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聖黒の魔王  作者: 灰色キャット
第4章・南西地域の騒動と平穏
131/337

118・南西魔王連合、結成

ちょっと変更です。

ロマンの眼鏡有り→眼鏡なし

アストゥの髪色が薄緑→薄黄になりました。

「わかったわ。ビアティグの覚悟、伝わってきた」


 しっかりと噛み締めるように私がその言葉を口にすると、アストゥはもう半泣き。

 ビアティグは諦めたような表情を浮かべながらも、どことなく安心しているような顔をしていた。


「ビアティグ王、貴方の国は私が貰う。貴方は私の代理としてそこを治めなさい。それで手打ちにしてあげるわ」


 驚いた表情のビアティグと泣くことを忘れて呆然としている姿を晒しているアストゥ。

 全く……私が本気で『隷属の腕輪』を使うわけがないだろう。

 あんな非道な――外道の道具なんて使う必要はない。


「まさか、本当に使うと思ってた?」

「あ、あああ、あ゛、当だり前でじょ! あんな、ごえで言うんだもん゛! ほ、ほんぎにしぢゃうでじょ!」


 完全に子どものそれになって泣きながら喚き散らすように私の胸をぽかぽかと叩いてくる。

 それだけビアティグの事を心配していたのだろう。ま、仕方ないということか。


 私もちょっと本気の空気を伝えすぎたというか……やり過ぎた感はある。

 現にビアティグどころかフェーシャさえもどこか安堵したような表情を浮かべてるし、小声でなにか呟いているようだった。


「ほ、本当にそれでいいのか……? 本当に……」

「その代わり、一つだけ条件を出すわ」


 ゴクリと喉を鳴らしながら私の言葉を待つビアティグ。なんとなく死刑判決を受けるような囚人のようだった。

 私としてはどうしても譲れない条件の一つ。それは反エルフ・魔人族派のことについてだ。


「貴方の国にいる反乱分子の全てを一掃する。これだけは必須の条件よ」

「……わかった。仕方のないことだ」


 項垂れるような感じだったが、それだけで済んで良かったという安堵感のほうが強かったのだろう。

 なんというか、いかにも崩れ落ちそうな様子で完全に力が抜けて立ち上がれないと言った有様だった。


「……はあ、なら自分も振り上げた拳をさげるしか無いですわ。グルムガンドがティファリス女王の属国になる言うんでしたら、使者の一人や二人牢に入れられても目をつむるしか無いです。貴女には返しきれない恩がありますからな」


 そういうのはさっきまで冷徹な顔をしていたフォイルとはかけ離れた姿をしている。

 彼も彼なりにセントラルの荒波に揉まれてきたというわけだろう。


 そのおかげで私の演技もフォイルのおかげでさらに迫力を増したというわけだ。

 ビアティグが頭を下げた時点でここまでの道筋を描いていたと言わざるを得ないほどのスムーズさを感じた。


「それで、アストゥ女王の方はどうされるんです?」

「う、うぅぅ……ぐす、ぐしぐしゅ……決まってるでしょ! 許すに決まってるじゃない!」


 もうどうにでもしろ! と言わんばかりに怒鳴りながら嬉しそうに泣いている。

 アストゥの方も随分と感情豊かなものだ。コロコロと変わるのがまた子どもらしい。

 なにはともあれ、これでグルムガンドは私のモノだ。ビアティグには私の下でしっかりと働いてもらおうじゃないか。






 ――






 その後の私達はすぐさま別の方向に話を移すことになった。

 そう、悪魔族と『隷属の腕輪』についての話だ。


 南西地域では魔人・エルフ・猫人族といった上位魔王の使者と思しき連中が様々な思惑で私達を撹乱し、洗脳されてきたのだ。

 だけどこれがもし……もし全てがたった一つの種族の仕業だったら?


