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聖黒の魔王  作者: 灰色キャット
第10章・聖黒の魔王
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280・昔の自分を超えていく

 あたしは自分の迷いを振り切るために、身体に気力を漲らせて魔法を唱える。


「『ヒートヘイズ』」


 自分にもう一度炎を纏わせると、そのままアリュウズに向かって戦いを挑んでいく。


「ほう、まともにやり合うつもりか。

 さっきのやり取りで俺とお前の実力は明白だと思うが?」


 薄く笑うアリュウズの言うことは最もだ。

 あたしと彼の実力は明らかに違いすぎる。


 多分、血の滲むような努力をずっとし続けていれば、彼と同じ次元には立てる……のかも知れない。

 でも、少なくとも今は無理だ。


 唯一の救いは魔法を軸にした戦いをしてこないということだろう。

 ……もしかしたらあたしが手加減されているだけなのかも知れないけど、アリュウズが未だに『クイック』も使ってこないは事実だ。


 あの魔法は緊急回避や急速接近にも使える便利な魔法だから、アリュウズも確実に覚えてると思って行動した方がいいだろう。


「『フェイクヴィジョン』!」


 今のこの距離なら、これがきっと役に立つはずだ……そう考えたあたしは、相手に偽りの未来を見せる魔法を唱えて、そのままアリュウズに接近する。


「そう何度も同じ戦法が通用すると思うなよ? 『ヴァイスフレア』!」


 あたしは『フェイクヴィジョン』にまぎれて攻撃しようとしたんだけど、アリュウズの繰り出した白い炎の球が目の前で炸裂して、ギリギリ防御が間に合ったんだけど、多少身体が焦げたように感じる。


「くっ……はっ……」


 息が止まる程の熱を受けて、あたしは地面を転がってアリュウズから遠ざかるんだけど、それを狙うように『シャドウランス』の一撃が飛んできた。


「そら、どうした? 『クイック』!」


 やっぱり、というか、当然のように『クイック』を使って一気に加速してあたしに迫ってくるアリュウズは、半分以上欠けた剣を振りかざして攻撃を仕掛けてきた。


「くぅっ……『クイック』」


 ただでさえ実力的に劣っているのに、ここでアリュウズの加速についていけなかったら間違いなくやられる。

 アリュウズの剣撃をなんとか躱して、そのまま『猫愛限界突破剣(キャリッツ・オーバー)』を振りかぶると、彼はそれを警戒してすぐさま距離を取る。


「『アースニードル』!」

「ちっ……ちょこまかと……」


 離れた隙にフォヴィがその移動を妨害するように魔法を放ってくれてるけど、それを物ともせず、アリュウズの敵意はそのままフォヴィの方へと向かっていく。


 それを見てフォヴィはあたしに軽くウィンクしてくれた。


「契約スライムだからって甘くみたいでね!」


 フォヴィは自分でも軽くて扱いやすい剣を握りしめてアリュウズの動向を伺ってるけど、あの男の攻撃には耐えきれないだろうからあまり無茶はしないで欲しい。


 彼女は数少ない、昔のあたしを知ってる友達だから……死んでほしくない。


 だけど、彼とフォヴィの実力差は明らかだ。

 まあ、あたしの契約スライムなんだから当然なんだけど、このままじゃ間違いなくフォヴィは殺されてしまうだろう。


「『ヒートヘイズ』!」

「ちっ……」


 それでもやりようはある。

 フォヴィが炎を身体に纏うと、アリュウズはそれを嫌って攻撃の手を緩めていく。

 やっぱり『フェイクヴィジョン』で騙されたのが残ってるせいで、こっちが使う魔法にはうかつに手を出せずにいるんだろう。


「『シュヴァルツヴィント』!」


 だからこそ、魔法で対処することにしたようで……黒い風がフォヴィに吹き荒れて、彼女の身体を斬り刻む――のだけれど、それに対して『ヒートヘイズ』が発動して、周囲に炎が撒き散らされる。


 あの魔法は一度きりだ。

 一回発動したら、再度唱えなおさなきゃならないんだけど……それを許すような男じゃないだろう。

 だけど、それが彼の隙になる。


「はあぁっ!!」


 思いっきり意気込んでアリュウズは攻撃を仕掛けてきたけど、今が好機だ。

 彼はここであたしの魔法が飛んできたってたかが知れていると思っていることだろう。

 だからこそ、今までしなかった連携が生きる――!


