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聖黒の魔王  作者: 灰色キャット
第10章・聖黒の魔王
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275・優れた猫は諦めない

 キーシュラとの戦いはどんどん苛烈を極めていったにゃ。

 というよりも、ぼくはなるべく距離を取りながら魔法を駆使して追い詰めていこうとしているんだけど、この元上位魔王のキーシュラ、ものすごい身体能力なのにゃ。


 ぽんぽん飛んで魔法や魔導を避けて、ぼくに接近してくるのなんて、ちょっと恐怖を感じたくらいなのにゃ。


「ははっ! 楽しいねぇ。こんなに楽しいのは、いつぶりだろう?

 君もそうだろう?」

「ぼくはちっとも楽しくないにゃ! こっちくるにゃ!」

「あははっ、駄目だよ。戦いは楽しまなきゃね。

 相手に最大の敬意を払い、全身で戦い、実感する。

 それが人生を楽しく生きるコツだよ?」


 そんなコツ、聞いたことないにゃ。

 このキーシュラって鬼……えと、鬼神族は戦いに喜びを見出してるって言うより、心底楽しんでるように見えるにゃ。


 それは多分、自分が死ぬことになっても揺らぐことのない、彼の生き方なんだろうにゃ。

 気持ちはわかるところもあるにゃ。


 強い相手と戦うのは楽しいにゃ。

 その相手に勝利をするのは気持ちがいいにゃ。

 魔王っていうのは多かれ少なかれそういう気持ちを持ってるのにゃ。


 それはぼくだって例外じゃないのにゃ。

 まあ、あのガッファ王との戦いでは喜びもなにもあったものじゃないけどにゃ……。


 ぼくが楽しめるのは、やっぱり周囲に犠牲が出ないときだけかにゃ。

 誰かを巻き込んで、それでも戦いを楽しむことが出来るほど、ぼくも酔狂じゃないってことにゃ。


「『ガンブレイズ』!」

「うおっと」


 ガッファ王が出したものよりも太い熱線のような魔法が出現してきたにゃ。

 ぼくの目から見ても、当たれば一瞬で灰燼に消えるだろうと思えるほどの魔法に、キーシュラはなんの躊躇もなく飛び込んで、するりと躱していったにゃ。


「にゃ……!?」

「俺がその程度でやれると思ったら……大間違いだ! 『風風(ふうふう)・風神一刀』!」


 ぼくの気が逸れた一瞬。

 キーシュラは鬼族の魔法を唱えたかと思うと……姿が消えてしまったのにゃ。

 ものすごく不吉な予感がして、杖を盾にするように構えて飛び退るように身を引くと……握りしめていた杖から強い衝撃が走ってきたのにゃ。


「にゃ……にぃ……!?」

「ははっ、鬼族との戦いは初めてか? もう少し楽しみなよ。戦いをさ!」


 完全にキーシュラの間合いに入られてしまったぼくは、息もつかさぬ槍撃の嵐に耐えきれず逃げ出そうとしたにゃ。

 だけど彼は持ち前のステップを踏むような動きで踊るようにぼくを逃さず、短槍を持つかのように槍を短く持って、いくつもの鋭い突きを見舞ってくるにゃ。


 圧倒的な運動量でぼくを攻めてくるのに、必死に追いすがるようにぼくは身体にいくつもの切り傷を作ってしまうにゃ。


「くっ、はっ……『クイック』!」

「ん? なるほど、それなら……『風風(ふうふう)・風神一刀』!」


 この距離を取ることが出来ないもどかしさ。

 ぼくが瞬間的に加速して引き剥がそうとしても、相手は更にそれを上回る速さで迫ってくるんだからにゃ……。


 どうしたもんかと思っていたら……ふとガッファ王のことが頭の中によぎったにゃ。

 確かに、彼の戦い方ならぼくも出来るにゃ。


 でもそれだけじゃ足りないにゃ。

 なら、どうすればいいにゃ? 答えは最初から決まってるにゃ……イメージすればいいにゃ。


 ――誰よりも疾く、風より……光よりも速く! どんなものにも負けない速度で……!