 もちろん、セツキの言う通りエルフ族の上位魔王であるフェリベルが後ろで色々やってるのはまず間違いないだろう。

 だけどとても一国だけの仕業にも思えないし、かと言って三つの国がそれぞれの思惑を持って絡んできたにしては使者を差し向け、魔王を操ることといい……どうも似たようなパターンばかりだ。


 また、それの延長で『隷属の腕輪』に抵抗するにはどうしたら良いのか? という話も上がっていく。

 が、こちらの方は結構あっさり解決することになった。まず私から率先して試していき、一人一人抵抗できるか確認したのだ。

 最初は全員渋っていたが、私が自ら進んで行なった事もあり、結局ビアティグを除いた全員で試すことになった。

 ……これは『ヴァイシュニル』で無効化出来る私には全く危なげないものだったんだけど、他の魔王たちはこれを知らないからこうなるのも無理はない。言わぬがなんとやらだ。

 その結果、アストゥ・フェーシャは洗脳を受けず、若干思考にモヤがかかる程度に留まった事がわかった。


 アストゥは他の能力がほとんど低い代わりに、魔力だけは覚醒魔王並まである。

 フェーシャはケットシーに教えてもらって修練を重ねていたそうだし、ケルトシルに帰ってからも自己研鑽に余念がなかった。

 恐らくセントラルにいる魔王クラスまで魔力が高まっているのであれば、抵抗するのも難しくないだろう……というのが結論。

 まあ、考えてみたら当然か。セントラルの魔王でも操れるなら、とうの昔にセントラルはフェリベルのものになっていることだろう。


 これからビアティグ・ジークロンド・フォイルの三名はアシュル・ケットシー・フェーシャの三人がみっちり修練を施すことになった。

 これも『隷属の腕輪』の洗脳から逃れやすくするためのことだから仕方ない。


 そして話は、もう一つの話題である悪魔族に移る。


「悪魔族……か」


 苦い顔をしているジークロンドはぼそっと呟いているの見て、他の面々も渋い顔をしていた。

 それもそうだ。今までエルフ族だと……魔人族だと思っていた黒幕が実は悪魔族だったという可能性も大いにあるわけだ。

 一歩前進した。だけど、それ以上にこの後の道筋がまるで見えなくなってしまった感がある。

 私達を疑心暗鬼にするのが目的だというのであれば、上手くいっていると言えるだろう。


 なにせ国民の中にどれだけ悪魔族の者がいるかわからない。

 下手をしたらのうのうと城を出入りしている可能性もあるのだ。これでは、迂闊に人を信用することすら出来ない。


「だけどだけど、強い悪魔族じゃないと変化できないんでしょ? だったらそんなに多くはいないんじゃないかな?」

「そうかも知れんし、違うかも知れん。憶測でしか語れない以上疑念は拭えないだろう」


 ジークロンドの言うことももっともだ。

 実際どれだけの人数がこの地域に入り込んでるかわからないんだから、何を考えても机上の空論と言うやつだろう。


「……このままじゃキリないニャ。ボクはたとえそれでも国民を守るために信じて戦うニャ。それが魔王として立つ者の責務だと思うニャ」


 フェーシャの発言に辺りは静まり返ってしまった。

 そう、私達は国を背負って戦っている。国民を守る為に今ここで話し合っているんだ。

 それなのに悪魔族の話をして、一瞬でも疑惑の目を向けてしまった自分が恥ずかしい、と。


 フェーシャの方が今はよっぽど魔王らしく感じてしまう。


「その通りやな。自分も何のためにここに来たんか見失ってましたわ。悪魔族が入っている可能性は考えた方がええでしょう。でもそのせいで国民全体を疑うんは悪い言うことですな」

