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聖黒の魔王  作者: 灰色キャット
第1章・底辺領土の少女魔王
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28・魔王様、頭を抱える

 まさか……まさかの不安が的中した。


 アシュルたちと分かれて数時間後、私達はくまなく城内を捜索した。

 オーガルの子どもなんかも出てくるかもしれないとか思ってたけど、別にそんなこともなく……というか本当になにもない。

 宝物庫だった場所も行ってみたけどまるで荒らされたかのようにめちゃくちゃにされていていた。幸いそれなりにお金になりそうなものはあったけど、国のお金として考えれば微々たるものだ。結局ほとんど使われていたに等しい。


 オーガルが使っていた寝所は酒樽やら料理の皿。それと男のまあ……アレの臭いやら汗とか酒とかの臭いやらが充満してて、思わず全て燃やしてしまいそうになったのをオウキになんとか止められた。

あまりの悪臭が私が住んでいただろう城に充満させられていた腹いせに、思いっきりオーガルを蹴り飛ばしていたのをなだめられた記憶がある。

 あのバカが使っていたところは、確かお父様の部屋だった。それがどこかの低俗な盗賊の穴ぐらみたいな場所とほとんど同じような状態にされてるんだから腹も立つ。


 ……あれ? 私なんでお父様の部屋なんか知ってるんだろ?

 まあいいか。きっと誰かに聞いたのかもしれない。


 しっかしあの豚、本当に魔王と呼ばれるような国を治める人物だったのか? どう考えても賊の頭その一にしか思えなくなってしまった。


「もういや……」


 思わずそんな言葉がついて出るのは仕方ないことだと思う。いくらなんでもこんなのあんまりすぎる。

 ほんの数時間前の、ゴミ掃除だとか今まで溜め込んでたお金をこちらに吐き出してもらおうとか…そんなことを少しでも考えてた自分の浅はかな考えを消し飛ばしてやりたい。


 なんにも残ってないじゃないか! 国の運営とかどうなってんの!? なんでこんな状況で国家としてなりたってたんだ!?


 と思わず頭を抱えてへたり込みながら叫びたくなるような衝動をこらえるように身体を震わせる。


「ここまでなにもないといっそ清々し……いやなんでもござりませぬ」


 苦笑しながらはっはっはといった様子のオウキを一睨みで黙らせる。そんな他人事のような感想は、今の私の心を荒ぶらせるだけだ。


 せめて、せめて他になにかないかと、願うように探索を続ける私達だったけど、もうさっきの期待感なんて皆無だった。







 ――







 それからアシュルやフェンルウたちとも合流してお互いの戦果を報告しあう。


「こっち側は目立つような人は、誰もいませんでした」

「自分たちもさっぱりっすね。ここまでなにもないと返って不気味っすね」

「にゃーたちのところには誰もいませんでしたミャ。ただ……」


 それぞれが報告してる最中にケットシーが言おうかどうしようかと口ごもってしまう。

 よほど言い辛いことでも起こったのかな?


「どうしたの? 遠慮せずに言ってみて?」

「は、はいですミャ! えっと、壁に大きな穴が空いてまして……誰かが通ったような跡がありましたミャ」

「……それって、馬車とか?」

「違いますミャ。大きいって言っても高さはちょっと背の高い魔人族の男の人くらいですミャ」


「んー……横に大きいってことね」

「はいですミャ。数人くらいなら通れるかと思いますミャ」


 数人……私達がここに来るまで掛けた日数が十日ってことは……


「もしかして、アイテム袋で全部持っていかれた?」

「可能性はあるっすけど、七日で全部やれるほどのことっすかね? あれは所有者の魔力で大きさが決まるっすし、他人に渡しても使用することはできないっすよ?」

「だけどそれ以外に金品に関するものがなにもないっていう、今の状況を説明できるものはないわ。

 アイテム袋にしまうことくらいそう手間のかかることでもないし、七日と言わず五日も集中してやれば可能でしょう」


 この状況を作ってくれた犯人なんて黒ローブの背後にいるやつに違いないんだろうけど、すぐにそんなことはどうでもいいことに気付いた。

 そんな先のことよりももっと深刻だったからだ。


「……そう考えるなら、この街にはお金に変えられるものはほとんど残ってないってことになるわね」


 事はつまりそういうことだ。残されたのは貧民街で苦しい生活をしてる住民たちに、このわけのわからない建築物の建ってる市民街みたいななにか。それと賊のねぐらと化している元・私の城だ。


 これはもう完璧に嫌がらせだな。貧民街以外の住民たちは恐らく逃げ出したか始末されたか……なんにせよ、いない人たちのことを考えても仕方ないだろう。

 問題は……


「こんな状態じゃ、この街の復興は当分無理っすね」

「リーティアスから物資を回してもですか?」

「貧民たちをこっち側に住まわせて外側から少しずつ片付けるにしても先立つものがないとねぇ。

 まずエルガルムが支配してた領土の掌握も必要だし、そこから使えそうなところに優先的に人を回して予算割り振って……とにかく国として利益を上げていかないとここの復興はままならないわね」