「『アクセーション』!」


 魔導を唱えた瞬間、ぼくの身体はなにかが渦巻くような感覚がして……それが一気に爆発してしまったにゃ。

 キーシュラの『風風(ふうふう)・風神一刀』を超えるほどの速度を叩き出してぼくは彼の速度に追いついて……咄嗟に近づいて攻撃したにゃ。


「へぇ……そんな魔法があるなんてな!」


 一瞬驚きの表情を浮かべたかと思うと、満面の笑みでぼくを迎えってきたにゃ。

 今のぼくはいうなれば常に『クイック』を発動し続けているような状態。

 もちろんあの魔法の連続使用のように過度な負担を強いるような魔導じゃないけど、それでもこの負担を強いるような加速は、ぼくのイメージ不足のせいだと思ったにゃ。


 それなら……一気に状況を変えなきゃならないにゃ。


「はぁっ!」

「ははっ、近距離での戦いを……この俺に挑むのかいっ!?」


 ぼくは『グリジャスの杖』を短槍のように持ち替えて、キーシュラの槍撃を迎え撃つことにしたにゃ。

 一応、この杖の先端には刃が付いているし、そういう訓練もしてきたにゃ。


 ……もちろん、杖術の方が主体だったし、ぼく自身が魔法での戦闘が得意という面も考えると、キーシュラの槍術に比べたら明らかに見劣りしてしまうにゃ。

 それでも……今、彼の隙をつくなら……こうするのが一番なのにゃ。


 躱し、突き、薙ぎ払い、掠めながらぼくはなんとか彼の攻撃を防いでいったけど……受けてる本人が思うのもなんだけど、なんという槍捌きにゃ。


 ぼくが一撃を繰り出そうとしている間に、彼は多角的な攻撃を放ってきて、『アクセーション』でも『風風(ふうふう)・風神一刀』状態のキーシュラにぎりぎり対応することくらいしか出来ないにゃ。

 逆に……そういう補助がないときならぼくの方が有利……なんだけど、彼もガッファのように高速戦闘が出来るようで、立て続けに同じ魔法を放って、ぼくに突撃を敢行してくるのにゃ。


 見事な槍捌き。

 そしてぼくの攻撃を軽々とあしらえるほどの身体能力。

 近接戦はどうあがいても彼に分があって、例え『アクセーション』をより高次元に昇華することが成功したとしても、所詮付け焼き刃。


 どんなに加速でキーシュラを上回ってしまっても、技術で劣っている限り隙を突かれてしまうことが明白にゃ。


 だからこそ……ぼくの魔法を恐れないほど彼が自身の体術・技術に絶対的な自信を持っているからこそ、そこに隙があるのにゃ。

 何度目かの攻撃……彼の『風風(ふうふう)・風神一刀』の効果が切れた瞬間を狙って、ぼくは一気に距離を取ってから『アクセーション』の効果を解除したにゃ。


 すると……少しだけめまいがして、吐き気を催してきたのにゃ。

 ぱぱっとした簡単なイメージで創り出した魔導……反動がこれだけ来るのはきついものにゃ。

 もっと鮮明に、壮大に考えなきゃならないってことだろうにゃ……。


 だけど――


「ここで負けたら……カッフェーに合わす顔がないのにゃ」


 ガッファ王との戦いのとき、未熟なぼくはカッフェーを失ってしまったにゃ。

 あのとき、ぼくにもっと力があれば……魔導をきちんと使いこなせていれば……。


 今でも後悔しているにゃ。

 だからこそ、今ここで負けるわけにはいかないのにゃ。


 ぼくが……あの日の後悔を二度としないために。

 カッフェーを失った過去を決して無意味にしないために……!


「はっ、距離を取ってきたか。

 まあいいさ、またすぐに詰めてやるよ」

「……いいや、もうぼくの間合いには入れないにゃ」

「……なに?」


 ――カッフェー。

 今のぼくは君の誇れる魔王であるのかにゃ?

 ぼくは……君の強さを守っていられるのかにゃ?


 多分、今のぼくにはわからない。でも……


「いつの時代でも、先を行くのはぼくたち新しい世代の魔王なのにゃ。

 キーシュラ、君に教えてあげるにゃ。

 ぼくたちは……過去の亡霊なんかに決して負けはしないってことをにゃ……!」

「ははっ、よく言った! なら見せてもらおうか!

 その負けない気概ってやつをな!」


 獰猛そうな笑顔を見せたキーシュラに向けて、ぼくは杖を突きつけ、精神を集中させたにゃ。

 ……そう、見せてやるにゃ。


 ぼくの……いいや、ぼくらの、力を。

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