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聖黒の魔王  作者: 灰色キャット
第8章・エルフ族達との騒乱
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191・寄り添い生きる、青色の思い

 ――アシュル視点――


 ……最近、すごくモヤモヤします。頭の中に霧がかかっているというのでしょうか?

 胸の中がざわざわして、とても不愉快で落ち着かない、そんな気分。


 理由はわかってるんです。

 ティファさまが連れて帰ってきたベリルさん。彼女が原因なのは間違いないのです。


 だって……だって! 彼女、本当にティファさまにべったりなんですもの!

 朝起こしに行ったら下着姿でティファさまのお隣で寝ていたり、一緒にお風呂に入ったり……そんな事、普段のティファさまなら――あ、いや、私が頼めば多分許してくれるでしょう。


 だって、ティファさまって結構甘いところありますし、優しいんですもん。


 で、でもでも! そんなティファさまの優しさにつけいるように色々仕掛けてくるベリルさん側にも問題があると思うんです!

 一日中べったりしていたり、一人で町に出る時もあるけど、帰ったらその時の話ばっかりして……。


 う、羨ましくなんかないです!

 私だってティファさまとい、いちゃいちゃしたいなとか思ったり、もっと親密になったりしたいんです!


 だから……私は決めました。

 ティファさまがベリルさんに完全に取られる前に、行動を起こさなければならないと。

 だからこそ、ティファさまに時間を作ってもらいたいとわがままも言ったのです。


 そのためには――まず、カヅキさんを討ち取らなければなりません。

 話は、全てはそこからです。






 ――






 早朝、空気の澄んだ朝。

 陽の光が暖かく差し込んで、今日も一日、すごくいい天気の予感をさせてくれます。

 私は静かに歩いていって……館から少し離れた訓練場の方に足を運びました。


 中に入るとそこには兵士たちが普段訓練している熱気が少し残ってるような、そんな感じがしました。

 そしてその中。訓練場の中心とも言うべきひらけた場所で、カヅキさんは座禅と呼ばれるセツオウカで精神集中する時にする座り方をしていました。

 目を閉じて微動だにしない姿は、まるで景色に一体化しているような……そんな気さえするほどです。


 他にも前に私が――確かエルガルムとの戦いの時に一緒に組んだゴブリンズと、フラフも一緒に精神集中しているようでした。


 ちょっと早く来すぎたようですね……。

 少し私の方も急ぎすぎていたと言いますか、ちょっと焦っていたかも知れません。

 仕方ありません。しばらくの間、私も気を鎮めて待つことにしましょうか。






 ――






 少しこっくりこっくり仕掛けた時くらいに、ようやく瞑想の時間が終わったのか、カヅキさんがゆっくりと目を明けて、私の様子を伺っているようでした。


「アシュル殿? こんな朝早くに――って前も同じことがありましたね」


 どうやらあの時の事を思い出していたのか、苦笑いを浮かべながら私のことを見ているようでした。

 確かあの時も私は眠りかけて――いや、ほとんど眠っていましたかね。


 そういえば用件も全く一緒ですし、なんだかこの後の展開も同じになりそうで若干不安を感じてしまいますね……。

 い、いや、弱気になってはいけません。私は決めたじゃないですか。


「前と同じ用件だって言ったら……どうします?」

「ふふっ、面白いですね。なら、それがしも再び受けて立ちましょう」


 ゆらり、と立ち上がったカヅキさんは武人と呼ばれるのにふさわしい立ち居振る舞いをしているように見えました。

 相変わらず袴姿に白い布のような衣服を纏っていて、巻いてるサラシが横から見えたりわきが見えたりと色々開放的な衣装なのに、隙は全く開放的じゃないです。


「いま、失礼な事を考えていませんでしたか?」

「き、気のせいだと思いますよ」


 勘の鋭い方です。うかつに変なことを考えることも出来ません。

 私が訓練場の中央に歩いていくと、ゴブリンズの一人がカヅキさんの方に向かって声をあげました。


「カヅキ様、ボクらどうすればいいス?」

「見ることもまた訓練になります。四人とも、全員少し離れてください」

「わかった」


 フラフが頷いてゴブリンズ達と遠くから観察するのを見て改めて私に向き合うように対峙しました。


