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聖黒の魔王  作者: 灰色キャット
第10章・聖黒の魔王
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285・力を解放する魔王

 私は『カエルム・ヴァニタス』を振りかざしてヒューリ王に斬りかかる。

 彼は、私が剣身を失くしたただの柄を振り回しただけに見えたようで、どこか余裕ぶった態度をしていたけど……。


 目の前の空間を突き破るようにいきなり斬撃が襲いかかってきたせいか、慌てて防御の体勢を取って、なんとか剣で防いでいた。

 が、そんな事は最初から予測済み。


 再度振るうと、今度は右足に向かって剣が飛び出し、ヒューリ王の太ももに刃が深々と突き刺さった。


「ぐっ……」


 うめき声を上げないように、なんとか堪えたヒューリ王はそのまま魔法を放つ体勢を取ってくる。


「『ブラックインパルス』!」


 黒い衝撃が私の方に襲いかかってくるけど、『カエルム・ヴァニタス』を数回振るう事によって出現した剣身が、守るように次々と『ブラックインパルス』を防いでくれる。


 その間に太ももに突き刺さっていた刃が消えたようで、私と更に距離を取って、自身に回復系の魔法をかけているようだ。


 ……が、全く効果がないとわかると早々に諦め、私の方に向き直った。 


 流石にいきなり殺しに掛かれるほど気を抜いていたわけじゃなかったけど、虚を突くには十分な役割を果たしてくれた。


「なにを考えていたか大体わかるけど……私のことを甘く見すぎているわね。

 さあ、私の力を見せてあげる!」


 回復されたとしても、私の剣の軌道を読むことが不可能な限り、こちらのほうが有利なのは変わらない。

 私は更に『カエルム・ヴァニタス』を数回程、敵を斬りつけるように振り回すと、今度はヒューリ王の上下――頭上と地中の両方から剣身が彼を貫かんと襲いかかっていく。


「ちっ、『ラジシルド』!」


 ヒューリ王は盾を中心とした魔法で私の剣撃を防いできたが、もうそれの攻略法はわかっている。

 剣を振るいながらどこに出現させるか決めつつ攻撃をし続ける。


『カエルム・ヴァニタス』の剣がヒューリ王の背後――『ラジシルド』の中でも一番薄いところに四つほど空間を破りながら剣身が飛び出し、その魔法の弱点を突く。


 パリィンッと何かが砕けた音がしたと同時に、盾の薄く光る青い輝きは失われて、ヒューリ王の舌打ちが聞こえてきた。

 咄嗟に背後に剣を振り、背後の空間から出現した剣を防ぐが、完全に勢いを殺しきれずに大きく剣を弾かれてしまう。


「……! 『マリスハウンド』!」


 この隙を突くために更に『カエルム・ヴァニタス』による縦横無尽の斬撃を食らわせようとしたんだけれど、ヒューリ王は魔法を唱えて迎撃してきた。


 何匹もの黒い狼が魔法によって形を与えられて、一斉に私に襲いかかる。


「『フラムブランシュ』!」


 私の白い炎の熱線がヒューリ王の『マリスハウンド』を迎撃して、更に『カエルム・ヴァニタス』でヒューリ王の動きをある程度予測しながら、阻害するように剣身を出現させる。


「『マリスハウンド』!」

「しつこいわね……」


 ヒューリ王は『フラムブランシュ』の効果が切れた瞬間、すぐさま黒い狼を出現させる魔法を再度唱えてきた。

 こっちも同じように迎撃しようとするんだけど、あれは私の視界を遮ってしまう。


 ヒューリ王が自由に動ける状態でそれは少しまずい。

 さっきは剣を拾いに行くであろう彼の行動を読んで迎撃したんだけど、それが何度も通用すれば苦労はしない。


 どうしようかと思案している内にも黒い狼は襲ってきている。


「『フィロビエント』!」


 結局私は、対抗するように複数の風の刃を生み出す魔導と『カエルム・ヴァニタス』による指定した空間から剣を出現させる攻撃で乗り切ることにした。


 この『マリスハウンド』という魔法、私がヒューリ王の動きに合わせて動いていると、それを追跡するように追いかけてくる。

 そのところをを見ると当たるか防がれるまで対象を追跡してくる魔法のようだけど、『ダークネスシャイン』といい『ブラックインパルス』といい……今まで出会った魔王の中でも特に異質な魔法を使ってくる。


