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聖黒の魔王  作者: 灰色キャット
第10章・聖黒の魔王
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292・魔王様、西の城に行く

 フェーシャから結婚式への招待状を受け取り、より一層気合を入れて執務に励んでいたある日。

 私はワイバーンに乗ってきたオーク族の兵士から一つの報告を受けた。


 それは遠征部隊を小分けした探索隊が西地域を色々と調べていると、荒野の続いた場所に城があったそうだ。

 崖のように切り立った場所が奥に存在して、それが目印になるのだとか。


 その城は少々ボロいというか……建てられて随分時間が経っているような印象があり、ところどころ修繕した跡があったそうだ。

 最初、この城を見つけた時に入ろうかどうしようかと悩んだそうだが、結局私に報告することを優先して、城の内部まではさっぱりわからない、ということらしい。


「報告ありがとう。貴方は二~三日休んでからワイバーンで遠征部隊に戻ってちょうだい。

 特別に手当出しておくから、ゆっくりと身体を休めて来るといいわ」

「あ、ありがとうございます!」


 相当感動したようで、若干涙目で喜びを表現していたオーク族の兵士は、軽やかな足取りで執務室から出ていった。

 一応、後で一緒に城を発見した彼以外の兵士たちにも同じように手当をつけてあげないといけないだろう。


 さて……どうやら報告にあった城へは私自らが出向いたほうがよさそうだ。

 周囲には魔物がそれなりに徘徊しているようだから、しっかり準備していったほうが良さそうだ。


 というか……最近、本当に仕事してばかりでゆっくりと休む時間すらない。

 おかげで微妙にアシュルとすれ違いな生活を送ってる。

 若干ため息が出そうになるけど、このヒューリ王との戦いの爪痕がそれだけ深いというわけだろう。


 戦後処理さえ終われば私の方も少しは余裕が出来るはずだから、それまでは辛抱するしかない。

 そうと決まれば、さっさと行動あるのみだ。


 早く仕事が終われば、その分アシュルやベリルちゃんやフレイアールと一緒にいることが出来るのだから。






 ――






 兵士から報告を受けた私は、久しぶりにフレイアールに乗って、西地域にある例の城の前にやってきていた。


「流石、フレイアールは速くて本当に助かるわね」

『ふっ、我が母の頼みであるならば、我も全力で応えねばなるまい』


 ちょうどレイクラド王のところから戻ってきたフレイアールに西地域の事を話したらこういう風に喜び勇んで付いてきたというわけだ。


 それでも丁度いいタイミングで戻ってきてくれたと思った。

 フレイアールならばワイバーンなんかよりずっと速い。

 半分以上の日程短縮出来るのだからこれほどありがたいことはない。


 それに……フレイアールとこうして話したり、一緒にどこかに行ったりするのは本当に久しぶりだったから少し嬉しかったりしたのだけれど……それを彼に言えるような場所だったらなおのこと良かったのだけれど、着いた場所はどこか薄暗くて、大地がひび割れていたり、草がほとんど生えていなかったり……おまけに城は兵士の報告のどこか古臭い感じがする。


 曇り空も相まって、全体的に薄暗く、不気味な雰囲気すら与えてくるほどだ。


 とてもじゃないが、こんなところに二人でこれて嬉しいというのは……ちょっと言いづらい。

 もう少しまともな場所だったら、という気持ちもあるけど、遊びでここに来ているわけじゃないんだし、気を引き締めて行かなければならないだろう。


「フレイアール、貴方はどうする? 外で待ってる?」

『いや……』


 そのままフレイアールは『化身封印』の魔法を唱え、私には馴染み深い小竜の姿に戻っていた。

 やはり、この子はこの姿が可愛らしい。


 ふわふわと私の周りを飛び回るフレイアールは愛嬌があって好きだ。

 もちろん、大きな成竜の状態もすごく凛々しくて、頼れる存在だし、嫌いじゃないけどね。


(母様、早く行こうよー!)

「……ふふっ、そうね。早く行きましょう」

(うん! 母様はぼくが守ってみせるからね!)


 両手をむん、と握りしめて、ちょっと凛々しい顔をしてアピールしてくるフレイアールを微笑ましげに感じながら、ギギギ……と金属が擦れるような音共に扉をゆっくりと開いた。


 少々暗いそこは少しほこりくさいというか……あまり清掃が行き届いていないような印象を受ける。

 どうやら魔法の灯の方は生きているようで、道具に魔力を込めると次々と明かりが灯っていって、内部がよく見渡せるようになった。


 一階の方はどうやらロビーのようで、正面には大きな階段があり、二階に続いているようだ。

 一応左右にもいくつか扉があって、城ということを含めても探索しなければいけない場所は少し多いようだ。


 生きている者の気配が全くしないところから誰もいないような感じはするんだけど……魔法の灯の件といい、妙に生活感の残ってるここは、少なくとも最近まで誰かがいた……ということは間違いないと思う。


(なんだか変な場所だね……。少し気分が悪くなってくるよ)


 フレイアールは何かを感じているようで、きょろきょろと周囲を観察するように警戒している。

 ……案外、兵士を連れてこないで私とフレイアールだけで来たのは正解かもしれない。


 いざとなったら一人でもなんとか出来る者じゃないと、ここに来るには勇気が必要だろう。

 ここを見つけた兵士たちが、功を焦って調査しようとしなくて本当に良かった。


「フレイアール、二手に分かれましょう。私は一階で、貴方は二階……良いわね?

 しばらくしたらこのロビーでおちあいましょう。」

(はーい)


 フレイアールは元気に片手を上げて、ふわふわと上の方に飛んでいった。

 さて、私の方も一階を探索してみましょうか。






 ――






 一階の大きな階段の左右から奥に進めるようになっている扉の方は、一つの場所に繋がっているようで、どうやら横長に広い場所に出てきた。

 ダイニングテーブルがあるところから、恐らく食堂なのではないかと思う。


 多少古臭いながらもかなり飾られているようで……これが建った当初であるなら、さぞかし綺麗だっただろう。

 しかし、あまり見たことがない様式のような気がする。


 少なくとも魔人・猫人・狐人・獣人……と色々な種族の城に行った事があるはずだけれど、そのどれにも該当しないような気がする。


 わざわざこんな横に長いテーブルを使う必要なんて全く無いからだ。

 どことなく見栄が感じるこれは……もしかしてここはエルフ族の城なのではないか? という疑問が湧き上がってきた。


 彼らは自分たちを一番優秀な種族だと勘違いしていた種族だったし、他の種族と違う……という意識の現れなのかもしれない。

 まだ確証は持てないけど……もしそうだとしたら聖黒族のいたと言われる地域になんでエルフ族の城が? という疑問が出てくる。


 その後も一階の部屋を見て回ったのだけれど、どうにも古臭いだけの城にしか見えない。

 いくつかの応接室、キッチン、後はこの城で働いている使用人の部屋が奥にあるくらいだ。


 昔の生活が多少残ってるような気もするけど、それ以上に真新しいものは見つからなかった。


 後は、一階の通路に地下へと続く階段があったぐらいか。

 さて、どうしよう……大体見終わったしこれ以上この一階で見るべきところはないだろう。


 かといってフレイアールはまだ二階の探索が終わっていないみたいようで、ロビーの方には降りてくるような気配を感じられない。

 本当はフレイアールが来るまで待っていたほうが良いのだろうけど……このままでは事態はなにも進まないし、地下に降りてみてもいいかもしれない。


 そう決断した私は、アイテム袋からランプを取り出して暗い闇の底に続いていそうな地下への階段を、ゆっくりと降りていった……。

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