「……そうだな。俺がこんな事言うのもなんだが、疑心暗鬼になりすぎたせいで第二のエルガルム・グルムガンドを生まないで欲しい」


 フォイルの言葉にウンウンうなずきながら静かに語るビアティグの言葉は流石というかなんというか……重みがあった。

 エルガルムの魔王は私的にすでにどうでもいいんだけど、グルムガンドのような不幸が起こらないためにも、私達は頑張らなければいけないのだ。


 フェーシャが改めてそれを教えてくれた。

 最初に出会った時はどこかの上位魔王かもしれない輩に操られていて、どうしようもない馬鹿猫だったのに……すっかり立派になって……。


「な、なんでそんな目をしてるのニャ。まるでぼくを苦労して育ててくれた親みたいな生暖かい目をこっちに向けるのはやめて欲しいニャ!」


 気まずそうに私の方から視線を逸らしているフェーシャに向けて、感慨深い目でしばらくの間見つめている私であった――。





「こほん」


 誰かが咳払いを一つしたと思ったら、場は一気に冷静さを取り戻したようだ。

 少なくとも悪魔族の話をしていた時の不安感・閉塞感は一気に消し飛んでいた。


「ボクたちはより一層自分達を、国を信じて行動しなければいけないと思うのニャ。だったらそれには……一つの強い国の下、まとまっていくのが一番だと思うのニャ」

「強い国の下に……属国になる言うことですか?」


 確かにそれも一つの可能性かも知れない。

 他国の……他の魔王が支配している国ばかりだから疑ってしまう。そういう面も少なからずあるだろう。

 それならば、より信じられる魔王の庇護を受け、その王に尽くすことで疑惑の目を多少なりとも解消するというのも手というものだろう。


 だけれどそれは一歩間違えれば悪魔族の支配下に置かれているであろう魔王の下につくかも知れないという可能性だ。

 それを一切考えてないかのような提案だけれど……どういうことだろうか?


「ええ考え思います。というか自分もそれしかないんじゃないかと思うてました。互いに疑いすぎていざという時に連携図れないんじゃ意味ないです」

「その通りだニャ。ボクたちは弱い魔王ニャ。でも、だからといって諦める気なんてさらさらないですニャ。それなら少しでも信頼しあった関係を築いて、ボクたち自身も含め、国をより盤石にした方が懸命ですのニャ」


 それからなぜかフォイルもフェーシャも私の方をちらちらとこっちを見ていた。

 そう、あんまりにも熱心に注視している。そのせいで他の魔王達も私に目を向けてきてしまう。も、もしかして……。


「その上に座る魔王の役割を私がしろ……そういうの?」

「いやー、流石ティファリス女王! 話わかりますねー!」

「グルムガンドがリーティアスの属国になると聞いてこれだ! と思ってましたニャ」


 二人がそんな風に私に期待を抱いた目を向けてくると、残りの三人の魔王もうんうんと頷いているようで……この流れはもう止まらないような、そんな気がしていた。


「悪魔たちの影響を受けてるんだったらビアティグちゃんのこと、もっと酷い扱いしてただろうし、なんだかんだいってティファリスちゃんは優しいもんね!」

「ワシも一度ティファリス女王には完膚なきまでに叩きのめされた部類だ。その強さも、求心力も十分にあると思う。ワシらが国内で地力を強化し、ティファリス女王が国外で支え合っていくような関係を築ければ良いのかも知れんな」


 わー……どんどん話が進んでいってしまっている。

 ここで私が辞退するなんて言ってしまったら非難轟々。何を言われるかわかったものではない。


 しかもアストゥとジークロンドも乗り気で……いや、こいつら……。


「もしかして……そういう予定だった?」

「何の話だ? ワシは自国のことしか考えておらんからな。自然とそうなっただけよ」

「私もだよ! ビアティグちゃんや私自身のこと……これから先のこと。色々考えたんだ。だから、私も同じこと考えてたんだ!」


 まるで示し合わせたかのようにそんな事言うもんだから余計に勘ぐってしまった。

 とは言ってももう遅い。私は見事、彼らの術中にはまってしまったのだろう。


 その後はトントン拍子で話が進み、既に私は蚊帳の外。

 アストゥに助けを求めてみても、余計に尊敬の念を込めた視線を向けてくるだけ。

 フェーシャの付き添いでやってきたであろうカッフェーになんとかしてくれと願いを込めてみるも、予想通りだと言わんばかりのしたり顔で私の方を見ていた。


「それではここに、南西魔王連合を結成しようと思いますニャ。盟主はティファリス女王。ぼくたちは全員この方の傘下に入るということでよろしいですかにゃ?」

「「「「異議なし!!」」」」


 いや、異議なし! じゃないから。

 だけど彼らの想いは伝わってきた。誰も彼も自分の国を心底愛してる人達ばかりだ。

 だから、他の魔王達にこんな侵略を受けるのが許せないのだろう。


 ……仕方ない。私がどこまで出来るかわからないが、やれるだけやるしかないだろう。

 自分も国も守るために私の下につくという覚悟を見せてくれた南西地域の魔王達に、私も同様に背負う覚悟を示していくだけだ。


 こうして私の国リーティアスは南西地域連合国として大幅に支配地域を広げたのであった……。

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