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聖黒の魔王  作者: 灰色キャット
第1章・底辺領土の少女魔王
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26・魔王様、戦いの幕を降ろす

 以前見たときよりも一回りほど大きくなったその身体に、狂気に満ちてギラついた目がまっすぐ私を射抜き、荒い息を吐きながらこちらを見ている。


「随分な変わりようね。アールガルムの魔王様」

「グルルルルゥゥゥ……」

「なにを言っても無駄ですよ。魔法の影響で彼は狂気の中に身を――」

「お前は黙っていなさい」

「なっ…………!」


 お前程度の雑魚に意見は求めていないと言わんばかりの視線を向けて黒ローブを黙らせ、再びジークロンドと向き合う。


 さて、どうしたものかしら。

 ジークロンドの姿は……というか雰囲気は以前感じていた知性を宿した王というよりも野生の獣のソレに近い。

 恐らくフェーシャと同じように操った後で、何か強化を施しているんだと……思う。黒ローブの言うことを聞かないのであれば狂化という線も考えられたんだけど、ジークロンドは明らかにやつの言うことに従ってる。

 ただ単に狂わせただけではこうはならないだろう。


「仕方ないわね。ちょっと痛い目に遭ってもらうわよ? これも貴方の自業自得というものよ」

「くっくっくくく…痛い目に、ですか……。この男はオーガルなんかよりずっと強いですよ?