「アシュルさんと試合をするのはいつぶりですかね」

「一年ぶり、ですね。でも……今度はあの時のティファさまと同じくらい本気で戦ってもらいますよ」


 私の言葉がよほどおかしかったのか、本当に楽しそうに笑って――本気の視線が私の事を射抜くように見据えています。

 顔は笑っているけど……目は全く笑っていません。


「面白いことを言いますね。それがしの本気、容易く引き出せるとは思わぬことです」


 それをきっかけに、私とカヅキさんはお互いに神経を集中させ、ゆっくりといつものように魔導を使います。

 いつものイメージ。『人造命具』によって生み出された私だけの剣の具現化。


「『人造命剣・クアズリーベ』!」


 私の魔導と共に左胸から飛び出すように現れた剣柄を思いっきり握りしめ、その水の剣を抜き放ちます。

 ティファさまに教えてもらってからずっと愛用している私の剣。私自身の魂。

 それをしっかりと構え、カヅキさんは自分の愛刀である刀の内一振りを抜き放ち、両手で構えました。


 ……なるほど。あくまでこちらを試すというわけですね。

 ならばいいでしょう。私も悪魔族との戦争後、なにもしていなかったわけではありません。

 重ねた修練の成果を、今こそ見せるときです!


 私はクアズリーベを握りしめ一気に詰め寄り、左斜めから振り下ろすように斬撃を加えました。

 様子見の一撃は鈍い音を立てて刃を交えていきます。


 幾度かの剣戟の後、私は一度後ろに下がり、クアズリーベで普通の剣では届かない範囲にいるカヅキさんに対し、鋭い斬撃を繰り出しました。

 すると、その斬撃はそのまま水の刃を出現させ、カヅキさんに攻撃しました。


 カヅキさんは一瞬驚いてはいましたが、冷静に対処されてしまいました。


「さすがカヅキさん、あっさり防がれてしまいましたね」

「ふっ、アシュル殿こそ。随分腕をあげたじゃないですか。

 貴女も研鑽を積んできた、というわけですね」


 私を認めたかのようにもう一本の刀も抜き放ち、カヅキさんは本来の戦い方で私と相対してくれました。

 私も自分の頭上に振りかざし、その軌道から水の剣を生み出しました。


 カヅキさんと同じ二刀流。それともう二本。

 私の肩の上付近を滞空していました。


 私の構えを見て、多少怒りが混じったかのような視線をカヅキさんは放っていました。


「二刀流……それがしの真似をすれば……手数が多ければなんとかなると思っているのですか?」

「ふふっ、本当にそう思っているかどうか……試してみてくださいよ!」


 私は再び駆け出し、右から鋭い突きを繰り出し、防がれた瞬間、体を翻して、左から振り上げるような一撃を放つ。

 カヅキさんも私の攻勢の合間を掻い潜るかのように左右から反撃を加え、互いに拮抗した攻め合いに発展していきました。


 互いに命を脅かすほどの苛烈な攻撃を繰り出しながら、私は冷静に隙を伺い……そのタイミングを見つけました。


「今です!」


 私はずっと滞空させていた剣の一つに魔力を込めてカヅキさんに向けて射出しました。

 カヅキさんはそれを大きく飛び退るように回避しましたが、それも狙い通り。


 地面に深々と突き刺さった水の剣はそのままカヅキさんの足元から大きな刃を出現させました。

 それを読んでいたかのように一旦飛んで、ギリギリのところをかわしていました。

 しかし、私の方もそうなることは予想していたため、手に持つ水の剣を投げつけ、そのまま駆け出しました。


「くっ……!」


 私が投げた水の剣を弾き飛ばしたカヅキさんの隙をつくかのように最短の動作で突きを放ち……後少しのところでカヅキさんの手に持つもう一本の刀で上手く軌道を逸らされ、カヅキさんの肩に浅く突き刺さる結果に。


「くっ……痛……!」


 前の私だったら予想外の攻撃を与えてしまったと動揺してしまったはずです。

 だけど、これは私が挑んだ真剣勝負。

 殺す気は無くても、多少の傷を負わせてしまうのも当たり前。


「……ふふっ、なるほど。本当に、ずいぶんと強くなりましたね。

 ならば、それがしも全力で応えましょう」


 今まで違った力の気配を感じ、私は警戒心を強く持ち、クアズリーベを身構えました。

 これからが本当の勝負。私が望んだ……ティファさまを除いた、現リーティアス最強との戦い。

 胸の高鳴りが抑えきれず、人知れず笑いがこみ上げ――私はさらなる魔導の解放を望むのでした。

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