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聖黒の魔王  作者: 灰色キャット
第9章・上位魔王達の世界戦争
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251・桜スライムとの修練 前編

 ベリルちゃんとの話が終わってまたしばらくの時が過ぎて……再び時間を取ることが出来た私は、朝の兵士たちの訓練場にいた。

 まだ彼ら兵士が来るには早く、静けさと心地よい空気に満ちている。

 ここに来た理由は一つ。時間が取れたからカヅキに会いに来た、というわけだ。


 ……最初はヒューリ王が残りの上位魔王をまっすぐ攻め落としてくると読んでいたのだけれど、実際は近隣の国から順に小中国家を攻め落としている状況が続いている。

 相当な強行軍というべきか、かなりのハイペースで進んでいって、まるで初めから侵略した国を収める気が無いようにも思える程だ。


 恐らくリアニット王がいた周辺はもうすぐ制圧され……ヒューリ王の国の動きは少しずつ南へ向かいつつある。

 西から南……恐らく、リーティアスか、セツオウカのどちらかに。


 北に向かわないのには助かった。

 フワローク・マヒュムのいる二つの国は未だ傷深い。

 今彼に攻められればあっという間に落とされても不思議ではない。


 そして……だからこそ、ヒューリ王はこっちに向かってきているのだろう。

 今の北地域にはこちらを支援する余力はないし、例えセツオウカもしくはリーティアスのどちらかを攻め落としたとしても余裕がある、ということだろう。


 可能性が高いのはセツオウカだろうか。

 こちらはパーラスタと戦ったと言えど、セツオウカに比べたらほとんど無傷と言ってもいい。

 南東には上位魔王である私と、それに準ずる力をもつフェーシャがいる。


 一時的に覚醒魔王として戦えるアストゥがいることも考えれば、クルルシェンドで防御線を張って待ち構える……ということをこちらがしていても不思議ではないと思うはずだ。

 やはり、南への進軍はセツオウカが目的と考えて間違いない。


 それならフレイアールで支援に行ける距離だし、こっちも十分に準備する時間がある。

 少しは余裕があるからこそ、こういう風な時間を作れるとも言えるだろう。


「すぅー……はぁー……」


 朝の新鮮な空気を体中に取り入れ、余計な考えを頭の中から追い出していく。

 こんなにも清々しい気持ちになるのはいつぶりだろうか。

 ……『リ・バース』を使っての徹夜明けだからか、余計にそう感じてしまう。


「ティファリス様?」


 私よりも早くこの訓練場に来ていたカヅキは、彼女がいつもやっている朝の瞑想を終えてこちらを振り向いていた。

 鬼の言うところの『座禅』とやらを組んで静かに瞑想していた彼女は、この世のものとは思えない神秘さに満ちていたけど、今の彼女はまるで研ぎ澄まされた刃のように見える。


 瞑想が刃を鍛える作業であるならば、鍛え終わった直後の刀、とでも言うべきなのかも知れない。


「話しかけたら駄目かと思ってね。ごめんなさい」

「いいえ、謝らないでください。

 むしろ拙者の時間を待っていただき、本当にありがとうございます。

 して、本日はなにか御用でございますか?」


 普段よりも少し礼儀正しいカヅキの近くに歩み寄り、訓練用の刀を二本、彼女に手渡してあげた。


「あ、あの、ティファリス様?」


 なにも言わずに刀を渡してきた私に対し、どこか困惑した様子のカヅキは、たまらずと言った様子で声を上げた。

 そのままカヅキと向かい合うように距離を取って、もう一本、持ってきていた剣をそっと構える。


「いえ、ね。貴女があんまりにも根詰めて修行しているようだから少しお手伝いしてあげようかなって」


 軽く笑う私に対し、キョトンとした表情のまま固まってしまったカヅキ。

 しばらくその構図が続いた後、我に帰った彼女は今度は慌てだして、その様がどうにも可愛く思えてくる。