 先程の随分と楽に倒せたからといって、今回もそうとは思わないことですね」

「はぁ……」


 こいつもオーガルと同程度の知能しかもってなさそうで思わずため息がもれた。

 さっきの戦いを見てなんでそういう考え方が出来るんだろうかと疑問を抱かざるをえない。

 あれはもう楽に倒せたとかいうレベルの話じゃなかったはずだ。


「行け、ジークロンド! その女を捕らえろ!」

「グオオオオオォォォォォォ!!」


 時間稼ぎが捕獲に変わってる黒ローブの指示で雄叫びをあげ、こちらにまるで風のように走ってくるジークロンド。

 その様子は、以前決闘で戦ったときよりも格段に速くなってる。とはいえ追いきれない程のものではない。


「『ガルグルゥゥゥオオォォ』!!」


 ジークロンドの唱えたと思われる魔法は私の頭上に風の塊を出現させ、押し潰そうとしてくる。

 見えづらく奇襲性の高い攻撃で先制しようというのはいい考えだけど、魔導とは魔力の流れを操るものが使える魔技だ。これくらいの感知能力がなければ魔導士とは呼べない。


「これはお返しよ!」

「グルルルル……ガアアアァァァ!」


 剣で斬り裂こうとする私に対し、爪で応戦するジークロンド。

 つばぜり合いのような形になった私達だけど、それを嫌ったジークロンドはすぐに手を引っ込め、代わりと言わんばかりに回し蹴りを放ってくる。

 それを見た私が避けようとバックステップを取った瞬間、かかとになにやら魔力を込め、それを爆発させたような音がしたと同時に蹴りのスピードが爆発的に加速した。

 こういう使い方は予想外で多少反応が遅れてしまう。ギリギリだがかわせないほどのものじゃないし、かろうじて避けることには成功する。


「グルガオオオオオオオオォォォォォォ!!」


 そのまま息をつく暇も与えないとばかりに、ジークロンドお得意の『衝動の咆哮(シェイクハウリング)』が飛んでくる。

 これもまた以前の決闘の時とは違い、威力も範囲も比べ物にならないほど上がってるようね。

 回避することも容易い。が、向こうも私が避けようとすることを見越しているだろう。恐らく何らかの攻撃を仕掛けてくるのではないかと思う。


 ならば、私は敢えてそれに乗ってやろう。真正面から打ちのめしてやらないと気が済まない。

 思いっきり左に回避した直後、着地点を予測したかのように、再び頭上から先程と同じ魔力を感知した。


「なるほど、動いてる最中にその攻撃は中々避けられるものじゃないわね」


 それが普通の人なら、だけどね。

 私は魔力を剣に纏わせ、頭上に襲いかかろうとしている風の魔法を斬り捨て、そのままジークロンドの方を見据える。


「中々やるようになったじゃない。だけど……」


 ジークロンドの方も私の様子を伺うかのようにじりじりと詰め寄るように動き、攻撃のチャンスを狙ってるみたいだ。


「どうです? これが今のジークロンドの実力ですよ。

 さすがの貴方も手を焼くのではないですかな?」


 私達の動きを見て、黒ローブが楽しげに話してくる。

 なんでお前が自慢するように話してるんだとも思うけど、こんなものは実力でもなんでもない。

 ただお前たちに頭を空っぽにされて無理やり強化させられただけだ。


「……愚かね」

「なに?」

「こんなものを力と呼ぶお前は愚かだと言ったのよ。

 まさかなんとかなるなんて思ってないでしょうね?」

「く…くっくっく、ええ、思っていますよ。

 ほら、これならどうですか!」


 黒ローブが魔力を集中させると同時にジークロンドが体勢を低くして、一気に地を蹴って私に肉薄する。

 どうやら役割分担をすることで効率的に私と戦おうとしてるみたいだけど、それが通じるかしらね。


「『マジックミュート』」


 ジークロンドがこちらに迫ってくる直前に黒ローブにめがけて先程のやつの『ブースト』を打ち消した魔導を放つ。

 そのまま迫ってきたジークロンドを迎え撃つように剣を構える。


「グルルルルゥゥゥ………グルガオォォォォォ!!」


 爪を振りかぶり、手の甲に魔力を宿しながら私に向かって思いっきり振り下ろしてくる。

 さっきの回し蹴りと同じ要領で、一気に加速させてくるつもりだろう。


「あまり私をみくびらないことね!」


 こんなものは単純でいい。私の攻撃が、ジークロンドの爪撃よりも素早ければ何ら問題ない。

 魔力を爆発させてスピードをあげようとも、無駄なことだ。


 だって――。


「――そんなもの意味がないくらい、私は強い」


 ジークロンドの爪を振り切るより速く、私の剣が彼の腕を捉え、そこにあったものを斬り飛ばす。


「ガアアアァァァァ!!!」


 痛みのあまり血を辺りに飛び散らせながら腕を振り回してるジークロンドに対し、一気に駆け寄りながら残された腕・両足を立て続けに断ち斬り、魔法以外の行動する術の全てを封じる。


「貴方もこれで大人しくしていなさい。『チェーンバインド』!」


 魔力の鎖はジークロンドの切り口締め付け、血の流れを止めるように拘束し、その魔力を糧として縛り上げた。


「さて……これで残ったのは本当にお前だけになってしまったわね」

「くっ……くそっ……」


『マジックミュート』で無意味なことしていた黒ローブは、なにがやりたかったんだろうか。


「情けないわね。結局なんにも出来なかったじゃない」

「な、なぜだ! ジークロンドとあれほどの戦闘をしている最中……しかもあのように軍を焼き払うほどの強力な魔法を使用している事も考えれば、この私を気にする余裕などないはず!」

「お前も本当にバカね。オーガルと同程度もいいところよ」

「な……んだと…!」

「お前にあの戦闘がどう見えてたのかはしらないけど……」


 思わずため息を付きながら呆れた目で黒ローブを見つめる。


「あの程度の魔導で私の魔力がなくなるわけ、ないじゃない」

「な……なにをばかな………!! ありえない!」

「何がどうありえないのか知らないけどこれが事実よ」


 黒ローブが信じられないといった目で見ているけど、エルガルム軍のことごとくを打ち破り、オーガル・ジークロンドとの戦いで無傷のまま制圧し、今ここに立っているというのは紛れもない事実だ。


「最後に言い残す言葉はあるかしら? 聞いてあげるわ」

「……いいのですか? 私が死ねば、何もわからずに終わりますよ?

 フェーシャ王を捕らえていると聞いていますが、あの猫からは何もわからないですよ?」

「それは……フェーシャのことはお前の仕業、と言っているのかしらね」

「そうですね。そう取っていただいても構いませんよ。

 もし私をここで見逃してもらえるのでしたら、出来る限り協力することを約束いたしましょう」


 なるほど、それならこの男を助けることにメリットがある。

 こいつが協力するのであれば、裏で暗躍している国を突き止めるのも造作もないだろう。


「わかったわ」

「それでは助け――」

「物騒な目で助けを乞うような、お前の言葉なんて信用できるわけないでしょ」


 その忌々しい黒ローブの心臓部分に、私は躊躇なく剣で突き刺し、その人生を終わらせてやる。


「がっ…な……」

「嘘か本当かわからないお前の言葉に踊らされるくらいなら、最初から何も聞かないほうがマシね。さようなら愚か者よ」


 最後にトドメと言わんばかりに斬り捨て、息の根が完全に止まるまで冷ややかな目で見下ろしてやる。

 もう少し利口だったら別に助けてあげても良かったんだけど……こうも悪意に満ちた視線を向けられては、ね。

 手にナイフを握ってたみたいだし、大方隙でも突こうとしたのだろう。これ以上面倒事を起こされても困る。


「よろしかったのござりますかな。あやつを捕らえておけば、いくらでも情報は引き出せたでしょうに」


 事の全てが終わったのを見届け、オウキがオーガルを引きずって私のところにやってきた。

 オーガルは口に詰め物された上、縄で縛られていて一切話すことが出来ないようにされている。


「どんな情報も、信じられる部分があればこそよ。拷問なんて時間のかかることする暇があったら国の発展に回したほうがマシ。

 どうせ私を狙って仕掛けてきた訳だし、またなにかの動きを見せるでしょ」

「それはそうでござりますが……」

「あんなもの、生かしておくだけ害といったものよ。さて、と……」


 私はきっぱり捨て、近くで震えているオークの胸ぐらを掴む。


「ひ、ひい!? お、おいら、全然強くないから許して」

「別に取って食わないから。今から『メルトスノウ』を解除するわ。

 お前は万が一残ったやつがいたら、オーガルが討ち取られたことを伝えなさい。わかったわね」

「は、はひいいぃぃぃぃ!!!」


 オークを離してやると、わたわたと走り去っていった。

 その情けない様子を見ながら『メルトスノウ』を解除し、ようやく一息つく。

 オーガルとジークロンドは捕らえ、後ろで散々やらかしてくれた黒ローブは今は息絶え、エルガルム軍はほぼ壊滅状態。

 ここからこの国が巻き返すことなど、もう二度と出来ないだろう。


 今まで苦しめられた国の民、父や祖父に、ようやく報いることが出来たと思う。

 だから、これだけ……これだけは言わせてもらおう。


「父の仇、確かに討たせてもらったわよ」

次の予定は9月17日になります!

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