「『ヒートヘイズ』!」


 アリュウズがフォヴィの剣を弾いて、その隙をつくように剣撃を浴びせようとした瞬間を狙って、『ヒートヘイズ』を放つ。

 元々自分と念じた相手に向かってかけることが出来る魔法だし、こういうことだって出来る。


「ちっ……!」


 完全に間に合わないと判断したのか、アリュウズは一切勢いを殺さずにそのまま振り抜いて……斬殺されるはずだったフォヴィの代わりに周囲にばら撒かれるのは、炎の渦。


 いくら頑強なアリュウズでも『ファイアランス』なんかとは比べ物にならない炎が襲いかかれば、彼もひとたまりもないだろう。

 なんとか後ろに下がってはたくように炎を消すのだけれど、それでも身体中に火傷をしている。


 フォヴィがそれを見逃すはずもなく、痛手を追っているアリュウズに向かって果敢に挑んでいく。


「ちっ……」


 あたしの方はいつでもアリュウズの隙をつけるようにフォヴィとは違って後ろに付くように意識しながら戦いを続けていく。

 それ嫌うかのように時々魔法が飛んでくるんだけど、そんな散発的な攻撃じゃ、あたしは捉えられない。


「『ダークスフィア』!」


 アリュウズが今度は空中に黒い……闇色の球体が出現して、一瞬だけそれが収縮して――周囲に風と衝撃を巻き起こしながら球体は全てを飲み込むかのように一気に膨張する。


「くぅっ……」


 思いっきり風と衝撃波を浴びて、あたしは吹き飛ばされてしまう。

 その隙をついてアリュウズはこっちに間合いを詰めて……咄嗟に防御したんだけど、間に合わずに右胸よりもやや下の方に、彼の豪腕が深々と突き刺さる。


「がふっ……」


 口から全身の空気が抜け出るかと思った程の衝撃が襲いかかってきたけど、それ以上のものが出なくて良かった……。

 なんて馬鹿なことを考えていると、あたしが思わず落とした『猫愛限界突破剣(キャリッツ・オーバー)』を握りしめ、地面に這いつくばってるあたしに向かって振り上げていた。


「フ、フラフひめさま!」

「お前は引っ込んでろ! 『マリスハウンド』!」


 あたしに確実にトドメを刺すために、妨害されないようフォヴィに黒い狼を放って足止めをしている。

 その間に……一応武器が奪われた時用に持っていた短剣を握りしめて、アリュウズを睨みつける。


 こうなった以上……あたしの方も覚悟を決めるしかない。


「この状況でも戦意を衰えせないか」

「往生際、悪いから」

「だが、これはもう覆しようがないだろう」


 確かにそうかも知れない。

 でも、あたしは……昨日の自分を超えるって……誓ったんだ!


「せめて……一緒に死んでもらう!」

「やってみるんだ……な!」


 ティファリスさまが託してくれたはずの『猫愛限界突破剣(キャリッツ・オーバー)』が鋭く煌めいて……あたしはアリュウズに向かって刃を突き立てるべく、短剣を前に突き出した――。






 ――






 目を閉じて様子を伺っていたけど……重たい一撃を左肩に受けたくらいだ。

 うすうすと目を開けてみると、あたしの短剣はアリュウズの胸の核に突き刺さっていて、『猫愛限界突破剣(キャリッツ・オーバー)』は……ずっしりとした重さを肩に与えるだけに留まっている。


「な……に……?」

「え?」


 思わず目をぱちぱちとしてしまったけど……どうやらあの剣はアリュウズが使っても全くのなまくら……。

 むしろ彼本来の力を発揮できず、あたしが堪えることが耐えることが出来る程度にまで下がっていた。


「ふっ……はははっ……なるほど、事ここに及んで、自分の武器を信じずに捨てた俺に、天は見放したか」

「違う」

「……?」

「あたしは最後まで諦めなかった。それだけ」


 アリュウズは自身の勝利を確信して、油断を見せた。

 あたしは、最後の最後に昨日より強くなった今日の自分を信じた。

 その差だ。


「ははっ……じゃあな。小さな銀色の狐よ。

 中々楽しかった……ぜ……」


 満足そうな笑顔を向けたアリュウズは、糸が切れた人形のように動かなくなってしまった。

 あたしは『猫愛限界突破剣(キャリッツ・オーバー)』を再び握りしめて、自分の身体の調子を見る。


 なんでかはわからないけど、どうやらこの剣はあたし以外が使っても大したことはない……というよりも弱くなるみたいだ。

 ティファリスさまに詳しい事を教えてもらってないから今みたいな破れかぶれの運頼みの戦法は取れないけど、アリュウズみたいなのがそう何度も現れるとも思えない。


 しばらく身体の怪我を見ていたけど……うん、大丈夫だ。

 回復魔法で傷を癒やしながらなら、まだ戦える。


 フォヴィの方も回復魔法でしっかりと治療すれば、また戦えるようになるだろう。


 さあ、まだ戦いは終わってない。

 ティファリスさまの為に、仲間と……銀狐族のみんなと一緒に生き残るために……。


 ――あたしは、再び戦場を駆け出した。

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