 私が『マリスハウンド』を迎撃している間に剣を拾ったヒューリ王は、私の動きに警戒しながら更に魔法を重ねてくる。


「『セイントクルス』!」


 白い十字架のようなものが出現して、一直線に私に迫ってくる。

 大きさは大体私と同じくらいで、かなり速い。


 というか、十字架が狼よりも速いというのはどういうことなんだろうか? などと考えながら回避は間に合わないから目の前に壁を作るように剣身を喚び出して『セイントクルス』を遮った。

 光がバチバチと音を鳴らして剣と激しくぶつかりあって、いくつかの剣を消し飛ばしてくれるんだけど……その都度私が『カエルム・ヴァニタス』を振るって剣身を召喚したおかげで、なんとか防ぎ切ることに成功した。


 それに驚いたのは表情をしていたヒューリ王の様子を見ると、この『セイントクルス』というのはなにか仕掛けのある魔法だったのだろう。

 私の見立てでは……魔力を素通りするような仕掛けでもあったんじゃないかと思う。


 恐らく空間を突き破るように剣が飛び出してくるから、魔法系の攻撃だと睨んでいたのだろう。

 詰めが甘い。私の攻撃がそんなに単調な訳ないだろう。


 ヒューリ王の推測は確かに一部正しい。

 この『カエルム・ヴァニタス』は魔導でもあり、物理でもある……そしてそのどちらでもない、という特性をもっている。


 ちょっとややこしいものなのだが、そのおかげで物理攻撃を受け付けなくなる魔法や、今のようにどちらかでは防ぐことが出来ない魔法でどうにか出来るものではない。


 ただ、ヒューリ王の『ラジシルド』のような防御力を底上げして、バリアみたいなのを張る魔法に対してはあまり効果がない。いや、正確には薄いというべきか。


 防御魔法程度には効力は薄い……が、完全に防ぐとか通過するとか、効力が強いものに対しては最大限の力を発揮してくれるというわけだ。


 だからこそ、『ラジシルド』や『アブソーブシルド』などで防がれる方が『セイントクルス』なんかを使われるよりは少し厄介……なのだが、結界を張るタイプのものだったら、その内側に剣を喚べばいいだけの話なんだけどね。


「その剣、魔法じゃない、ということか。

 どうにも読めないな」

「さっきも言ったでしょう? 私の攻撃が、そんなに単調なわけがないでしょう」

「ははっ、確かにな」


 隙を見せないように私の前に立っているヒューリ王は、笑いながらゆっくりとこちらに歩いてきた。

 最初は攻撃していたのだけれど、どうにも様子が変で安易に攻撃するのを躊躇ってしまった。


「ティファリス女王……お前が全力で戦ってくるというのなら、こちらも全力を出さなくてはならないだろう。

 それこそ……限界を超えてな……!」


 その言葉とともに気付いたのだけれど、周囲の魔力が徐々にヒューリ王に流れていってるのを感じる。


「行くぞ……『聖体闇身・集約』!」


 左右から白い闇と黒い光がヒューリ王を包み込むようにくるくると回っていって……それが複雑に入り混じりながら、彼の中で一つになっていく。

 やがて、ヒューリ王の身体が薄く淡い白と黒に交互に変化するオーラのようなものを纏っているように見えた。


「……なるほど、自身を強化する魔法ね」

「はっ……ただそれだけの魔法に見えるか?

 そうだとしたら、お前もまだまだだな」


 今まで私が挑発してきたように、ヒューリ王もやり返してきたのだけれど……そんな安い挑発にのるような軽い女ではない。

 とはいえ……今までとは一線を画する力の脈動を感じる。


 恐らく、これがヒューリ王の切り札と言ったところだろう。

 彼もいよいよ追い詰められてきた……そういう訳だ。


 いいだろう。

 どんな敵が来ようと、打ち砕く。

 だって、ここには私の大切なものがいっぱいある。


 転生前――ローランだったときにはどんなに手を伸ばしても、どんなに恋い焦がれても手に入らなかったものが全て……。

 大切にしたい。守って生きたい。


 今がとても幸せだ。

 ティファリスとしてこの世界に生まれて、辛いこと、悲しいこと……いっぱいあった。

 お父様もお母様も亡くしてしまって、涙を流すだけだった幼い私はもういない。


 アシュルがいてくれた。

 リカルデは仕えてくれた。

 他にも色んな人に……心を支えられて今、この場に立っている。


 私は、必ず自分の国を守ってみせる。

 この世界を作るのは……今を生きている私たちなんだと……思いを込めて証明してみせる。

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