 セツオウカにオーガルを届けに行く必要もあるし、そうなればセツキ王とも話し合いの場を設けることにもなる。

 まずい……やることが多すぎて私の安らぎの時間がノンストップで削られていく音がする。


「全く、息つく暇もないとはこのことね。この調子じゃ終わるのが先か過労で死ぬのが先か……」

「ティ、ティファさま死んでしまうんですか!?」

「たとえばの話だから。そんな大げさに騒ぎ立てないでちょうだい」


 とは言っても、これ以上事態がややこしくなると本当に倒れるくらいは有り得そう。

 今まではしてなかったけど、回復魔導でも使いながら誤魔化しながらやるしかないな。


「それじゃティファリス様、ここ……というか向こうの住民はどうするんですかミャ?」

「とりあえず食料を配給して、全員連れて行くしかないわね。ディトリアに連れて行けば働く場所も与えられるし、しばらく国が支えてあげればまともに暮らしていけるようになるでしょう。

 今までどう生きてきたのかは知らないけど、ここに残したって飢えて死ぬくらいしか道はないだろうしね」


 現状できるのはそれが精一杯だろう。

 ここを半ば捨てることにはなるけど、それでもいずれ必ず復興させてみせる。


 だから今は……今は許して欲しい。






 ――





 貧民街側に戻ってきた私達は、アイテム袋のおかげで現在進行系で炊き出しを行うことにした。ゴブリンの方はロクに料理が出来ないから、仕方なく私の他にケットシーとフェンルウを中心に作ることになってしまった。

 ケットシーはともかく、フェンルウが料理出来たのは意外だったけど


「自分、独り身っすから。気が向いたときだけっすけど作るっすよ」


 とか言ってたな。

 独り身って魔王の契約スライムだろう……とも思うけど、それ言ったら私は魔王そのものじゃないか。

 なんで私が料理してるんだろうね。まあ、嫌いじゃないからいいんだけど。


「本当にこの袋便利ねー。相当色々詰め込んだはずだけど、まだ入りそうなんだもの」

「ティファリス様の持ってるアイテム袋が異常なだけっすよ。なんっすかその容量」

「普通は何個かに分けて持ち運ぶものですミャ……」


 フェンルウとケットシーが呆れた目でこっちを見てるけど、私は自分の以外はリカルデのものしかわかんないから、普通のってのがよくわからない。

 そりゃ500人が二ヶ月くらい食べられる程度の食料入れても余裕があるアイテム袋が普通はないことくらいはわかるけどさ。


「ティファさまー! 人集めてきましたー!」

「はいご苦労さま。よくやったわね」

「えへへ」


 炊き出しを始めたのはいいんだけど、人が全然近寄ってこないのが問題だった。

 狙うような、怯えるような…こちらに近づくのをためらってるような雰囲気がある。

 仕方ないからアシュルに人を集めてもらって、直接配ることにした。


「あ、あの……なにか…」


 ぼろぼろの服にちょっと汚い格好の男性がおどおどとした様子だけど、意を決して私に話しかけてくる。


「見ればわかるでしょ? 炊き出しよ。誰も来ないからこっちから声かけて回ってるの」

「で、でも……そんなことすれば……」


 ちらっと見るのは城の方だ。どうやらオーガルやあそこで暮らしていたやつらのことを気にしているみたいだ。

 私達がオーガル引き連れてるのに、なんで誰も気づかないのかな? あれか、ぐるぐるに拘束してる上に口も封じてるから全くわからないってことか。


「大丈夫よ。貴方がここでご飯を食べても誰も何も言わないわ。だから他のみんなにも知らせなさい。ほら」


 私が差し出したシードーラの肉と、一度炒めてから煮ることによってほのかな辛味を残したルオンが入ったスープの器を受け取った男の手がどことなく震えてるのがわかる。

 それを興味深げに見る周囲のことが見えてないかのように器の中身と私を交互に見てる男。


「ちょっと、早く食べなさいよ。こういうのはね、温かい方が美味しいんだから」

「は、はい」


 意を決した様子で恐る恐るスプーンを手に取り、口に運んで味を確かめたかと思うと、涙ぐみながら勢いよく食べはじめる。


「どう?」

「お、美味しいです! すごく……」

「そう、それは良かったわ」


 嬉しそうで何より。作ったケットシーも聞いたら喜ぶだろうな。

 ちなみに私のはアシュルが「ティファさまの手料理……初めての手作り料理……」とか言ってたから最初に食べさせてあげたら感激してたような気がする。


「あ、あの……」


 男の様子を見た小さな女の子がいつの間にか近くまで来ていて、私の方を見上げている。


「あたしにも、もらえるの?」

「ええ。今用意してあげるから少し待ってなさい」

「……うん!」


 嬉しそうに笑顔を浮かべる女の子にスープを渡したことをきっかけに、今まで遠目に見ていた人たちが続々と押し寄せてきた。


「アシュル、フェンルウ! ゴブリンたちを率いて順番に並ばせてあげて!」

「はい!」

「わかりましたっす!」


 それからの私達は、第二の戦場と化した貧民街で激闘を繰り広げることとなった。

 止まらない人々、少なくなっていくスープ、大急ぎで作っていく私たち……。


「おかわりしたい人はまた最初っから並んでくださいっす! たくさんあるっすから、喧嘩しないでくださいっす!」

「そこ、こっそり二杯貰おうとしちゃダメですよ! 他にもお腹空いてる人がいるんですから順番です! 早く受け取ってください!」


 二人とゴブリンたちが一生懸命誘導してくれたおかげでこちら側にはそんなに大きな混乱はなかった。

 スムーズに街の人々にスープが行き渡ったのはいいけど、気がついた時には既にとっぷりと日が暮れていて、仕方なく今日はここで一夜を明かし、翌日に人々を引き連れてディトリアに帰ることになったのだった。

次の投稿は9月24日予定です。

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