「あ、あの、わざわざティファリス様に……」

「私も少し身体を動かしたいと思っていたところでね。

 付き合って貰えないかしら?」

「……止められないかも知れませんよ?」


 彼女の雰囲気が一気に変わる。まだ穏やかさを持っていたその様子が相手を見定め、鋭く静かな闘志を満ちた空気をその身に纏っている。

『止められないかも知れない』……その言葉は多分、私にも言えることだろう。


「上等よ。直接魔法で傷つけるのは禁止にしましょう。『クイック』や『ミラージュエフェクト』なんかの補助は有り……それでいい?」

「わかりました」


 ここで完全に魔法や魔導の使用を禁止しなかったのは、純粋な剣の勝負だけでは面白くないだろうと感じたからだ。

 カヅキはしっかりと頷いて、鞘に収められた刀を抜き放つ。


 刃が潰されており、ただただ頑丈であるようにと作られた野暮ったい刀身。

 とてもではないが魂が宿ってるようには見えない程の訓練用と言っても差し支えないなまくら刀だ。


 最近では鬼の兵士も増えてきたり、カヅキの戦い方を見て刀に興味を持った兵士も多くなってきた為、セツオウカの方にわざわざ仕入れてきたというわけだ。


 それに伴い、訓練用の刀も一緒に仕入れて来た結果、それなり扱う者も増えてきた。

 だからこそ、こうやって出来るだけ本来のスタイルでお互い戦えるというわけだ。


「……それでは、参りますよ」

「どこからでも来なさい」


 瞬時に腰を低く落とし、一気に私の方に駆け寄って両方の刀を左右で交差させるように斬りかかってきた。


 ――相変わらず速い太刀筋だ。惚れ惚れするほどの洗練された動き。


 だが、その一撃は読みやすい。

 私は飛ぶように一歩下がり、剣を地面に突き立てるように防御を行い、彼女の初撃を凌ぐ。

 鈍い音が響き渡るが、剣の方には傷はついても折れてはいない様子だった。


 流石リーティアスの訓練用の武器だ。出来るだけ硬く、重く作っていて、耐久性に優れている。

 以前セツキと決闘を行った時のように一合交わした瞬間に壊れてしまっては元も子もないしね。


 流石に兵士たちの間でそんな事が起こるとも思えなかったが、万が一に備えるというのは悪くないものだ。


 私は彼女のこの後の行動は一度飛び退り、距離を取って再び攻撃に転じてくる――そう読んでいた。

 このまま膠着状態を続けても意味がないし、こちらが退く気はない以上、そうしてくるのが定石だろう踏んだからだ。


 だが実際は――


「くっ……はぁっ!」


 彼女はそのままそこで停止し、刀を滑らせて私の剣をすり抜け、そのまま大きく刀を振り上げ……こちらに向かって斬りかかる体勢を取っていた……が、それははっきり言って下策だ。


「残念ね。その程度の動きで私を捉えることが出来ると思っていたのかしら?」


 剣に執着している意味ないし、さっさと手放すように地面に突き刺し、彼女がその刀を振り下ろす前に詰め寄り、身体を地面に着けるほどの勢いで体勢を低くし、下から斜め上に足を突き上げるように蹴りを繰り出す。


「はっ……くっ……!」


 なんとかカヅキは上体を逸らし、間一髪でかわしてはいたが、そのまま攻撃に転ずることが出来ず、結局当初の目論見どおり後ろに下がって距離を取ることになった。


 こちらはそのまま地面に刺さった剣のところまで後退。

 引き抜いて再び構えを取って……カヅキの攻撃を待つ。


「……そちらからは仕掛けてこない、ということですか」

「ええ、私から攻めさせてみなさいな」

「いいでしょう……その気にさせてみせます!」


 更に気合の乗った闘志を宿った良い目をしていて、尚更私を昂ぶらせてくれる。

 だがこれはあくまで訓練だ。それを忘れないように……極力武器を壊さないように扱わないといけない。


 丁度いいハンデだ。

 こちらはじっくりと腰を据えて戦っていくとしようか。

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