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聖黒の魔王  作者: 灰色キャット
第10章・聖黒の魔王
299/337

278・銀狐、聖なる黒の一族に出会う

 あたしが斬り伏せ、フォヴィがたまたま見つけてくれたユーラディス兵の攻略法は左翼に徐々に広まっていって、次第に戦況はこっちに有利に傾いていった。


 銀狐族の兵士たちは他の種族の兵士と連携を組んで、支援を行いながら次々と敵を倒してくれていっている。

 あたしも負けじと『猫愛限界突破剣(キャリッツ・オーバー)』で向かってくる敵を次々と斬り伏せていく。


 なんというか、これってとてつもない名剣だったことを知って、驚きを隠せない。

 最初は猫人族に好かれることの多いあたしのために作ってくれた、きちんと使える装飾剣かなにかかと思ってた。


 それがまさかたったのひと振りでどんなものも斬ってしまうような代物だったなんて……。

 自分で扱っててちょっと怖くなってきた。


 だって、これって下手をしたら自分のところの兵士たちにも被害を与えることになるかも知れないんだもの。


「このぉっ!」

「な……が……」


 今もまた一人、剣で防御していた敵兵をそのままスルッと軽い手応えを感じたくらいで……簡単に斬り落としてしまった。


 一撃を防ごうとしていた剣が、ゆっくりとズレるように下に落ちていって、その兵士の体と一緒に地面に崩れていった。


「す、すげぇ……」

「お前ら! 姫様につづくにゃー!」

「「「ニャーーー!!!」」」


 あたしがまた一人、敵を倒したこと知った兵士のみんなは一斉に気合の入った掛け声で自身を奮い立たせて、より一層戦意を高めていく。


 右翼の魔法が飛び交うような華やかさはないけど、左翼の地上部隊はしっかりと一歩ずつ歩いていく力強さがある。

 あたしとフェーシャ王じゃ差がありすぎるから、それを除いて……だけど。


 ついでに空の方は気にしないことにしてる。

 今もなんだか恐ろしい轟音が響き渡ってるけど、それは全部レイクラド王とフレイアールの仕業だから。


 竜人族の指揮をあたしに託して、自分はさっさと戦いの中に身を投じていくんだもの。

 一応契約スライムのライドムを総指揮官として残してくれてはいたけど、随分勝手なことをしてくれたものだ。


 ……まあ、その御蔭で向こうの空を飛んでる敵は全員倒してくれてるんだからあまり文句は言えないんだけど。

 というか、あの二人……他の陣の空の戦力にも手を出しているように見える。


 戦果を挙げてるし、あたしよりずっと強いから文句なんて言えるわけないんだけど。


「フラフひめさま、向こうの方が騒がしくなってる」


 フォヴィがなにか見つけたようで、あたしの方もそっちに視線を動かす。

 すると爆発音と共に大きな煙が立ち込めていた。


「あっちは……」


 確か竜人族の兵士たちが中心になっている方面だ。

 言われてみると、少し騒がしいような気がする。


「フォヴィ、行ってみよう」

「うん、フラフひめさま!」


 あの騒ぎよう、ちょっと尋常じゃないような気がする。

 一応、あたしもこの軍を任せられてるんだし、騒動の芽は早めに摘んでおかないといけないだろう。






 ――






 竜人族のいる方面で起こっている揉め事の原因は一人の男が原因だった。

 魔人族……にしては少し大きくて体つきもいい。


 短く整えられた鮮やかな漆黒の髪はとても綺麗で、白銀の目は二つの満月のようにも見える。

 それは多分、彼の着ているのも光沢を帯びた真っ黒な鎧だからなのだと思う。


「……あれは」

「てぃふぁーさまが言ってた聖黒族……かな」


 多分そうだろう。

 ティファリスさまから事前に聞いた話では、ヒューリ王率いるユーラディス軍は複数の聖黒族を抱えてる可能性がすごく高いって言ってた。


 たまにこんな髪色と目をしている魔人族の兵士は見かけるけど、そのどれもが強い……ってわけにも見えなかった。

