まあ、気の所為だろう。


 その後、一通り料理を味わった私は、今回はミットラに会わずに帰ることにした。

 彼とはまた会える機会があるし、元気でやってることだけがしれて何よりだ。


 私も、もっと頑張らないとね。

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