 絶滅した種族と言われていたはずの彼らが、死を乗り越えて生き返った兵士になったというのなら、かなり強いはずだ。


 一人一人が鍛え上げられた兵士だと思うのならば、なんらかの違いがあるはず……そう考えていたのはどうやら大当たりだったのかも知れない。


 この男は明らかに今までの兵士たちとは纏っている雰囲気が違う。

 研ぎ澄まされた刃のような……触れたら切れそうな程の気圧されそうなプレッシャーを放ってる。


「なんだ。この程度か」


 ブン、と片手に握った剣を無造作に振り下ろして地面に突き刺す。

 それは分厚く無骨な剣で、普通の剣より少し長いように見えるそれは、つばと剣身がほとんど同じように見える。

 細身の身体だと大きすぎるようにも見えるその剣は、その男が持つとぴったりとフィットしているようにも見えた。


 周囲で倒れているのは竜人族の兵士たちで、その中の何人かは生きているようにも見えるけど……ほとんどが頭を砕かれたり、首の骨を折られたり……どうにも剣で斬られた、というよりも何かで磨り潰すような攻撃を受けたようにも思える。


 倒れてる兵士たちの周囲では、警戒するように竜人族の兵士がその男を囲っているけど、手を出せずにいるようだった。


「……どうした! 誇り高き竜人族が、その程度か!」

「うおおおぉぉぉぉぉ!!」


 一人の兵士が腕に装着していた盾を前面に構えて後ろの方に剣を隠し、男めがけて突進する。


「そうでなくてはな!」


 男は愉快そうに笑って、兵士が自分の元にやってくるのを悠然と待ち構えて……自身の間合いに入ったと判断すると、男はその剣を片手で軽々と振り上げて、兵士の盾に向けて振り下ろした。


「ぐっ……くっ……」


 竜人族の兵士はそれを盾で受け止めた……んだけど、あまりに重いその一撃は、盾をやすやすと打ち砕いて、更に腕にも嫌な音が響き渡る。


 いくら他の種族よりも治りやすい竜人族って言っても、骨が折れたら簡単には元には戻らない。

 少なくとも一度引いて、回復系の魔法で治療を受ける必要がある。

 つまり……彼は目の前の男を倒すために、片腕を犠牲にして向かっていったということだ。


「ふははっ、その勢いや良し! 実に滾る!」


 歯を剥いて笑った男は、そのまま強引に力を込めて兵士の腕を――肩の骨ごと砕いてしまった。

 くぐもった声で痛みを堪えているように見える兵士は、それと引き換えだと言うかのように鋭く、素早い突きを繰り出していく。


 ――ギンッ!


 だけど、それは……男の黒い鎧、その腕の部分に見事に防がれて、乾いたような金属音だけが辺りに響き渡った。

 一瞬の攻防。それが男と兵士の明暗をはっきりと分けた。


 傍観者で……今はもう間に合わないあたしは、せめて竜人族の兵士である彼と、その男の姿を見守るだけだった。


「誇り高く逝け……! 俺と真っ向からやりあったこと……それこそ貴様が真の勇士の証となる!」


 男はそれだけを口にすると、もう一度……その剣を無造作に振り下ろし、今度は兵士にトドメを刺した。

 咄嗟に剣を引いた兵士は、防御することが間に合わず……鈍い音が響き渡って、頭の骨を砕いてしまった。


 どさっとそのまま倒れ伏してしまった兵士を見てしまった他の兵士たちは、また一歩下がって、その男への警戒心を募らせるだけだった。


「フラフひめさま」

「わかってる。ここは……あたしが行くしかない」


 他の誰でもない。

 今この場であの男に対処できるのはあたしとフォヴィしかいないだろう。

 ……いや、あたしでもあんな重そうな一撃を受け止めきれるとは思えないけど、少なくとも精強で有名な竜人族でも持て余す相手を、他の種族の兵士たちに任せる……っていうのも荷が重すぎる話だろう。


 ……仕方ない。

 あたしの方も覚悟を決めて男に向かってゆっくりと歩み寄っていく。

 明らかに普通の兵士の強さの枠を超えた男を止めるために。

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